透明性の新地平に向けて
― 大阪府情報公開システム改革の取り組み ―

大阪府本部/自治労大阪府職員労働組合


 大阪府の公文書公開等条例が施行されてから16年、大阪府の仕事のやり方は大きく変わった。条例ができても、それが活用されなければ行政のありようも変わりはしない。情報公開の制度ができたから変わったのではなく、膨大な時間とエネルギーを注いでこの制度に関わり続けた活動があったから、大阪府行政は変わったというべきであろう。
 98年の全国自治研集会では、「知る権利の確立を求めて ― 市民運動と歩んだ17年」と題して、80年代初頭の大阪府条例の制定運動から今回の条例改正案の基本内容に関する取り組みを報告した。その後の条例改正に関する取り組み、98~99年の情報公開法の制定に係わるキャンペ-ンを紹介しつつ、情報公開条例改正及び行政評価システムの構築過程を経て、新たな段階に入った情報公開運動についてレポ-トしたい。
 情報公開の主担職場を持つ総務支部では、毎年の支部要求に加えて98年9月、条例改正の方向に関して要求書を提出して交渉した。この時期検討されていた条例改正案は私たちの立場からは不満が残るが、同時期に改正議論が進行していた東京都の内容(「知る権利」「何人も」など見送り)よりしっかりしている、と評価していた。心配なのは情報公開法を巡る動きであった。大阪府条例の改正方向と情報公開法案の内容を比較すると、項目によってでこぼこがあるが、大まかにいうと次のようになる。成立の可能性の高い情報公開法案の内容は、現行の府条例(=改正前の条例)よりはよいが、検討中の府条例改正案よりは悪い。府条例を改正して情報公開法なみにするのではこれまでの努力が空しくなるということである。そこで私たちは、府条例改正の障害になっては困るということを含め、情報公開法の内容をより良いものに、という思いで法制定運動に関わってきた。総務支部が団体加盟している「知る権利ネットワ-ク関西」をはじめとする市民運動は、知る権利を保障させるための情報公開法の早期制定を求めて運動してきた。国会に提出された情報公開法案は自民、社民、さきがけの連立体制の最終盤である98年の春になんとかまとめられたものであるが、当時も東京と関西の運動団体が連携して、国会議員、政党へ何度も働きかけた。
 99年の3月には、那覇で裁判(行政訴訟)ができないと大変なことになる沖縄のメンバーを含め全国から約40人が参議院議員会館に集まった。「利用しやすい情報公開法を求める市民集会」という名称にも表れているが、裁判管轄と手数料に狙いをしぼって参議院での審議を実のあるものにしたいというのが参加者の共通の思いであった。
 情報公開法案がようやく成立した後も、2年先になりそうな施行を漫然と待ってる訳にはいかないと、知る権利ネットワ-ク関西が中心になって、99年5月に「情報公開請求大阪谷町筋ツアー」が行われた。91年に国の機関の「公開基準」が決められて、一応窓口ができている筈だが、実際にはなんの準備もできていないようであった。近畿地方建設局、近畿管区行政監察局、大阪国税局、大阪防衛施設局、近畿地方医務局、公正取引委員会近畿事務所などを訪れて公開請求をした。
 問題点の多い情報公開法(「行政機関の保有する情報の公開に関する法律」)が成立した後の99年秋の大阪府議会で、大阪府公文書公開条例改正案が可決された。それに至る過程で、私達が条例改正の重要事項として運動のポイントにしていたのは次の事項であった。
 1. 「知る権利」を前文にとどまらず条例本文にも明記すること。
 2. 公安委員会を実施機関とすること。
 3. 議会が情報公開を制度化するよう働きかけること。
 4. 出資法人(外郭団体)の情報公開を強力にすすめること。
  ● 出資法人の情報の収集と公開を府として行う・出資法人が保有する情報で府が管理していないものについて情報公開の請求があったときは、府に提出するよう求める
  ● 今後の出資等については対象法人における情報公開制度化を条件とすること
 5. 請求権者は「何人も」とするとともに、一定の外国語による請求に対処できるよう措置すること。
 6. 個人情報の公開については「プライバシ-保護型」を維持すること。
 7. 非開示理由の見直し
 8. 審査会の実施機関に対する権限を強化すること。
 9. 存否応答拒否条項が濫用されないよう事由を限定すること。

10. 会議公開の拡充
 これらの項目の相当部分は今回の条例改正に取り入れられているが、残された課題も多い。今回の条例改正で後退した項目もある。その代表は意思形成過程情報の扱いである。「情報公開法の趣旨にのっとりわかりやすく類型化」したと、府が説明するように、情報公開法の悪影響がはっきりしている項目である。
 従来の府条例では、非公開事由となる可能性のある「意思形成過程情報」を次のように規定していた。
 ● 府の機関又は国等の機関が行う調査研究、企画、調整等に関する情報であって、公にすることにより、当該又は同種の調査研究、企画、調整等を公正かつ適切に行うことに著しい支障を及ぼすおそれのあるもの
 これが、新条例では次のようになった。
 ● 府の機関又は国等の機関が行う調査研究、企画、調整等に関する情報であって、公にすることにより、率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれ、不当に府民の利益を損なうおそれ又は特定の者に不当に利益を与え若しくは不利益を及ぼすおそれのあるもの
 このくどい規定は、情報公開法第5条第1項第5号のそれとよく似ている(法では「不当に国民の間に混乱を生じさせるおそれ」というのも入っている。)のだが、旧条例に比較して明らかに後退である。「率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれ」などというのは、80年代前半の府条例制定の討議過程で、「非公開事由として濫用される」として、自治労など運動側からの強い批判を浴びて撤回、削除されたものである。
 84年の条例施行直後から、「意思形成過程情報」の公開 ― 非公開は最大の焦点であった。調査結果等の公開請求、府(土木部)の非公開決定に対する異議申立、行政処分取消請求訴訟のそれぞれ第1号となり、最高裁まで争われた末に請求者の主張が認容された、安威川ダムを巡る情報公開の争点の中心は「意思形成過程情報」である。長年の運動の成果で「意思形成過程情報」に関する大阪府の対応も変化し最近ではこれを理由とする非公開決定はごく少なくなった(この3年間はゼロ)。ところが、今回規定が変わったことによって新規の争点が生じうることになった。もしもこの問題で大阪府の運用が後退するようなことがあれば、いまだ施行されていない情報公開法の運用にも影響することが考えられる。
 「意思形成過程情報」のように国の対応を含めて警戒すべき事項もあるが、大阪府の情報公開システム全体としては、新たな要素も入れた前向きの変化を続けている。
 昨99年度段階での焦点は、同年度から本格実施の段階に入った府の「行政評価システム」との関連であった。条例改正によって情報公開の対象情報も変化(決裁公文書→組織管理行政文書及び電磁的記録)する。改正条例施行時(2000年6月)の管理文書は対象となるが、施行前の99年度に作成された非「決裁公文書」、たとえば、行政評価システムに係る「一次評価書」とバックデータなどをどうするか、という問題である。今後の府行政の水準、主権者たる府民との距離を左右するであろう大きな問題として、私達はこれに注目した。
 大阪府における行政評価の本格実施をひかえた99年3月時点で、行政評価と情報公開、府民参画の関連について、私達は次のようなことを主張した。
 ● 財政再建の課題をかかえた大阪府において急がれるのは政策評価システムである。「限られたられた資源」の配分についての府民合意を得つつ施策の優先順位を決定できるシステムを目指すべきである。
 ● 行政評価の目的、視点について、どのような大阪府、大阪府政を目指すのかの議論を徹底すること。その場合のキーワードとして次のようなようなグループを考える。
「情報公開、府民参画」「分権、自治体民主主義」「人権、男女協働」「環境、防災」
「セーフティーネット機能、世代間公平」
 ● 大阪府内部だけの評価ではなく、外部評価の仕組みを取り入れること。その場合、施策に関連するNGO、NPOの参加、参画を可能とすること。
 ● 活動指標、成果指標の名で検討されている数値化指標の設定に当たっては、上記記載のキーワードグループを参考にするとともに、府民参加の議論が可能となるようすること。
 ● 他都道府県との状況比較が可能な成果指標を積極的に公表するなどして、行政評価と予算の連結を図ること。また、施策の総合化を図り、予算についての府民理解を進めるため、部局別予算から事業別予算へのシフトを検討すること。
 ● 98年度に作成された再評価調書等は行政の透明性を高める一助に活用できるものであり、すべての建設事業(少なくともすべての再評価対象事業)について調書を作成し、府民に対して積極的に公表すること。
 自治労府職委員長名で当時の横山知事に対して上記の項目を含む申し入れを行ってから約1年後の2000年2月に、大阪府は行政評価の実施結果を公表した。
 事務事業評価(1173事業)、公の施設評価(27施設)、主要プロジェクト評価(12事業)等の結果であるが、今回のレポ-トの関連で注目したのは各「評価調書」の公表内容であった。(別紙資料)
 別に全国初ということでもないし、「この程度のことも今までは府民に分かりやすい形で公表していなかったのか」という感は否めないにしても、インターネットでのアクセスを含め、府民との情報共有のステップとして意義あることと評価してもよいであろう。
 このように、行政評価システムを巡っては、情報の共有と大阪府行政の判断過程の公開という面での前進があったのだが、条例改正に前後して「説明責任」を意識した動きも増えている。情報公開法制定の経過では、「説明責任」は「知る権利」の明記を回避する手段として「悪用」されたのではあるが、それはそれとして、行政の説明手段、説明能力を向上させることは必要なことである。最近の動きとしては、次のようなことがあげられる。
 ● 改正府条例で「努力義務」等が新設された「出資法人の情報公開」について、今年6月1日付けで「指導指針」及び「モデル要綱」が決定された。現在(7月末)国の特殊法人の情報公開の大枠が決定されようとしているが、対象法人の範囲が狭いことをはじめ、その内容について情報公開運動のNGO等は厳しい批判をしている。大阪府の制度の概要は次のとおりである。
 府は、府が管理する121の出資法人の情報の公開に努める。
 府は、府の出資率50%以上の公益法人、株式会社、公社等の45法人に対し、モデル要綱を示すなどにより、自主的な情報公開制度の導入、実施を指導する。
 ● 大阪府の部長会議の会議録は作成されず、内容も公表されていなかった。これについて、「府の政策形成過程情報の1つとして」今年6月から、いまだ簡略なものではあるが概要を記した「議事録」を公表することになった。
 ● 同じ6月に発足した太田知事の「アドバイザリ-・スタッフ」(中坊公平座長)の意見交換会は、「府民にわからないようなところで、こそこそ動いているというのではダメ」なので、7月の第2回意見交換会で原則(報道)公開と決定した。
 財政状況が厳しく、施策の優先順位についての府民合意が肝要になっている今こそ、大阪府行政の透明性を高めるチャンスなのであり、労働組合の社会的存在価値を示すチャンスなのではないだろうか。