今、職場の人権を考える~セクシュアル・ハラスメントを一掃するために

神奈川県本部/川崎市職員労働組合・女性部

 

1. はじめに

 川崎市職労は、セクシュアル・ハラスメントを人権及び人格権侵害と快適な職場環境を阻害する要因と位置づけ、労働組合として放置できない重要な課題として、その摘発と一掃にむけた粘り強い活動に取り組んできた。
 1997年6月の法改正により『男女雇用機会均等法」に「セクシュアル・ハラスメント(以下「セクハラ」)の雇用管理上の配慮義務」(1999年4月施行)が規定された。そのため、それまでの啓発活動とは質を異にした、具体的な施策の対象としてセクハラ防止対策が位置づけられることとなった。川崎市においても、他都市に先駆けた施策や取り組みが進められていった。
 本稿では、川崎市のセクハラ防止施策が、立ち上げの段階から労使により構築されたことを評価し、その実施の課程で取り組まれた川崎市職労の活動を、①雇用管理上に配慮義務についての周知・徹底の要求、②セクハラ防止対策のためのリーフレットの作成と職員への配付、情報の提供、学習機会の提供の要求、③人権意識の向上と意識改革に向けた活動の推進、を柱に報告することとしたい。

2. 川崎市職労の取り組み ― 98全国現業統一闘争期 ― 

 川崎市職労は、「セクハラ」を一掃するための運動を、法改正以前から進めてきたが、1998年の全国現業統一闘争期の現業評議会と女性部の提携した取り組みを契機に、具体的な前進を見ることができた。
 1998年に市職労現業評議会は、98全国現業統一闘争方針として「…労基法、均等法改正等、法改正にともなう女性の権利の確立」をうちだし、同年9月3日、市当局に対し、「諸施策の具体化をはかるとともに、それにともなう職場環境の改善を行うこと」との申し入れを行った。
 同年9月21日、セクハラ対策を「雇用管理方針とし相談窓口の設置や専門家の配置など検討を進めていく」「市職労女性部との意見交換会などにより、女性職員の意見を十分に反映させる」との第1次回答を引き出した。11月4日、直接当局との事務折衝権を持たない女性部の意見を反映させる場として、女性部役員2名が現業評議会とともに折衝テーブルについた。そして、労使双方から成る労働安全衛生委員会をモデルとしたセクハラ防止対策委員会の設置や、防止・啓発・相談窓口を柱とする施策の必要性を訴えることができた。また、この当時、市当局(人事部労務課)が招集していた男性のみ7名を構成とする仮の準備委員会に女性委員を加えるよう補強修正も行った。具体的な意見交換の内容は下記のとおりである。

セクハラ防止施策に係る市職労本部・女性部・現業評議会との意見交換の内容
(1998.11.4)

組 合 側 の 意 見 ・ 要 望 等 当 局 側 の 対 応(案)
 組合としては、セクハラ防止施策策定の初期の段階から係わって、意見・要望等を反映させていきたい。そのためにも、労使セクハラ防止委員会のようなものを設けて、定期的に開催し労使双方の情報交換の場としたい。  意見交換会を随時開催していくことを考えている。
 プロジェクトチームに組合のメンバーを入れる。(案)
 現段階では、セクハラ防止施策策定に当たっての当局側の基本的な方針、プラン等がはっきりわからない。  セクハラ防止施策策定に当たってのプロジェクトも立ち上がったばかりで、その検討内容も当局として意見統一されたものではない。今後とも検討内容について随時、組合に報告したうえ、意見交換を行い、よりよいものにしていきたいと考えている。
 相談窓口は、型どおりのものを設置すればよいということではなく、相談者が何の不安もなく、気軽に相談できるようなものにしてもらいたい。  組合の意見、要望等を踏まえながら相談窓口の活用等について検討していく。
 職場の中で、被害者がコソコソ小さくなって相談に行くこともできないような状況は絶対にあってはならないし、是非ないようにしたい。そのためには、例えば組織の中で課長がセクハラ行為を行っている場合は部長が注意するなどの仕組みを行い、その仕組みがしっかりと機能しているかどうかを点換する委員会なども必要ではないか。

 相談窓口設置時点から実際に相談があった事例を類型化して対応パターンや仕組み作りに役立てていってはどうか。

 確かに、勤務時間中に被害者が相談に行くことは難しい問題があり、今のところ相談時間は時間外を想定している。
 セクハラ問題は、いろいろなケースが想定され、ケースバイケースで対応することが必要であると考えている。したがって、ただ単に縦割りの仕組みだけを作ればそれで済むというものではないと考えており、あらゆるケースを想定した仕組み作り等を検討するとともに、相談窓口設置後もよりよい仕組みになるよう努めていきたい。
 セクハラ防止の啓発、施策の周知等については、どのように考えているか。  研修所を中心とした職員研修における啓発・周知、「れいんぼう」への掲載、さらに職員向けのパンフレツトを考えている。
 プロジェクトの構成は。

 プロジェクトのメンバーにもっと女性を入れてもらいたい。

 今のところ、人事課、労務課、職員厚生課、研修所、行政システム推進室、女性行政推進室、教育委員会人権・共生教育担当がメンバーとなっている。
 プロジェクトチームに組合、特に女性部のメンバーを入れる。(案)
 相談窓口には、どのような人員配置を考えているか。  まず、受付用人員として、女性管理職を中心とした管理職配置を考えている。
 組合側の人員も配置するか。(案)
 相談員は非常勤嘱託員を考えている。また、調査など実際に動くのは人事部門の職員を考えている。
 現状では、セクハラ問題を相談できる仕組みがないが、相談窓口の設置によって、その面で一歩前進するわけで、いままでなかったものなので暗中模索になる部分もあるかもしれないがまず立ち上げて、その動向を見守りながら、問題等が浮かび上がれば、労使双方で検討していくというようなことでよいのではないか。
 今後も、当局側の検討経過について報告してもらい意見交換をしていきたい。
 今後も、このような意見交換の場を設けていく。

 

 その後、正式に「セクハラ防止対策検討委員会」を立ち上げ、「川崎市セクシュアル・ハラスメントの防止に関する要綱」の作成に取り組むこととなった。
 検討委員の構成は下記のとおりである。

総  務  局 庶務課
人事課
労務課
職員厚生課
職員研修所
1名(男性)
3名(男性2・女性1)
1名(男性)
1名(女性)
1名(女性)
市  民  局 女性行政推進室
人権共生推進
1名(女性)
1名(女性)
教 育 委 員 会 教職員課
人権共生推進
1名(男性)
1名(女性)
人 事 委 員 会 調査課 1名(男性)
市職員労働組合 女性部 2名(女性)
市教職員組合 女性部 1名(女性)

                    合計 15名 (男性6名・女性9名)

3. 「川崎市セクシュアル・ハラスメント防止対策委員会」とセクハラ防止対策

 検討委員会での協議を受けて、川崎市は、1999年4月に「川崎市セクシュアル・ハラスメントの防止に関する要綱」及び「川崎市セクシュアル・ハラスメント防止対策委員会運営要綱」を施行し、「川崎市セクシュアル・ハラスメント防止対策委員会」(以下「対策委員会」)を正式に設置した。対策委員会には、先の検討委員会に引き続き、労働側の代表として女性部役員(女性部長)を派遣している。
 要綱は、「セクハラ」を「個人としての尊厳を不当に傷つけ、その働く権利を侵害する行為」(第2条)であると規定し、「職場内、または職場の人間関係の延長線上で行われた性的な言動」(第3条)と定義も明確にしている。さらに、管理職の責務や研修、苦情相談窓ロの設置などの具体的な施策や「対策委員会」の設置も盛り込まれている。
 なお、要綱施行にあたり、当局が全職員に配付したリ一フレット「セクハラをなくそう! なぜ問題なのか。どうしたらよいのか。快適な職場環境の確保のために」(A4版4枚1999年3月)は、セクハラに対する基本認識をはじめ、その対応措置や管理職の責務、苦情相談窓口の設置など、要綱の内容をわかりやすく掲載している。とりわけ、相談窓ロは、①匿名での相談受付、②専門職による直接面談(嘱託相談員の女性弁護士)、③時間外(17時~20時)面談、④職場と隔離した弁護士事務所内での面談と、プライバシーの尊重を配慮しており、他都市にはない川崎市の特徴となっている。(別紙資料)また、2000年版の川崎市職員手帳に折り込む形で「セクハラ防止マニュアル」が全職員に配布され、(1999年12月)セクハラ防止対策の周知徹底が行われている。

4. セクシュアル・ハラスメントを一掃するために

 川崎市職労は、要綱の内容や一連の施策に、女性組合員の要求や考え方が反映されたことを評価し、「セクハラ」問題の解決にむけた運動の前進と受けとめている。しかしながら、相談窓口がほとんど活用されていないことを始め、組合員が制度を有効に活用しているとは言い難く、労働組合としても、そうしたことの原因調査とサポートの必要性が問われることとなった。
 「セクハラ」は、女性が対等なパートナーとして認められていないことを要因として発生する問題である。ここ数年の間に、男女平等を推進するための法律が整備され、男女共同参画型社会に向けた社会的気運も高揚してきたことは否定しないが、男女差別の慣習や性別役割分業を前提とした社会システムが根深く残っていることは否めない。「セクハラ」問題も、その延長線上にあることを常に意識して、あらゆる角度から解決をはかっていくことが必要であろう。
 こうした見解のもと、川崎市職労は、「セクハラ」を未然に防止するために、人権意識を向上させるための啓発及び学習活動の積極的な開催や、「セクハラ」が発生してしまった場合、被害を受けた職員が迅速に相談窓ロを利用できるようサポートするためのきめ細かな対応を考えている。そして、多くの場合、被害者になりがちな女性の人権を守る立場から、男女平等の良好な職場環境を構築するという理念に基づいた「セクハラ防止」の運動を引き続き取り組んでいく方針でいる。

5. 川崎市職労女性部の取り組み

 女性部のセクハラ防止に関する最近の取り組みは下記のとおりである。

1998年6月 98市職労新入組合員歓迎集会 スタンツ(寸劇)セクハラをテーマとした新人の寸劇…脚本は組合が作成
1999年6月 99市職労新入組合員歓迎集会 スタンツ(寸劇)セクハラをテーマとした新人の寸劇…脚本は新人が作成
1999年9月 ジェンダーフリーかわさき(男女が共に担う自治労かわさき計画)「セクハラ防止について」の学習会の開催
2000年3月 99春闘青年女性課題別学習会
「今、職場の人権を考える…セクシュアル・ハラスメントを一掃するために」
       講師:日本女子大学講師 秋葉ふき子氏
2000年5月 第8回女性部常任委員会学習会
「セクハラ防止と川崎市のセクハラ防止施策」
       講師:川崎市セクハラ相談員 弁護士 横溝久美氏
2000年5月 女性部「セクハラ一掃キャンペーン」
セクハラ一掃のキャッチコピーを市職労機関紙・女性部ニュース紙面で公募し、優秀コピー3点を選出。パンフレット・名刺大ステッカーを作成のうえ、職員家族大運動会で花の苗と一緒に配布。
職員のみならず広くセクハラ一掃を呼びかけた。

 

セクシュアル・ハラスメントに関する苦情・相談の窓口