学校給食用食器選定の取り組み
~自治体が加害者とならないために~

鳥取県本部/米子市職員労働組合

 

1. はじめに

 米子市は鳥取県の西端に位置し、人口が14万人弱で鳥取県の西部圏域の中心都市になっている。米子市の学校給食用食器は、今年度の2学期から更新されることになり、昨年から選定作業が進められ、その結果、新食器は内側がステンレス製で外側がポリプロピレン製の二重構造の食器とすることとなった。選定の過程では、昨今の環境ホルモンをはじめとした添加剤等の安全性への関心の高まりと、人々の環境問題に対する急速な意識の向上などから食の「安全性」に最も議論が集中した。このレポートでは、今回の新食器選定に至る経過をはじめとし、過去に行われた食器の変更に伴う行政と組合の対応について検証するとともに、環境(「食の安全」)を守る立場から、「自治体が加害者とならないために」、今後自治体や組合がどのように取り組んでいくべきか提起する。

2. 米子市の学校給食の現状

 米子市の学投給食は小学校の全23校と中学校の内の1校(米子市と隣接自治体との組合立中学校)、及び市立の養護学校を対象に完全給食を実施しているが、その他の中学校9校では部分給食(牛乳のみの給食)を行うにとどまっている。調理方式については、小学校では23校の内9校で単独自校方式で行われており、それ以外の小学校14校と前述の組合立中学校1校及び養護学校についてはセンター方式(1ヵ所)で行っている。単独調理校9校の給食施設については、老朽化が進んできたことと0-157対策として昨年度から5ヵ年計画でウェット方式からドライ方式への施設改善を行っている。2000年度の調理食数は単独自校調理校で9校合わせて2,968食、給食センターで7,007食の合計9,975食となっている。

3. 前回の食器選定

 今年度の1学期限りで廃止されることとなった食器(ポリカーボネート製)は1993年の2学期から使用されている。この食器を決定する際、1991年12月から1993年2月までの1年3ヵ月間にわたり選定作業が行われたのだが、ここではその時点の選定作業の経過を振り返ってみたい。

(1) 食器検討(選定)委員会
  当時の食器選定の流れは、まず学識経験者やPTA代表、調理員代表等で構成される『米子市学校給食食器検討委員会』で食器の「材質」を検討し、その後、学校給食関係者(学校長、調理員、栄養職員等)で組織された「米子市学校給食用食器選定委員会」で食器の色、形、大きさ等を決定するというものであった。
  当時米子市の学校給食では、アルマイト製汁食器とステンレス製ランチ皿を使用していたが、熱い食品を入れると外側まで熱くなり火傷の危険があること、またそれに伴い子どもに「犬食い」の癖がつくこと、そしてアルマイトがはげた部分に発ガン性の疑いがあること等から新しく採用する食器の材質としては不適格であると判断された。
  したがって、新しい食器については、アルマイト製食器のマイナス部分を補うものとして、発ガン性等の危険性がなく、また熱い食事でも手に持ち、口にすることもできること、そして保温性も高いことが必要とされた。その条件に合致し、その上色彩が豊かで暖かみもあり、また適度の弾力性があり破損しにくいため作業がしやすいという、当時全国的に注目されつつあった合成樹脂製の食器を新しい食器とすることが適当であるとされた。
  そして合成樹脂製品の中で、食器として商品化されていたポリカーボネートとポリプロピレンの内、ポリプロピレンについてはその添加剤BHT(酸化防止剤)が発ガン性の疑いがあるとして除外され、ポリカーボネートについては、当時厚生省による安全面での保証があったことから安全性では確保されているとされ、最終的にポリカーボネートが選定されたのである。しかし、ランチ皿については、ポリピロピレン製しか市販されていなかったため、ポリプロピレン製が使用されることとなった。また、ポリカーボネートについても当時から一部で危険性を指摘されており、検討委員会でも安全面を疑問視する声もあったが、最終的には国による安全だというお墨付きが選定に至った大きな要因だったという面も否定できない。

(2) 組合の対応
  「検討委員会」「選定委員会」を経て選定されたポリカーボネート製食器の使用について、正式に組合協議があり、組合内部での議論が行われたが、委員会に組合役員も参加してきたこともあり、組合はこの選定結果に反対はしなかった。というよりも、むしろポリカーボネートの採用を強く推していたのである。一部で危険性を指摘されているという事実よりも、「破損しにくく、軽い=作業がしやすい(楽である)」という労働者(調理員)にとっての利点を最優先に考えた結果であった。

4. 前回の食器選定から今回の食器選定まで

 こうして選定され、使用されたポリカーボネート製食器だが、その後「環境ホルモン」が溶出することが判明し、社会的な問題として取り上げられ、米子市においてもポリカーボネート製食器は次期の食器選定にあたっては除外すべきものとして認識されていったのである。
 全国的に見ても、ポリカーボネート製食器を使用している自治体が多かったが、「環境ホルモン」問題が浮上した後、率先して他の食器に変更する自治体も出てきた。(下記「PC食器使用割合の推移」参照)

PC食器使用割合の推移(全国)

 しかし、「環境ホルモン」問題が浮上した後も、米子市ではポリカーボネート製食器を、次期食器選定時まで使用し続けることとなる。
 そしてポリカーボネート製食器の耐用年数(5年、または1,000回使用)及び環境ホルモン問題への対応から、米子市では1999年に新しい食器を選定し、2000年度から使用することとなった。
 その選定の経過については後述するが、その前に反省しなければならないことがある。ポリカーボネート製食器の耐用年数は、前述したように5年又は1,000回使用であるのだが、今回新しい食器に変更されたのが今年の9月であるから、ポリカーボネート製食器を7年間使用し続けたことになる。さらに、年間180食として計算すれば使用回数も1,000回を完全に超えているのである。確かに5年経過時点で、食器の変更について若干の内部検討があったが、まだ充分使用できるとして、見送られてしまった。このことは、公の学校給食を実施している自治体にあってはならないことであり、耐用年数経過までに次期の食器選定をするのが当然の責任であることを真剣に考えていなかったといえる。仮に次期食器の材質等が決定していないとしても、最低限同じ材質での更新はできていたはずである。
 もちろん、その時点で使用の延長を容認してしまった組合の責任も大きいものであり、その反省を踏まえ、その後の食器選定に積極的に関わっていくことが課題となった。

5. 今回の食器選定

 前回の食器選定、そしてこの間の取り組みの経過を踏まえ、今回の食器選定については、組合として内部討議を重ねながら、市当局に早急な食器選定作業を迫ったのであるが、ようやく選定作業が始まったのが1999年9月であった。
 ここでは、今回の食器選定についての経過を振り返ることとする。

(1) 食器選定委員会
  当初、選定の事務局である教育委員会は、選定委員会のメンバーには学識経験者を含めない意向であったが、これに対し組合側としては、環境ホルモン問題をはじめとする安全衛生面を重視した選定作業を行うためには、専門的知識を持つ人を欠かすことはできないと強く主張した結果、学識経験者2名を委員会のメンバーとすることで合意した。同時に、労働組合代表についてもメンバーに加えることとした。その結果、選定委員会は、学識経験者2名、労働組合代表3名(内調理員2名)の他に小学校校長会から2名、PTA代表者3名、給食主任2名、栄養士2名の合計14名で構成されることになった。
  『米子市学校給食用食器選定委員会』は1999年の9月から12月までの間で4回開催され、ポリカーボネートの安全性が疑われている状況での材質の検討ということから、合成樹脂製品をはじめとして各種食器材質の安全性に議論が集中した。
  まず、学識経験者が用意した資料により環境ホルモンと合成樹脂について検討を行った結果、ポリカーボネートに含まれるビスフェノールAが内分泌かく乱物質として生物の生殖に一定の影響を与える事例があったという事実を重視し、「疑わしきは使用せず」の観点で新食器の候補からポリカーボネート製品を除外することとなった。
  続いて、メラミン樹脂についても発ガン性のあるホルムアルデヒドが溶出する危険性があるということで好ましくないと認識され、現時点で安全性が確認されているものの中で検討を行うことになった。
  そして、強化磁器、ステンレス、加えて前回の選定の際に発ガン性があるBHTが含まれているとして除外されたポリプロピレンについても、最近の製品には含まれていないか、あるいは含まれていてもごく微量であり、安全性が明らかになっていることとされ、今回はこの三つの候補からの選択ということになった。
  その内、安全面でより信頼性がおけるものとしてまずステンレスと強化磁器があげられ、次のような意見が交わされた。
 ① ステンレス…色感が無く冷たい感じがし、食べ物を入れた場合おいしそうに見えない。
 ② 強化磁器…色彩豊富で深みのある絵柄が表現でき、多くの家庭で食器として使われているので親しみがあり、給食をおいしく食べることができるが、破損しやすいことで調理作業上や子どもが扱う際に問題がある。
  このように、安全性では優れていると認識されているステンレスと強化磁器であるが、見た目とか使いやすさなどの安全性以外の点で問題点が指摘された。しかし、強化磁器の問題点(破損しやすい)については、教育的観点から言えば、物を丁寧に扱うことを覚えることができ、除外すべき問題点ではないという意見が多く、よりおいしく食事をすることができ、教育的な効果も期待できる強化磁器が学校給食の教育の一環という位置づけからも、より望ましい食器であると認識された。
  この時点では、今回の食器選定における最大の課題であった安全性を優先とした結論が目前となっていた。もちろん、組合も望んでいた内容であり、現場の調理員においても、子ども達にとって最も安全な材質が使用されることを重要視していたため、「壊れやすく重たい」という問題点は抱えながらも、強化磁器の導入に積極的だった。
  しかし、選定委員会の議論が実際の導入を想定したものに移った時、これまでの方向性に変化が生じてきたのである。
  この議論の契機になったのは、「新しい食器を使用する場合には、学校間で差別感が生じないよう一斉に更新するべきである。」という趣旨の発言からである。前述したとおり、米子市では単独調理校のドライ方式への改修を進めており、改修済みの学校については強化磁器に更新されることにより想定される保管庫の増配置に対応することが面積的に可能だが、その他の単独調理校や給食センターでは建物を改築しない限り強化磁器に対応したスペースの拡大は困難な状況にあるという問題が生じてきたのである。このことについて、事務局からは「給食センター、単独調理校全ての洗浄器の変更、保管庫の増配置とそれに伴う調理室スペースの拡大については、米子市の財政事情から非常に困難である。」という見解が出された。さらに、「食器更新に要する費用を最低限にするためには、従来のポリカーボネート製品と同様の形、大きさの製品があるため、洗浄器の様式変更の必要もなく、また保管庫もそのまま使えるポリプロピレン製品を最適と考えている」旨の報告がされた。
  これについて委員会では、「あくまで強化磁器を結論とすべき」という意見と、「採用される状況にないのなら、採用の可能性の高いものを選定することもやむを得ない」という意見とが出された。結局、委員会としては、「実際に採用されない(かもしれない)ものだけを選定結果とするよりも、望ましい食器と、それが採用される諸条件が整うまでの間、暫定的に使用する食器とを併せて報告する必要がある」という結論となった。
  こうして、ポリプロピレンについて協議した結果、かつて使用されていたBHTに関しては、既に安全性が確認済みであったことや、現状で一斉に強化磁器に更新できる物理的条件になく、市の財政状況から非常に困難であるとの観点から市側の要望を受け入れる形でポリプロピレンについても併せて委員会の選定結果とすることとなった。
  選定委員会報告書の「結論」は、以下のとおりとなった。
  『望ましい学校給食用食器として、強化磁器を選定します。しかし、現在の設備さ速やかに対応できるものとしては、学校給食用合成樹脂製食器の中で安全性が高いのは、ポリプロピレン製食器であるので、これに一斉に替え、その上で、段階的に強化磁器に移行されることが適当と思量する。』

(2) 組合の対応
  委員会による選定作業はこうして2000年1月に終了した。組合としてはまず2月15日に調理員部会を開催して、選定委員会の結論についてどう考えるのかを議論した。強化磁器については、その重さ、壊れやすさなどから仕事の面で負担が増えるという意見も出されたが、食の安全を第一に考えるという意味で組合として最も力を入れて取り組んでいくべき食器として了承された。また、暫定品のポリプロピレンに対しては、「現在の商品の安全性が確保されているなら、暫定的使用もやむを得ない」ということで了承され、後日の教育委員会との協議に臨んだ。
  2月25日の教育委員会との協議では、当然選定委員会の結論であったポリプロピレン製食器が提案されるものとばかり思っていたが、実際の提案は、「新食器については内側がステンレスで外側がポリプロピレンの二重構造の食器(以下、二重食器という)としたい」というものであった。選定委員会の結論と異なっている理由を質したところ、
 ① 二重食器は最近商品化されたため選定委員会での候補品とはならなかったが、内側がステンレスということでポリプロピレン単体製品より安全性が高いと判断した。
 ② 市民団体から、ポリプロピレン製品は安全性に疑いがあり好ましくないので、食器として導入すべきではないという申し入れがあった。
というものであった。
  これに対し、「選定委員会の結論と違う提案はおかしい、ステンレスは選定委員会で冷たい感じがする等の理由で除外されたはずであり、外側と内側がはがれるおそれ等安全性についても確認されていない」と抗議し、さらに「住民参加の場である選定委員会での結論を軽視することは認められないので、変更内容について選定委員会の承認を得ること」を要求した。
  その後、選定委員会のメンバーに対し、承認を求める場として変更内容に関する説明会が3月6日に開催された。委員側からは、「ステンレスの冷たいイメージが味覚に影響する」「外側と内側がはがれる危険性がある」などの意見が出されたが、最終的に、ポリプロピレン単体製品よりも安全性が高いということで了解が得られた。
  組合は、3月13日、二重食器の提案について調理員部会を開催した。二重食器については安全性がより確保でき、組合及び選定委員会での「食の安全」第一の考え方に近づくものとして、ポリプロピレン単体品よりむしろ望ましいという意見が大勢を占めた。
  そして議論は二重食器に変わることにより給食用具が給食センター管理から一部学校管理になる可能性がある、ということに重点が置かれた。つまり、二重食器に変わった場合、食器が従来のものよりかさ張るため、給食籠に玉じゃくし・スプーン等の付属品が納まらなくなり、コンテナによる各受給校への配送や給食センターでの保管が困難になるので、付属品は受給校側で洗浄・保管を行うというのである。このことについて調理員としては「学校管理では衛生面の徹底に不安がある。」「調理員として給食関連の備品の衛生については責任を持ちたい。」という意見が出され、この点についても当局側の方針を質していくこととした。
  これらの意見を受け、3月17日に開催した現業執行委員会でも、二重食器について組合として了承し、同時に付属品の問題で当局を追及していくこととした。そして、これらの議論を元に3月21日に労使協議を行い、二重食器については合意し、付属品の件は、新食器の実際の使用が始まる2学期までの間で協議していくこととした。(その後、従来のポリカーボネート製品と形状・寸法がほぼ同じ二重食器製品が商品化され、入札の結果その商品が新食器として採用されることとなったため、取り扱いは従来どおりとなった。)

(3) 選定経過をふり返って
  前回の食器選定の教訓を踏まえて望んだはずの今回の食器選定であったが、その経過を振り返ると、幾つかの問題点が浮かび上がってくる。
  第1点は、真の住民参加による決定がなされたか? という点である。各方面から選出された、いわゆる市民参加型であったはずの選定委員会の結論が出る段になって、行政が財政事情を理由に委員会の結論を誘導してしまったのである。今回の選定委員会では、各委員から多種多様な意見が出され、最大のテーマであった「安全性」を重視した結論が出されようとしていた矢先に、「米子市の財政事情からは困難である」という発言が委員からでなく事務局から飛び出し、さらに「ポリプロピレン製ならば対応できる」とまで述べたのである。これは、紛れもなく住民代表が参加した選定委員会の主体性を無視したやり方であり、4ヵ月にわたる議論も結局は市の思惑どおりに運ばせ、「住民参加の議論の上で決定した」形をとっただけにすぎなかったと感じられるのである。
  また、住民参加の場(選定委員会)で出された結論を十分な再議論もなく安易に変更した(二重食器の導入)ことも問題であり、行政の住民参加に対する姿勢が問われる内容であった。
  2点目は、議論の時間が十分でなかったことである。
  今回の選定委員会がスタートしたのが食器変更時期のわずか1年前であり、しかも次年度予算を審議する議会開催をリミットとしていたために、委員会が合計4回しか開催されなかった。
  これにより、食器の重さや壊れやすさが児童・生徒や調理員に及ぼす影響など幾つかの問題について深く議論する時間を持つことができなかった。また、議論の形態として、多角的に意見を聴取することが必要であったが、それも時間の不十分さにより行うことができなかった。食器に食べ物を入れての検討や、実際に食事をする児童・生徒たちの意見も取り入れる必要があったと思われる。
  以上のように、今回の選定の過程でも、いろいろな問題点が生じてしまった。もちろん、最大の問題は行政の取り組み方にあるのだが、同時に、その行政に携わっている職員の団体である組合にも同等の責任があると言えるのではないだろうか?
  前述したように、前回の食器選定から耐用年数をかなり超過しているにも拘らず、今回の選定作業を早期に実行させることができなかったこと、そして議論の場に参加しながらも行政の過ちを正すことが十分にでき得なかったことである。組合として今後もあらゆる問題に取り組むにあたって、検討委員会等に労働者代表として参加していくことがあるが、参加した委員はその場の議論に対応することが精一杯で、組合の考え方を十分に発言することは非常に困難であり、公の議論(検討委員会等)に並行して組合内部で十分な議論をしながら進めていく必要があり、その方式を取らなければ、組合代表として委員を出席させる意味がないのである。公の議論に参加するのは委員だけではなく、組合であることを改めて認識させられた取り組みだった。

6. 今後の課題

 組合としては今後、選定委員会で望まれる食器とされた強化磁器を、可能なところから導入するよう当局への働きかけを続けていく必要がある。前述のように、強化磁器に更新してもスペース的に対応できる施設が単独調理校の施設改善によって順次増えていく。このような施設からでも、できるだけ早期に強化磁器を導入するよう要求していかなければならない。
 また一方では、次回の食器更新に向けた取り組みをただちに実施していく必要がある。
 そのまず第一点は、食器の材質の検討を早い時期から十分に行うことである。選定当時には安全とされていた材質がその後の研究、検査により危険なものとされたり、環境問題のクローズアップによる安全意識の高まりにより不適当なものとされるケースを前回、今回の食器選定の過程で経験してきた。米子市の給食作業で使用していた塩化ビニール製手袋も先般、環境ホルモン溶出の疑いで厚生省から使用の自粛が求められた。(米子市では即時に使用中止の措置を取り、現在はゴム手袋を使用している。)また、今回安全性が高い望ましい食器として報告された強化磁器についても、その釉薬(うわぐすり)の安全性を疑問視する見方もある。組合としては、次の食器更新に向け組合独自に、あるいは米子市労働安全衛生委員会の場等で今回安全とされた強化磁器を含めて素材の検討を行っていくなど、早い時期から調査・検討を始めていかなければならない。
 もう一点は、より広範な意見を集めることができるような体制を作っていくことである。米子市の選定の体制としては、前回、今回とも選定委員会を開催して一定の意見聴取はなされたが、次回は児童・生徒たちの意見を取り入れるのはもちろん、市民参画をより取り入れて決定していく体制を求めていくことが必要である。組合としては、市民参画のシステムの提案に加え、市民参画の場への参加や場合によっては自らそういう場を設け、コーディネートしていくことも考えていかなければならない。
 前回の選定の際、一部から危険性の疑いの声のあったポリカーボネートに決定したことや、今回の選定で望ましい食器とされた強化磁器と異なる二重食器が導入されたように、こと安全性に関しては最善の結果であったとは言い難い状況が続いた。こうした選定経過で採用された食器により万一その後人体に害を及ぼすケースが生じたとしても、行政の責任を追及されることは現行の法制度の下では可能性は低いであろう。しかし、だから良いというわけではもちろんなく、少しでも危険なものは避けるという姿勢がやはり行政には必要である。経済的な合理性(財政事情等)を犠牲にして安全性を求めることが行政に求められることであり、市民が行政に対し最も期待するのもその点である。このことはまた、行政だからでき得る、という側面があることも忘れてはならない。
 いうまでもなく、給食は人体に入る食物を扱うものであり、給食をサービスする主体の自治体は環境破壊から住民を守るべき立場のものである。その自治体が間違っても加害者となってはならない。そのために、行政として、組合として、食物に触れる可能性のあるすべてのものについて環境ホルモンなどの危険性がないかを検証し、食の安全には万全を期していかなければならない。そのことが、自治体に対する住民の信頼感を得ることにつながり、自治体が給食事業を直営で行う大きな意味がそこにあるのである。
 最後に、今後我々が、あらゆる環境問題に取り組む際、絶対に忘れてはならない合言葉を確認したい。

          『自治体が加害者とならないために』