「仲南町後継者育成等若者定住促進条例」をめぐり

香川県/仲南町・竹林 昌秀 

 

1. 概 要

 この条例は、仲南町の後継者を育成するために、若者が定住するような施策を推進することを内容としている。
 この条例に基づいて町が実施する具体的な事業は、後継者の婚姻促進、結婚相談対策員と活動員の設置、若者定住に関する調査である。
 また、結婚相談員と活動員の報酬額を定めている。
 そして、この条例が他に類例のないものとして注目を集めたのは、結婚して仲南町に定住することになる場合には、その仲介と媒酌を担った仲人に対して、30万円の報奨金を仲南町が支給することを定めている点である。
 仲南町の人口対策は、先に施行して運用している第3子以後の出産に対して30万円を支給する「仲南町出産奨励金条例」(1994年4月1日 条例1号)と、この「仲南町後継者育成等若者定住促進条例」(1999年3月17日 条例第1号)の2本立てで、直接的な施策展開を行うのである。

2. 制定の理由・背景

(1) 仲南町の概況
  本町は、香川県の讃岐山脈の山麓を流れる財田川と金倉川の上流に位置する17の農業集落からなる町であり、1955年に2つの旧村が合併して現在の行政区画となった。
  現在、人口は、4,886人、高齢人口率は28.8%となっている。近年の年間出生数は30名を切り、人口の減少が加速度的に進んでいる。就業人口は、第1次産業が26%、第2次産業が32%、第3次産業が42%となっている。
  かつて最大の産業であった農業は、担い手のほとんどが高齢者となり、若年層や働き盛りの年代は、周辺市町村へ通勤する勤労者となっている。
  町内には、1保育所、3幼稚園、3小学校、1中学校、1公民館が設置され、1郵便局、JA香川の支店が2ヵ所営業している。

(2) 農業後継者の育成
  昭和20年代には就業人口の8割が農業であった本町では、1975年には4割を切り、農業の後継者の育成は大きな地域の課題として浮上していた。農業は自作地を家族経営するのが大半であり、夫婦で家庭を築くことは、共同経営者を得ることを意味し、円滑な農業経営には不可欠のことである。町の後継者問題は、当初農業問題として表面化したのである。
  県農業改良課が1999年2月に作成した資料によれば、香川県の農業後継者結婚対策の経緯は次のとおりである。
 ① 1973年 大川郡内各農業委員会と県農業改良普及所が自主活動として、紙婚相談事業を開始した。
 ② 1975年 県農業会議の農業就業近代化対策事業の一環として、県下市町農業委員会が広域的な結婚相談活動を開始した。
 ③ 1977年~80年 県単独事業として(国庫補助金と無関係に)農業後継者結婚対策事業を実施した。内容は、結婚対策委員会の設置、若人の集いの実施、結婚相談台帳の作成であり、市町農業担当部局が実務を担った。
 ④ 1979年 県は、「財団法人香川県農業後継者育成基金」を設立して、ア.海外派遣を含む広範な各種研修制度、イ.経営規模拡大資金利子補給金制度、ウ.農業後継者組織活動促進事業助成金制度を確立した。従来から徐々に積み上げられてきた農業後継者育成に関連する諸施策を整理して、統合的に推進しようとするものであった。
 ⑤ 1981年 同基金の事業を拡大して、「若人交流会」を県普及センター管轄地区と県レベルで開催するとともに、「結婚相談員」の設置を内容とする「若人交流事業」を取り入れた。
 ⑥ 1982年 上記事業を実施するために、仲南町、満濃町、琴南町は両農協地域を対象として、「協栄・十郷地区農業後継者育成推進協議会」を結成した。
 ⑦ 1990年~91年 農水省の補助事業「まちとむらの若者ふれあい促進事業」を実施して、都市と農村の相互理解を深め、青年同士の交流活動を開催した。
 ⑧ 1992年 県単独事業として、同事業を継続するとともに、事業間の連携強化のために「若人交流事業」の助成金を町へ4万円、市へ8万円、農業改良普及センターへ15万円に増額した。
 ⑨ 1998年「まちとむらの若者ふれあい促進事業」を農業改良普及センター単位で構成する実行委員会への委託運営へと転換した。
  農水省青年農業者対策室は、98年10月に結婚相談活動の全国調査を実施している。それによれば、相談窓口は1,661ヵ所、相談員数は14,545人、青年男女交流会は年間937回開催して、28,389人が参加している。個別相談は、年間25,998回、成婚数はその4%、結婚数のうち3%が外国人の配偶者となっている。農家の跡取りの結婚難は、1965年前後にはすでに広く懸念されていたことであり、「若人交流会」のねらいは、男女の出会いの場を設けようとするものであった。当初は、参加対象を農業者に限っていたが、そもそも若年農業者が少ないことから、徐々に参加者条件は緩和され、現在は誰でも参加できるようになっている。事実上、運営に携わる県農業改良普及センター、自治体、JA、農業関連団体が職員の縁故を頼り、参加者を確保するまでに至っている。内容は、キャンプ、バレーボール、ボーリング、ハイキング、日帰り旅行、各種パーティ等である。
  「結婚相談」は、毎月定例的に開催されているが、直接成婚に結びつく事例を見いだすことは難しい。農業後継者自身が来訪することは皆無に近く、多くは母親が悩みを打ち明け、誰にも語れない家庭の事情を話して帰るのが実状である。結婚相談員が仲介を熱心にすれば、どんなに配慮しても限られた地域内でのことであり、対象者の氏名が自ずから地域に流布して、当人が当惑することもあったようである。
  1977年から1998年に至る22年間の成果はどのようであろうか。全県下で成婚に至った件数は、総計465件であり、年平均21件を少し上回る。ただ、1977年から1985年の間は、年平均36件であり、1986年から1998年の間は、年平均11件である。それも1992年から1998年までは、10件を越えた年はわずかに2ヵ年であり、4、5、6件の年が5ヵ年もあることに注目したい。近年は、各市町に年間を通じて1件あるかないかの水準が続いているのが実状である。
  香川県では男子農業者の未婚率は、20代で80・4%(全産業未婚率73.7%)、30代で41.3%(全産業未婚率22.6%)、40代で20.1%(全産業未婚率8.5%)であり、高い年齢ほどその乖離は大きく、農業の振興にとって結婚問題は大きな障害と言えよう。(資料は年度集計)

(3) 人口動態
  仲南町は、1955年の発足時には、人口6,877人であったが、1999年には4,886人となり、年少人口647人(13.2%)、生産年齢人口2,830人(57.9%)、老年人口1,409人(28.8%)となった。
  また、1999年度の出生数は20人、死亡数は50人であり、30人の自然減である。
  そして、1999年度の転入者192人、転出者165人であり、27人の社会増である。
  近年の10年間の平均出生数は、29.7人であり、最近2年間では20人と27人であり、このまま推移すれば、町内3小学校で複式学級を余儀なくされることになり、4年後には中学校が一学年一組の編成となり教科ごとに専門の教員を配置できなくなるのである。
  ただし、1987年から1999年までの13年間に仲南町に本籍をおいた婚姻届は1,179件であり、年平均90.7件である。1996、97、98、99年には各々96、106、96、95件と比較的大きな数値であることに注目したい。
  また、20歳から35歳までの結婚適齢者は約80人であり、そのうち女性は約4割である。36歳から44歳までの未婚者は約40人である。(資料は年度集計)

(4) 地域社会の崩壊への危惧
  最初に、保育所、幼稚園、小中学校の運営に顕著な影響をもたらす出生数の減少の影響は、自治会、自治公民館、PTA、交通安全協会、社会福祉協会、水利組合、祭礼、等町内のすべての社会組織の担い手の不足を招き、活動自身が成立しなくなってきているのである。これらは、営々と永年にわたり運営を重ねてきたものであり、住民の相互扶助活動そのものであるとともに、行政を住民に浸透させる重要な役割を果たしているのである。

(5) 町政最大の課題
  こうして、社会移動が長期不況のために落ち着いた現在では、出生数を増やすことが人口対策の最大の課題であり、晩婚化とシングル生活謳歌の風潮の中で、歯止めをかけるべく、単に農業後継者対策にとどまらず、現在の人口を維持することが町にとって至上の課題となったのである。
  出生数を維持してゆくためには、若年層の成婚を促進して、出産する年齢層を定住させることが最も直接的な対策であり、斡旋の労をとる仲人の活動を活性化させるために、本条例は起案されたのである。
  議会は、本条例の趣旨に全面的に賛同を示し、仲人報奨金を原案の20万円から30万円に増額修正する展開を見るに至った。

3. 条文解説

(1) 関連法令
  この条例は、特に準拠法令はなくて、「財団法人 香川県農業後継者育成基金協会寄付行為」、「財団法人 香川県農業後継者育成基金協会業務方法書」との関連に配慮して制定された。
  また、「仲南町出産奨励金条例」と連動した運用を予定して制定したのである。
  そして、農村における就業機会の増大を図る事業所を誘致するための「農村工業導入法」がある。
  さらには、賃貸住宅を供給するための「公営住宅法」と「特定優良賃貸住宅の供給の促進に関する法律」に準拠する「仲南町営住宅設置条例」(1999年9月27日条例第16号)と「仲南町営住宅管理条例」(1999年9月27日 条例17号)も、人口対策を担う条例である。

(2) 逐条解説
  第1条は、この条例の目的を定めて、仲南町の後継者を育成により定住できる施策を実施して、産業の振興活性化に寄与することを掲げている。
  第2条は、この条例により実施する事業を定めている。
 ① 後継者の婚姻の促進に関する調査とその事業
 ② 結婚相談員の設置と活動推進
 ③ 若者の定住促進に関する調査
 ④ その他目的を達成するための事業
  第3条は、事業対象者が仲南町に在住する者に限ることを定めている。
  第4条は、結婚対策相談員は6名以内、活動員は22名を町長が委嘱することを定めている。活動員は、地元事情に明るい農業委員に委嘱されている。
  第5条は、各々手当として年間5万円と年間1万円を支給することを定めている。また、成婚に至った時は30万円から年間手当を差し引いた金額を同相談員と活動員に支給することにしている。
  第6条は、結婚相談員と活動員の活動内容を定めている。同相談員は、毎月1回の相談日に応談を担い、相談員会を年間4回開催して活動報告と情報交換を行うとともに、日常活動も行うのに対して、同活動員は日常の紹介活動のみを行うことを定めている。
  第7条は、町内外の一般の地域住民であっても、お見合い等のお世話をして成婚に至った場合、次の条件を満たせば仲人に対して、仲南町長は30万円の奨励金を支給することを定めている。
 ① 住民が、結婚後本町に定住すること。
 ② 恋愛結婚の頼まれ仲人ではなく、仲人としての実質の世話をしていること。
 ③ 仲人の書面による申請を活動委員会、すなわち農業委員会で審査を経ること。
  第8条は、仲南町長がこの条例の趣旨を達成する責務を負うことを定めている。
  第9条は、この条例の実際の運用に際しての細則を別途定めることを記している。
  付則では、施行日を平成11(1999)年4月1日、廃止を平成16(2004)年3月31日としている。5年の時限立法としたのは、運用実績を一定期間で評価して、空文となるようであれば直ちに廃止して、実効が上がれば延長する意図である。

(3) 報奨金交付要綱
  この条例の運用のために、「仲南町後継者育成等若者定住促進に関する報奨金交付要綱」(1999年9月27日要項第1号)を、次のとおり定めている。
 ① 入籍と住民登録後の居住の実態が確実であること。
 ② 仲人は、紹介、見合い、結納、婚礼の媒酌人のすべてを行うこと。これに欠ける部分があれば、町艮は奨励金を減額すること。
 ③ 結婚する一方が本町の住民であること。
 ④ 虚偽申請は報奨金の返還となること。

4. 制定の意義

(1) 効 果
  まず第一に、結婚を推進して定住に結びつけることが、仲南町の人口政策として、議会の議決を経たものとして確立したこと。
  第2に、従来から県の施策協力として町が取り組んできた農業後継者結婚対策事業としての「結婚相談」が、あらゆる未婚者を対象とした町の主体的な結婚奨励施策として拡張されたこと。
  第3に、町長が委嘱するのは、従来からの結婚相談員4名の他に、活動員22名が加わり、拡充されたこと。
  第4には、町長が委嘱する委員のみならず、すべての町民が仲人として活動することを奨励する制度を確立したこと。
  第5には、若者の定住に結びつく結婚を推進する活動が、条例に基づく報酬、手当、活動費、奨励費の支援を受けることになり、行財政改革や財政難に際しても、予算削減を受けにくくなったこと。
  第6に、町の直接的な人口対策が、未婚者の定住促進策としてこの条例が担い、定住している既婚者向けとして「仲南町出産奨励金条例」が担う、一貫した連携施策となったこと。
  第7には、施行から1年間(1999年度)に、3件の成果を上げたことに注目すべきである。

(2) 評 価
  この条例は、議会の全面的な支持が得られ、町民からも好意的に受け止められた。町長はあらゆる会合で条例の趣旨を説き、積極的な運用姿勢を貫いている。町民は簡略に「仲人すれば30万円」と理解した気配である。
  また、報道機関は、一斉に「仲南町が『仲人条例』を制定した」と競って取り上げ、全国紙にもいくつか掲載された。東京のスポーツ紙が大きく取り上げたのは、「町ぐるみでヨメとムコさがし」と幾分興味本位の気味もあったが、概ねユニークな自治体の取り組みとして取り扱われた。ただ、この条例を制定するに至った地域社会の危機感と苦悩は、マスコミ関係者には到底察し得ないことであった。
  国、県からは照会等は一切なく、仲南町より深刻な過疎に直面している山村から数件の資料送付依頼があったのみである。近隣の自治体関係者の注目は集めたが、その後追随した自治体はない模様である。

5. 課題と展望

(1) 個人の自由と尊厳への配慮
  「日本国憲法」は、第22条において、居住と職業選択の自由を明文化している。また、第24条の2には、「配偶者の選択……婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。」と規定されており、出産は「家族に関するその他の事項」に含まれると解するのが妥当である。行政法学の基本的視点からは、結婚促進や出産奨励が果たして法令により行うべきものであろうかと言う論議はどうしても生じるのである。
  仲南町の人口対策を担う2本の条例は、強制を伴うものではないものの、個人生活の根元的な部分を、行政意思として一定の方向へ誘導しようとするものであることは間違いない。この点において、これら条例は憲法に違反はしないものの、運用姿勢次第では抵触しかねないと懸念される。
  すなわち、本人の承諾なしに、結婚相談の対象者名簿に搭載して、身上調査をしたり、活動報告や情報交換の対象とすることは、回避すべきであろう。
  また、結婚相談員と活動員の活動を周囲が一致して熱心に支援しすぎた場合は、その対象者は集団圧を感じて、定住するためには逆効果となるであろう。現に、年齢が高くなった未婚者からは、「そっとしてほしい」という声も一部からは出ているのである。
  こうして、一般人が仲人をすることを公的に支援する点に、この条例の最大の意義があり、結婚を言う個人生活の骨格部分へ公的機関が対応するには限度があることから、これを補完しつつ、より推進するために、任意仲人活動を振興しようとするに至ったのである。

(2) 出会いの機会
  かつては、農村には必ず「青年団」があり、地域の若者はほぼ全員が加入していた。これは、徐々に、同じ趣味やスポーツをするクラブ的な組織が発展するとともに衰退していった。現在は、規約を持たず、メンバーが固定せず、活動内容も変幻自在で、代表者も明らかでない融通無碍な少人数のグループ活動が主流である。従来から農村には、青年団夫婦、スポーツ趣味カップルが相当いたのであるが、お見合い夫婦が大半であることは間違いない。地域社会には必ずお見合いをお膳立てする世話好きがいたのであり、こうした「仲人屋」の果たしてきた役割は大きいものであった。昨今は恋愛結婚志向の時代となり、「世話をしてもまとまらない」と仲人の活動は衰退の一途であり、風前の灯火とさえ言える。
  現代の青年は、正式のお見合いを避けたがり、恋愛願望も手伝って、自然な出会いから男女の交友を深めたいのであり、仲人の仲介より友人の紹介を希望するはずである。世話好きの年長者に期待して、仲人を再び活性化しようとする支援策の意義は認めるべきであろうが、多くの成果は期待できそうにない。
  むしろ、友人が相互に紹介しあうことを促進する制度運用にカを注ぐべきである。

(3) 選択の自由
  現代の青年にとって、人生とは選択可能なものであり、選択すること自体を楽しみたがっている。そして、進学、就職、結婚などの選択肢の少しでも広い環境に身を置こうとするのである。青年が余暇生活においては、一意専心ではなく、趣味、スポーツ、消費などのありとあらゆる分野につまみ食い的に関与することがそれを物語っている。
  青年にとって仲南町は、人口が多く多様なサービスを享受できる都市都と比較して、選択の自由は狭いといわねばならない。これが、若者が流出する最大の原因ではないだろうか。
  地方自治体は、地味ではあっても着実な行政サービスを果たしながら、魅力ある生活環境を形成することに努めて、若者が誇りを持って人生を送れる可能性を高めていくことが肝要である。

(4) 村落共同体と個性の発揮
  人口が4、5千人の地方自治体では、縁戚、友人などを辿れば、住民全体が間接的にせよ何らかのつながりを持つ。都市生活の匿名性と自由を謳歌した人間にとっては、隣組である「講中」、自治会、公民館、婦人会など複雑に錯綜した社会組織の中で周囲との関係を円満に保ちながら、個人としての生き方を貫くことは至難のことである。
  転勤を伴う勤労者の生活が職場と核家族の範囲に留まり、拠り所が浅く、腰の弱いものであることは周知のことであり、退職後の人生の送り方が困難な世界ではあろう。
  青年心理学は、自らが何者であるかを求めて彷徨し、可能性を探訪して遍歴を重ねることこそ、結婚前の青年の発達課題であり、思索と挑戦を繰り返し、この時期に困難を克服した経験を持ったものこそ、短い一生涯で何事かをなせると説いている。
  農業を中心にした伝統的な村落共同体は、勤労者としての日常生活を送る若年層や働き盛りの子育て年齢層にとって、職場と地域の双方の担い手として大きな負荷を負わせている。
  古代ギリシャでは、市民4、5千人程度が最も直接民主制が機能して、市民が1万人近くなると機能しなかったとは、英国のヒュームの主張である。すなわち、住民が互いに意思を通わせ合して、なおかつ一体感を共有するためには、適正規模があると言うのである。
  仲南町の規模はまさにこれであり、何らかの成果を人びとと分かち合えた若者は、自ずから知れわたり、その個性に見合った役割が期待されることになる。人間関係が濃密なるが故に、その人らしさを発揮して活躍できる機会にも恵まれるはずである。大きな組織を拠り所として職業生活を送ろうとすれば、専門的ではあっても部分的な役割しか果たせずに生涯をおえる可能性が高いであろう。しかし、ちいさな社会を生活拠点として生きる選択をした方が充実した一生を送れる可能性も大きいのである。地域社会と全人格的に関わり、自らの存在を確かなものと感じることのできる生涯の過ごし方もあることこそ青年に啓発すべきであろう。
  もっとも、農業村落共同体としての伝統は、時代の趨勢とともに、現実に適合するように勇気を持って改変してゆくことを忘れてはならない。

(5) ∪夕―ン転職の促進
  定住の可能性があるのは、一度は都市で生活経験を持った若者が、安定した人間関係の中で落ち着いた生活を志す気持ちが生まれた時であり、それは、幼少の子どもを育てる時期からであろう。
  1度は選択の自由を行使した後に、現実を把握して、ある程度のわきまえに達した時期のUターンには、転職先と住宅の確保が不可欠であろう。公営住宅と宅地分譲を町が行うとしても、いかに困難ではあっても、Uターン転職を促進する施策の工夫が必要である。
  そこで地域の経済活動の発展と就業機会の拡充こそ、最大の課題となるのである。
  とりわけ、本籍地を本町として婚姻届が出される年間90件を越える新婚者向けへの対応が重要である。

(6) 生涯の伴侶を得るために
  配偶者を得るためには、男女の意思疎通が円滑に進展して、相互に相手の人格を認め合うことが必要であることは言うまでもない。出会った2人は何かを通じて心を通わせ合うのであり、ともに楽しめる趣味やスポーツ等を身につけることが成婚に至る道ではないだろうか。一緒にいれば楽しく、活力に満ちた若者は、どこからでも伴侶を得られるであろう。
  すなわち、定住人口を増加させるために結婚を促進する前の段階として、人びとと円滑に心を通わせ合うことができ、人から信頼される青年を育成すべきある。

(7) 結 語
  公的な「結婚相談」の限界を超えようと、「仲人」を地方自治体が公的に支援することは、随意に活動できる民間活力の振興施策であり、地方自治体固有の政策として、全国に先駆けて条例を制定した意義は高いと言うべきである。
  ただし、生涯を送る定住先として選択されるような地方自治体となるために、前述の基本的課題を克服してゆかねばならない。少子高齢化、人口減少は、日本列島津津浦々共通の課題であり、全国の地方自治体は若者を巡り激しい争奪戦を演じているとさえ言える。
  交通と情報通信手段が極度に発達した現代の時代環境は、地方在住であっても、日本中、そして世界各地との関わりの中で人生を送ることを実現してくれている。
  すなわち、若者が定住するためには、生まれ育った地域に愛着を持つように年少者を育むべきであろう。また、普遍的な価値観への理解の下に、広い世界に向かって自ら信ずるところを表現することができ、特色ある地域づくりを担う青年を輩出しなければならない。地域が若者を育む力の充実こそ、最高の定住促進施策と言うべきである。


仲南町後継者育成等若者定住促進条例 平成11年3月17日 条例第1号

(目 的)
第1条
 この条例は、仲南町の後継者を育成するために若者が定住できる施策の一環として環境を整備し、各種事業の推進と若者の確保を図り地域づくりと仲南町産業の振興活性化に寄与することを目的とする。
(事業内容)
第2条
 上記の目的を達成するために次の事業を行う。
 (1) 後継者の婚姻の促進に関する調査及び事業
 (2) 結婚相談対策員及び活動員業務の推進に関する事業
 (3) 若者の定住促進に関する調査事業
 (4) その他目的達成のために必要な事業を実施する。
(事業の対象者)
第3条
 この条例に定める事業の対象者は仲南町に定住する者であること。
(結婚対策相談員及び活動員の設置)
第4条
 この条例に定める事業を推進するため結婚対策相談員および活動員を設置する。
 (1) 結婚対策相談員は、6名以内とし、町長が委嘱する。
 (2) 活動員は22名とし、町長が委嘱する。
(結婚対策相談員及び活動員の手当)
第5条
 結婚対策相談員及び活動員の報酬及び活動費を支給する。
 (1) 結婚対策相談員は年間5万円を支給する。
 (2) 活動員の活動手当は、年間1万円を支給する。
 (3) 結婚対策相談員及び活動員の世話により結婚が成立したときは、1件につき最高30万円を支給する。
(結婚対策相談員及び活動員の事業)
第6条
 本条例に定めている事業を推進するため次の事業を実施する。
 (1) 結婚対策相談員は毎月1回相談日を設けて相談事業を推進するとともに日常活動を実施する。
 (2) 結婚対策相談員会を年4回実施し活動報告及び情報交換を行い常に連携を図る。
 (3) 活動員は日常活動において結婚相談事業の実施にあたる。
(地域住民の協力事業)
第7条
 この条例の目的を達成するためには、町内外の地域住民の協力を得ることが必要であり、地域住民により見合い等の世話で後継者が結婚するに至った仲人に対し、報奨金を支給することが出来る。ただし、次の号(1)・(2)に該当している場合に限る。
 (1) 結婚された者が引き続き本町の住民であり、定住することが確実とされている者であること。
 (2) 双方が合意のもと(恋愛等により)結婚することとなり、その後頼まれた仲人(頼まれ仲人)でないこと。
 (3) 世話人(仲人)より申し出(様式1)があったときは、活動委員会において審査し、審査結果を町長に報告することとする。
 (4) 町長は、活動委員会長より審査結果を受け、支給に値する報奨金を該当者に支給する。その額は、1件30万円以内とする。
(生涯対策)
第8条
 町長は、本事業を推進するにあたり仲南町の後継者育成と若者の定住を図るよう積極的に努める。
(その他)
第9条
 この条例に定めるもののほか、この条例の実施に関し必要な事項は町長が別に定める。
 附 則
1 この条例は、公布の日から施行し、平成11年4月1日より適用する。
2 この条例は、平成16年3月31日限り、その効力を失う。
3 平成11年3月31日までに適用してきた内規は廃止する。

仲南町出産奨励金条例 平成6年4月1日 条例第1号

(目 的)
第1条
 この条例は、仲南町の次代を担う児童の出産を奨励、祝福するとともに人口増加による活性化と豊かなふるさとの継承を測るため出産奨励金(以下、「奨励金」という。)を支給し、児童の健全育成に資することを目的とする。
(受給資格者)
第2条
 奨励金を受給できる者は、仲南町に1年以上在住、2児以上を現に養育し、第3子以上の児童を出産、養育しており、かつ引き続き1年以上居住意志を有している母親とする。
(奨励金の額)
第3条
 奨励金は、第3子以降1人につき30万円とする。
(認 定)
第4条
 奨励金は、受給者資格者の申請に基づき、出生の日から30日後において受給資格の有無を認定する。
(支給期日)
第5条
 奨励金は、受給資格の認定後20日以内に支給する。
(奨励金の返還)
第6条
 町長は、偽りその他の手段により不正に奨励金を受けた者があるときは、その者から奨励金を返還させることができる。
(委 任)
第7条
 この条例の施行について、必要な事項は、規則でこれを定める。
 附 則
 この条例は、平成6年4月1日から施行する。