心豊かな出雲の創造を男女共同参画の実現から
― 男女共同参画による出雲市まちづくり条例 ―

島根県本部/出雲市職員労働組合 

 

1. 条例制定の背景

 「出雲神話のふるさと」として名高い歴史と美しい自然に囲まれた本市は、島根県東部にある県内最大の出雲平野のほぼ中央に位置しています。豊かな自然と社会経済環境に恵まれ、「出雲・宍道湖・中海地方拠点都市地域」の中核都市として、21世紀に向けて着実なまちづくりを進めています。
 一方、男女共同参画の視点から見ると、本市においては、都市化が進む反面、閉鎖的・封建的な面もあり、古くからの慣習や伝統的なしきたりなどが市民の生活に少なからず影響を与えています。自治会活動や冠婚葬祭など、生活の様々な場面で、性別による固定的な役割分担や女性は控えめであることを求められることから、意見を言いにくい風潮がみられます。このため、多くの女性が、家庭、地域、職場等で制約を受け、自己実現の機会を逃してきたものと思われます。そして、女性自身のなかに、このことを容認する意識があることも一因としてあるように思われます。
 このような状況を見るにあたり、男女共同参画の推進は、地方からの取り組みこそ、必要かつ、緊急な課題であると痛感しました。

2. 条例の制定

 出雲市においては、1996年7月に県内初の女性センターを設置、同年、文部省の委嘱事業である青年男女の共同参画セミナーを開催、また、著名な講師を招いての講演会開催など、条例制定も視野に入れながら、男女共同参画の必要性を訴え、啓発に取り組んできました。
 この間市職労は、先ずは地域活動の中心となる連合地協と連携をとり講演会などへの参加を呼びかけてきました。また、平行して単組女性部での「男女共同参画」研究グループによる自主研修も行いました。
 一方、国においては、1999年6月に男女共同参画社会基本法が制定され、地方公共団体においても、地域の特性に応じた施策を策定・実施することが求められました。
 市では、同年7月に「出雲市男女共同参画のまちづくり懇話会〔6名の公募委員を含む20名(女性11名、男性9名)で構成〕」を立ち上げました。この懇話会には、労働界より1名の委員(連合役員)を参加させることとし、計7回にわたる会議と3回の公聴会が開催され、また、ファクシミリ、インターネットなどを通じた意見収集も行うなど、多くの市民からの意見を集約した意見書がまとめられました。この意見書を踏まえ、2000年3月議会に「男女共同参画による出雲市まちづくり条例」を提出し、3月24日、全会一致で可決、同日公布・施行しました。

3. 条例のポイント

① 名称を「男女共同参画による出雲市まちづくり条例」としたこと。
  この条例は、「出雲市福祉のまちづくり条例」「出雲市文化のまちづくり条例」「出雲21世紀産業振興条例」に続く、4つ目の“まちづくり条例”として、男女共同参画を今後のまちづくりの重要な柱と位置づけています。
② 前文を有していること。
  前文のなかで、我が国及び出雲市の歴史、現状を明らかにし、男女共同参画社会の構築に向けた強い思いを述べています。長い歴史の中で培われてきた古い体制・体質を打破し、市民の急速な意識改革を図るためには、地域の特性や特色を踏まえた、主体的かつ実践的なガイドラインとなる条例を制定することが、極めて意義深いものと考えられます。
③ 「ジェンダー」を定義したこと(条例第2条)
  男女共同参画とジェンダーに対する問題意識や認識をひろめていくために、条例のなかでジェンダーを定義しています。
④ 4つの基本理念をもとに、まちづくりを進めること(条例第3条)
  「人権の尊重」「自己決定権の確立」「平等・対等な参画と責任の分担」「個人の尊重と共同参画」の4つを基本理念に男女共同参画によるまちづくりを進めていくこととしています。
⑤ 実現すべき姿をわかりやすく、具体的に明記していること(条例第4条)
  “「男だから」「女だから」といったジェンダーではなく、それぞれの個性を重視し、「その人らしさ」を大切にする家庭になること。”など、実現すべき姿を家庭、地域、職場、学習・啓発・意識改革ごとに分かりやすく述べています。
⑥ 性別による権利侵害を禁止すること(第5条)
  何人も性別を理由とする権利侵害、セクシュアル・ハラスメント、夫婦間を含む男女間の暴力・虐待を禁止するなど、国の男女共同参画社会基本法からさらに踏み込んだ内容としています。なお、懇話会の意見書のなかには、違反者に対して、指導、勧告、公表などの措置を講じるべきとの意見もありましたが、次の事柄を考慮し、罰則規定は見送ることとしました。(ア)現在、私人間のトラブルに対しては、裁判所、人権擁護委員(法務局)、保健所など、対応できる体制があること、(イ)市の役割は、市民の訴えを受け止める受け皿となり、積極的な啓発、解決に向けた組織づくり等を第一義的なものとすべきであり、個別の事案を判断し、制裁することではないこと、(ウ)個人のプライバシーに関わる問題に対し、どこまで関わることができるか慎重を期することが必要であり、また、事実認定のための調査が、市としてどこまで可能か疑問が残ること、(エ)加害者・被害者いずれかの訴え、相談等に対して、結果的に市長が判断することとなり、このことは、行政の司法権への介入となる恐れがあること
⑦ 市の人事管理等において、率先して、男女共同参画の実現に努めることを明記したこと(条例第6条)
  人事管理及び組織運営において、市自らが率先して、模範となることとしています。
⑧ 推進委員は、市民の良き相談相手となり、啓発活動に取り組むこと(条例第8条)
  推進委員は、審議・調査のみにとどまらず、積極的に意見・苦情等の情報収集、啓発活動を行い、市長に意見具申することとしています。
⑨ 推進委員会は、市長への答申や建議を行うこと(条例第9条)
⑩ 苦情相談窓口を設置すること(第10条)
  苦情相談窓口に男女共同参画アドバイザー5名を配置し、他の苦情相談処理機関等と連携をとって、相談者への支援を含め問題の解決に努めることとしています。
⑪ 具体の行動計画を策定すること(条例第11条)
  今秋に総合的かつ具体的な施策を取りまとめ、『男女共同参画による出雲市まちづくり行動計画』を策定することとしています。なお、行動計画の策定にあたっては、原案づくりを市職員で構成するワーキンググループで行うこととし、そのスタッフには市職労から書記長も加わる中で、「2000~2001年自治労 地域・自治体政策集」における男女平等政策も参考にしながら取り組んでいます。
 男女共同参画社会は、条例が制定されただけで実現するものではありません。条例の制定は、市民が男女の人権や参画について認識を深めていく、はじめの一歩に過ぎないと考えています。個々の女性が自ら意識と能力を高め、政治的、経済的、社会的及び文化的に力を持った存在になること(エンパワーメント)を目指さなければなりません。男性もまた、社会の在り方や意識・行動を変革していかなければなりません。まさに、市民一人ひとりが自らの問題として捉え、市民総参加の運動として盛り上げていかなければなりません。
 終わりに、今、全国の多くの自治体で、男女共同参画条例制定に向けた取り組みがなされています。全国でも有数の保守王国であり、また、封建的色彩も強い島根県の出雲市から、『男女共同参画による出雲市まちづくり条例』が全国に向けて発信され、それぞれの地域でそれぞれの特性を生かしたまちづくり、男女共同参画が推進されることを願っています。そして、21世紀に向けて、男女の対等なパートナーシップによる真に心豊かで活力あるまちづくりが展開されることを願っています。


男女共同参画による出雲市まちづくり条例

平成12年出雲市条例第1号(平成12年3月24日)

    目 次
     前 文
    第1章 総則(第1条-第7条)
    第2章 推進体制(第8条-第10条)
    第3章 行動計画等(第11条・第12条)
    第4章 雑則(第13条)
     附 則
     前 文
 我が国は、長い歴史と伝統の中で、武家社会がもたらした家父長制や儒教思想などの影響もあり、男尊女卑の性別役割意識や社会慣行が永年にわたり根強く残存し、政治・社会・経済・文化の諸活動における女性の役割や行動がとかく多様な制約を受けてきたところである。
 我が出雲市も、東は神話の舞台斐伊川に、西は白砂青松の長浜海岸に、南は豊かな水を育む中国山地に、北は急峻な北山山系に、四方を囲まれた出雲平野にあり、外部からの影響や刺激も少なく、人々は往古から営々として、清流に緑滴る豊饒の地で自給自足の温和な地域共同生活を営んできた。こうしたことから、今日においても、旧来の社会慣行やしきたりのなかで、女性の家庭、地域、職場などでの活動が往々にして制約を受ける状況が見られ、各人の能力や個性、適性に応じた自己実現の機会がややもすれば阻害されてきたところである。
 かくのごとき状況下において、我が国でも、戦前の参政権の獲得を中心とした女性解放運動など幾多の変遷を経て、戦後、日本国憲法において、法の下の平等を基本に、個人の尊厳と男女平等を旨とする基本的人権の尊重が謳われ、その後の国際的な女性運動や女性会議・フォーラム等の開催とあいまって国連の女子差別撤廃条約やILOの家族的責任条約が批准されてきたところである。これに対応し、国内でも男女雇用機会均等法、育児休業法及び介護保険法があいついで施行され、さらに、平成11年6月には男女共同参画社会基本法が成立し、女性の地位向上を目指す法体制が急速に整備されてきた。
 このような動きのなかで、本市では男女共同参画によるまちづくりの指針を定めるべく、平成11年7月に発足した出雲市男女共同参画のまちづくり懇話会において、公聴会等での意見を含め幅広い市民の多様な考えを集約した意見書が取りまとめられたところである。
 本市は、この意見書を踏まえ、男女の対等なパートナーシップによる真に心豊かで活力ある21世紀都市・出雲の創造を目指し、ここに、男女共同参画による出雲市まちづくり条例を制定する。

     第1章 総 則
(目 的)
第1条
 この条例は、男女共同参画によるまちづくりの基本理念、実現すべき姿及び責務等を明らかにするとともに、施策の基本的な事項を定めることによって、市民一人ひとりの個性が光り輝き、活力に満ちた、にぎわいのある出雲、男女がのびのびとまちづくりに参画し、青少年が夢と希望と明日を語り合う出雲、そして商工業、農業、いわゆる新ビジネス等あらゆる産業に従事するすべての市民の努力が報われ、発展が約束される心豊かな21世紀都市・出雲の継承・創造・発展を目指すことを目的とする。
(定 義)
第2条
 この条例において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
 (1) 男女共同参画 男女が、社会の対等な構成員として自らの意思によって社会のあらゆる分野における活動に参画する機会が確保され、もって男女が均等に政治的、経済的、社会的及び文化的利益を享受することができ、かつ、共に責任を担うことをいう。
 (2) 事業者等 市内において公的機関、民間を問わず、又は営利、非営利を問わず事業を行うものをいう。
 (3) 積極的改善措置 第1号に規定する機会に係る男女間の格差を改善するため必要な範囲内において、男女のいずれか一方に対し、当該機会を積極的に提供することをいう。
 (4) ジェンダー 生物学的・生理学的な性別と異なり、男女の役割を固定的に捉える社会的、文化的に培われ形成されてきた性別をいう。
 (5) セクシュアル・ハラスメント 市民生活のあらゆる場において他の者を不快にさせる性的な言動をいう。
(基本理念)
第3条
 市、市民及び事業者等は、次の各号に掲げる事項を基本理念として男女共同参画によるまちづくりを進めるものとする。
 (1) 男女の個人としての尊厳が重んぜられ、性別による差別的取扱いを受けず、個人として能力を発揮する機会が確保されるなど男女の人権が尊重されるまちであること。
 (2) 男女がそれぞれ自立した個人として、一人ひとりがその能力を十分に発揮できることによって、多様な生き方が選択でき、かつ、その生き方が尊重され、自己決定権が確立されるまちであること。
 (3) 男女が、家族的責任及び社会的責任を共に担うことによって、家庭、地域、職場、学校その他のあらゆる場における活動に平等・対等な立場で参画し、責任を分かち合うまちであること。
 (4) 市や事業者等における政策又は方針・計画の立案及び決定に男女の個人としての能力が尊重され、共同して参画する機会が確保されるまちであること。
(実現すべき姿)
第4条
 市、市民及び事業者等は、次の各号に掲げる事項を男女共同参画によるまちづくりにあたっての実現すべき姿とし、この達成に努めるものとする。
 (1) 家庭において実現すべき姿
  ア 「男だから」・「女だから」といったジェンダーではなく、それぞれの個性を重視し、「その人らしさ」を大切にする家庭になること。
  イ 家族それぞれが多様な生き方を選択でき、その能力、適性をみんなが認め合い、明るく豊かで充実した家庭になること。
  ウ 「男は仕事」・「女は家庭」の意識を超えて、家事、育児、介護などの家庭のいとなみに家族全員が関わり、苦楽を共に分かち合い、家族のつながりが深まること。
 (2) 地域において実現すべき姿
  ア 男女が連帯して地域の諸活動に参画し、企画や実践に関わることによって満足感と達成感が得られ、生きがいと活力のあるまちづくりが進められること。
  イ 古い慣習、しきたりなどの制約を克服し、男女の相互理解によってそれぞれの行動や考え方が尊重され、意思が決定されること。
  ウ 女性の積極的な社会参画により、女性の多様なリーダーシップが発揮されること。
  エ すべての人の人権が尊重され、差別のない、心豊かな地域社会がつくられること。
 (3) 職場において実現すべき姿
  ア 個人の意欲、能力、個性などが合理的かつ適切に評価され、募集、採用、配置、賃金、昇進などについて性別を理由とする差別がない、生き生きとした職場になること。
  イ 効率的かつ効果的な労働によって、長時間労働やストレスがたまる職場環境の改善が図られ、家庭生活や地域活動が活力とゆとりのある充実したものとなること。
  ウ 育児休業や介護休業を男女ひとしく積極的に取得できるようになるなど、仕事と家庭が両立するようになること。
  エ 妊娠・出産期、更年期など女性の生涯の各段階に応じた適切な健康管理が行われること。
  オ セクシュアル・ハラスメントのない、快適で安心して仕事ができる職場環境がつくられること。
 (4) 学習・啓発・意識改革により実現すべき姿
  ア 「男の子だから」・「女の子だから」というジェンダーにとらわれない、それぞれの個性や人権を大切にする子どもが育つこと。
  イ 男女の別なく、育児、介護、ボランティアなどの体験を重視した学習が進むこと。
  ウ 進学や就職などにおいて、性別にとらわれない、個人の能力や適性を考慮した選択が尊重されること。
  エ 家庭、地域、職場、学校などにおいて、性別にとらわれない係や当番などの役割分担が行われること。
  オ 老若男女を問わず、市民ひとしく男女共同参画社会について学習する機会が増進されること。
(性別による権利侵害の禁止)
第5条
 何人も、性別を理由とする権利侵害や差別的取扱を行ってはならない。
2 何人も、地域、職場、学校などあらゆる場においてセクシュアル・ハラスメントを行ってはならない。
3 何人も、夫婦間を含むすべての男女間において、個人の尊厳を踏みにじる暴力や虐待を行ってはならない。
(市の責務)
第6条
 市は、男女共同参画のまちづくりのため、次の各号に掲げる事項を実施する責務を有する。
 (1) 積極的な啓発・学習促進等 この条例が、広く市民及び事業者等の理解を得られるよう啓発・学習促進等に積極的に努めること。
 (2) 情報の収集・公表等 男女共同参画に関する情報の収集を行い、分析するとともに、これを市民及び事業者等に公表し、又は提供に努めること。この場合において、個人情報の保護に関しては最大限配慮しなければならない。
 (3) 市民等への支援 市民や事業者等が実施する男女共同参画のまちづくり活動を支援するため、情報の提供その他必要な措置を講ずるよう努めること。
 (4) 他の自治体との連携・協力 国及び県の施策等と調整を図りながら、他の自治体との広域的連携・協力に努めること。
 (5) 国際的な協力等 情報交換、会議参加促進など国際的な協力・連帯の推進に努めること。
2 市は、その人事管理及び組織運営において、個人の能力を合理的かつ適切に評価し、率先して男女共同参画の実現に努めるものとする。
(積極的改善措置の推進)
第7条
 市は、男女共同参画のまちづくりのため、政策決定の機会その他において積極的改善措置を講ずるよう努めなければならない。
2 事業者等は、男女共同参画のまちづくりのため、その事業活動に関し、積極的改善措置を講ずるよう努めるものとする。

     第2章 推進体制
(推進委員)
第8条
 市長は、男女共同参画のまちづくりを推進するため、出雲市男女共同参画推進委員(以下「推進委員」という。)を置く。
2 推進委員は、市民、事業者等その他の者のうちから市長が委嘱する。
3 推進委員は、男女共同参画によるまちづくりに関し、意見・苦情等の情報収集、啓発活動等を行うとともに、その活動に関し、市長に具申するものとする。
4 男女いずれか一方の委員の総数は、委員総数の10分の4未満であってはならない。
(推進委員会)
第9条
 市長は、前条の推進委員を構成員とする出雲市男女共同参画推進委員会(以下「推進委員会」という。)を設置する。
2 推進委員会は、男女共同参画のまちづくりに関し、市長の諮問に応じ、調査審議し、答申するものとする。
3 推進委員会は、男女共同参画のまちづくりに関し、市長に随時建議するものとする。
(苦情相談窓口の設置)
第10条
 市は、男女共同参画によるまちづくりを阻害する問題を処理するため、苦情相談窓口を置き、他の苦情処理機関等と連携をとり、相談者に対し必要な支援を行うなど解決に努めるものとする。

     第3章 行動計画等
(行動計画の策定)
第11条
 市長は、男女共同参画のまちづくり実現のため、総合的かつ具体的な施策を取りまとめ、男女共同参画による出雲市まちづくり行動計画(以下「行動計画」という。)を策定するものとする。
2 市長は、行動計画の策定にあたっては、推進委員会の意見を聴取し、市民及び事業者等の意見が反映されるよう努めるものとする。
3 市長は、行動計画を策定したときは、議会に報告するとともに、市民及び事業者等に周知し、理解と協力を促すものとする。
(実施状況の年次報告)
第12条
 市長は、毎年、施策の実施状況等を議会及び推進委員会に報告するとともに、市民及び事業者等に周知するものとする。

     第4章 雑 則
(その他)
第13条
 この条例の施行に関し必要な事項は、市長が別に定める。

     附 則
 この条例は、公布の日から施行する。