清掃工場におけるISO14001取得について

東京都本部/自治労東京都区職員労働組合・清掃支部

 

はじめに

 1999年度(今年3月末)まで東京23区部の清掃事業は東京都清掃局が行ってきた。2000年4月1日からは、産業廃棄物などの府県業務や最終処分場などを残して(東京都環境局)、清掃事業の権能が23特別区に移管された。収集・運搬は各区が直接事業執行し、清掃工場や不燃ごみ処理センター・し尿の下水道投入などの中間処理部門は23区の共同処理となり東京23区清掃一部事務組合が引き継いでいる。
 清掃工場におけるISO導入は、清掃局時代にその基本が決められ、5工場が清掃局の下で認証取得した。ISO導入に関わる事項については、清掃一部事務組合に引き継がれている。

 東京都杉並清掃工場
は「開かれた清掃工場」を目指し、1999年1月から環境マネジメントシステム(以下、EMSと略)の運用を開始し、3月内部環境監査、5月ファーストステージ審査、6月セカンドステージ審査を経て、6月9日、自治体の清掃工場として全国初めてISO14001の認証を取得した。その後、6月葛飾工場、10月目黒・足立・大井の各工場が認証取得した。今年度は世田谷・大田工場など8施設が認証取得に向けて取り組んでいる。
 全国的には昨年12月大宮市西部環境センター(埼玉県)、今年1月京都市東部クリーンセンター(京都府)と金沢市東部クリーンセンター(石川県)、2月には市川市クリーンセンター(千葉県)と船橋市北部・南部清掃工場(千葉県)など、ごみ処理施設(ごみ焼却工場)で次々と認証取得している。また、東京都・23特別区関係では、昨年2月板橋区、同7月下水道局落合・中野・有明各処理場、今年2月東京都庁がそれぞれ認証取得している。
 ここでは杉並・目黒の両清掃工場を例に、自治体ごみ処理施設におけるISO14001の認証取得に関わる取り組み状況と課題について報告する。
 なお、本レポートは岩田正隆(杉並工場分会書記長)、加藤博(目黒工場分会長)両氏の執筆協力を得て、報告者がまとめたものである。


1.① 一部事務組合は、5工場のEMSを引き継ぎ、審査登録機関による毎年の定期審査、3年に一度の更新検査を受けて、認証の継続に努める。
  ② 一部事務組合は、全工場と中防処理施設管理事務所のEMSの構築作業をすすめISO14001認証取得・継続を目指す。
  ③ 一部事務組合の事務局はISO14001に関する工場間の連絡調整機能を果たすとともに、工場職員を含む内部監査の支援チームを維持する。
  ④ 一部事務組合は環境レポートを年1回、作成・発行する。
  ⑤ 一部事務組合は、一部事務組合全体としてのEMS構築及びISO14001認証取得について検討する。
  ⑥ 一部事務組合の事務規定等の整備にあたっては、EMSとの整合性に配慮する。
  ⑦ 各区は、収集・運搬部門におけるEMS構築及びISO14001認証取得について検討する。   (事務処理基準より)
 2. 2000年4月1日、東京都の清掃事業が23特別区に移管されたため、現在は東京23区清掃一部事務組合杉並清掃工場。以下に出てくる他の23区内の清掃工場も同様である。

 

1. ISO14001の認証取得の経過

 97年6月、東京都清掃審議会が「清掃事業の今後のあり方について」の答申で、EMSを導入すべき旨の提言を行った。これを受け同年12月、東京都一般廃棄物処理基本計画(東京スリムプラン21)で「EMSの導入によりごみ処理システムから生じる直接的、間接的な環境負荷の継続的な低減とこの認証取得により都民の信頼を高め、結果的に中小企業のEMS導入の取り組みの促進につながる」とし、ISO14001の認証取得を目指すことを決定した。
 98年3月、東京都議会予算特別委員会で青島知事が「まず、ごみ処理や下水処理などの部門からISO14001の認証取得を目指していく」と答弁した。
 清掃局はこれを受け、清掃事業へのISO導入の目的として次の3点を掲げた。
 ● ごみ処理に伴なう環境への負荷の継続的低減を図る
 ● ごみ処理システムに対する都民の一層の信頼を得る
 ● 環境型社会づくりを目指すうえで、清掃局自らの姿勢を示す
 ISO導入の副次的効果として効率化・サービス改善、透明性向上、職員の意識改革等があげられた。取得単位としては、①清掃事業の区移管による事業分割のため、ごみ処理施設より広い範囲でEMSを構築しても移管後に再構築が必要、②住民の関心の高いダイオキシン問題などごみ処理施設に対する住民の理解が必要 ─ などを理由に、ごみ処理施設及び埋立処分場に絞り込み、清掃事業の根幹をなす収集運搬部門が対象から外され、各清掃工場等施設ごとにISOを取得する方針が確立された。
 この清掃局方針に基づき、局長を中心とするISO推進会議(局、部長級)ISO推進幹事会(ごみ減量総合対策室長を中心に課長級)、ISO認証取得連絡会議(工場管理部を中心に各施設担当者等)が設置された。そして5工場が1999年度に認証取得を目指すことが決まった。

(1) 杉並清掃工場のISO14001の特徴
  杉並工場は「ごみ戦争」という東京の清掃行政史上に残る時代のなかで、「裁判上の和解」の下に建設された。和解条項では工場の計画、建設及び運営について、「住民参加による合意」を約束している。
  ISO認証取得にあたっては、外部の専門家の手を借りることなく、すべての取得作業を職員が一体となって取り組んだ。

(2) 目黒清掃工場のISO14001の特徴
  目黒工場でも、認証取得にあたっては、工場内でプロジェクトチームを作り、外部の専門化の手々をかりずに、取得作業に取り組んだ。
  また、厳しい自己管理値を維持していく「運用管理重点事項」と継続的な改善を図っていくための「環境目的・目標の達成」の2本柱で環境負荷の低減を図ることを基本コンセプトにしている。
  具体的な活動目標の例として「厳しい自己管理値を設けた清掃工場」がある。これは、工場からの排水・排ガス物質等は、法規制値よりも厳しい自己管理値を設定し適切に維持管理することで、環境への負荷を最小限にしようというものである。

2. ISO14001の認証取得に関わる取り組み状況

 認証取得の効果 以下の効果が認められている。
    ① 環境への負荷の継続的低減を図る → 燃焼管理の徹底、水使用の削減、売電料金の増加
    ② 都民からの一層の信頼を得る → 運営協議会の高い評価、マスコミの好意的な報道
    ③ 清掃事業自らの姿勢を示す(率先取り組み) → 全国各地の清掃工場で取得、取得にあたっての情報提供
 作業量の増大 杉並清掃工場は認証取得に向けて膨大な労力と時間を費やすこととなった。本体の環境方針、環境マニュアルの外、約60項目の書類の作成に追われた。これらの1項目ずつにもマニュアルに基づいて環境側面の洗い出しを行い、その評価を点数制にする。そしてそれらの防止に向けた操作標準を、運転係で分担して作成することとなった。
 教育訓練 ISO要求事項が「環境に携わる関係者全員に適切な訓練を受けさせなければならない」とあり、全員を対象とする研修となる。清掃工場は各係が変則勤務(4組2交替:1直、2直入、2直明、休)であり、週休日(1直時に交代で割り振る)についても違うため、1回で研修を行うことは不可能である。受講者の出欠をとり、参加していない職員についてはフォロー研修を行う必要がある。また、それぞれ記録に残さなければならない。
 工場の燃焼管理 焼却炉の燃焼管理についてもダイオキシン抑制が掲げられた。炉内温度はもちろんのことCO
2の10ppmの運用基準を一瞬でも超えると不適合の報告書を回数に応じて何枚も書くことになる。そしてEMS管理責任者が見解を出し、対策処置内容及び効果の確認を記入することになる。これらを各項目において行う。
 廃棄物の抑制 工場から出される紙、プラスチック、厨芥等の一般廃棄物は15分別することになった。それぞれに計量(1回/2日)し、記録を残す。そして達成目標を定め、何%の達成率か評価する。また、厨芥ごみについては本来燃やすための清掃工場であるが、工場職員から出る厨芥ごみはコンポストで処理することになった。
 省エネ、省資源 東京電力へいかに送電(売電)を多くするかが求められている。そのため、受電(買電)しそうになった場合、照明用の蛍光灯の消灯は言うに及ばず、冷暖房を停止しようとか、工場のファンを止めようとか、さらにはトイレの換気扇までも止めようということにまでなった。

3. 労働組合としての取り組み

(1) 杉並工場分会の取り組み
  99年4月16日、ISO認証取得したいので協力を願う旨、杉並工場分会に工場側から正式に提案があった。分会は未知の取り組みであり、膨大な作業量が必要になるとの懸念を表明した。しかし、ISO自体が「実行可能な現実から出発し、現在行っていることを文書的に整理するということでもあるので、そうはならない」との回答を受け、分会はISO認証取得方針を理解すると回答した。
  仕事量の増大に伴なう超過勤務に対して分会は、担当者の超勤確保等何度も申し入れを行ったが、サービス残業となった。このことは認証取得を目指すどの工場でも常態化した。
  いき過ぎた省エネ・省資源については、事務所衛生基準規則や中央労働災害防止協会の基準などを引っ張り出し、温度について歯止めをかけた。労働環境を維持するため無理なファン停止に歯止めをかけるのがやっとであった。
  照明の消灯については毎日放送し、その記録を残すが、電気量の測定が不可能で数値化できないため、精神的な部分としようということとなった。

(2) 目黒工場分会の取り組み
  目黒工場分会として、ISO14001を取得する際に新鋭工場(コンピュータ化されている工場)でできるのかを検討した。
 ① 少数職場問題(同時期に取得を目指す他工場と比べると半分くらいの人数)
 ② 仕事量増加問題(コンピュータ化による最少人数職場)
 ③ ダイオキシン対策等、さらなる問題に対応していけるのか
  以上の各項目について検討した結果、取得を目指す、やるからには積極的に参加すると決定する。
 少数職場問題 EMSは最小実施単位は、目黒工場では「係」である。係人数3人が1係、6人が4係、11人が2係の合計49人+1人の50人体制で、一般可燃ごみ600㌧/日能力の清掃工場を運営している。
 環境目的・目標の達成のための評価単位も「係」である。
 実際に、ISOを実施していくと、人がいないことが実感された。ただ、当工場ではかなりの面でパソコンが多数・多種導入されていたため、カバーできた。
 仕事量増加問題 「運用管理重点事項」と「環境目的・目標の達成」を図るため、焼却炉の操業データの詳細部分にまで目を向けた管理を行い、ダイオキシン類をはじめとした環境負荷の低減、ごみ発電方法の見直しや節電、水の循環利用のシステムの構築等、通常作業以外の調査・検討をしなければならない。
 ISO取得以前に比べれば、仕事量が増えている。
 今後、「運用管理重点事項」と「環境目的・目標の達成」の計画によっては、ますます仕事量は増えると思われる。
 清掃工場における新たな問題 今回のISO14001認証取得で、環境保全対策に取り組む清掃工場の姿勢を明確に示すことができた。周辺の住民からも「安心して清掃工場を応援できる」などと歓迎されている。
 今日、ますますダイオキシン類対策に対する諸問題が、新たに提起されている。最近では、清掃工場で働く我々自身の健康問題も提起されている。また、工場が発注する工事業者の健康対策も提起されている。

4. 今後の課題と問題点

 人員、資金の措置 ISO書類作成や各会議を担当者は通常作業の外にこなさなければならないため、泊まり込みの作業にもなった。管理職もEMS管理責任者として泊まり込み作業をした。人員は全体で本局に1名配置されたにとどまった。予算措置も認証取得に関わる委託経費を除いてほとんど措置されなかった。しかし局にはISO推進会議が設置されているので、結局は口は出すが金は出さないことになった。管理職は環境管理委員会に参加させる直勤務者の超勤を工面することにも苦労していた。
 労使協議事項 分会は、たとえば冷暖房温度、職場の労働環境保全、ISOがらみの作業増、チェックシートの変更など労働条件の変更に関して労使協議事項としてきた。しかしISOがらみの変更については、トップマネジメントに関わる事項ともなり下部討議して検討する時間もとれず、環境管理委員会の中で文書化したものは新たな作業として追加せざるを得ず、次々と変更されていったのが現実であった。正直その種類、量と速度に適切な対応は取りきれなかった。
 むしろ本当に必要なダイオキシンに対する焼却管理等に重点を絞りきることが不可能なため、地球環境のために、住民のために、省エネ、省資源のためにがまんすべきことはがまんし、それらをチェックし、文書化し、達成率を定めて認証取得を目指すという論理に対抗できなかった。取得単位の問題から派生する部分の問題も多くある。
 認証取得の単位 東京23区の清掃工場では、認証取得単位は職場ごととなっている。所属長の権限は限られており、購入できる金額、工事できる金額等には制限がある。炉のオーバーホール、ダイオキシンエ事等決定権限よりはるかに外にある。杉並工場が現在ダイオキシン対策工事のまっただ中にあるといっても環境方針、目的にはなりえない。所属権限は工場の操業、管理、運営にかかわる部分のみであり、環境にかかわる大きな工事、補修工事には権限はない。
 つまり所属長は最高経営層と呼べるのか、はなはだ疑問である。いきおい日常的な、細かな部分が環境目標にならざるを得ない。所属が認証取得し、東京23区清掃一部事務組合当局は支援をすればよいという構造となっており責任をとる立場にはない。
 分会は認証取得は所属単位をやめ、当局単位で行えという要求を強めていく予定である。
 また特に問題なのはISO認証取得の要求事項が「経営層は、環境マネジメントシステムの実施及び管理に不可欠な資源を用意しなければならない。資源には、人的資源及び専門的な技能、技術並びに資金を含む。」とある。しかし組織が財政やコストを無視して環境対策を進めることまで要求しているわけではないとして、人員、超勤手当、その他ほとんど無視されるばかりか、省エネ効果による節約金額が設定された。
 確かにISOを取得して、公害監視機器に対する注意、炉の運転操作において規定された温度等で燃焼状態を維持させること等の意識が向上したのも事実である。しかし職員の負担の増加を考えると今述べたような問題点も多い。
 文書化に伴なう課題 EMSは、常に文書での確認とそれに対する是正が要求される。それに付随して通常業務もますます文書化されていく。文書化されると、その文書が勝手に動いていく。これをチェックしないと怖いことになる。
 透明性向上と情報公開 ISO14001は民間企業を含めた共通の土俵である。ISO14001の認証取得自体が、透明性の向上になる。従って、情報公開の方法に対する対処の仕方を労働組合として本格的に検討するべき時に来ている。

5.まとめにかえて

 ISO要求事項とはトップマネジメントであり、P(Plan:環境方針、計画)一D(Do:実施及び運用)一C(Check:点検及び是正措置)一A(Action:経営層の見直し)サークルにより経営層が継続的改善を求められ、トップダウンでものごとが決まっていくことになっている。ここに労働組合の参加を求めているわけではない。ISOの流れの中に労働組合が如何にかむことができるか。組織的にも力量的にも大変な事項である。
 民間のQCグループが認証取得の推進役となったと聞く。東京都も副次的効果として仕事の効率化、住民サービスの向上をあげている。職場実感としては現行の仕事の上に膨大なISOが乗っかったという感じで、認証取得後においてもISOに振り回されている状態である。文書の書式1つにしても条例、規則に沿って仕事をこなさなければならない自治体職員の場合、このことで作業が効率化したもの、あるいは楽になった部分はない。特に地方財政危機を理由とする人員削減が続くなか、ISOの認証取得を自己目的化すべきではない。
 ISOは自ら目標を設定するものである。ISO取得の有無にかかわらず、本来ダイオキシン対策や公害対策等は、清掃工場では当然の仕事として行っていかなくてはならない事柄である。
 ISO14001認証取得の判断にあたっては、「環境自治体を作るには認証取得は当然」という安易な観念的な態度からではなく、①最高経営層(実体的には首長が望ましい)をきっちり定める、②人員、資金の措置をはっきりさせる、③自治体内的には労働組合との協議のあり方(チェックも含めて)を労使合意する、④透明性向上との関係で情報公開への労働組合としての対処方針 ─ を明確にした上で認証取得に取り組むべきであろう。