水基本法制定に向けて

自治労/公営企業評議会・水基本法プロジェクト

 

1. 提案にあたって

 自治労公営企業評議会は、20余年にわたり自らの政策として「水道政策集」「下水道政策集」「県公企政策集」を3次に及ぶ改定を繰り返しながら提起してきた。これらの政策集では、一貫して水政策の重要性を訴えてきたが、総合的な水管理についての基本法律の策定が大きな課題であった。
 今日では、地球規模での環境問題が緊急の課題であり、とりわけ水問題は地球上の生き物が未来永劫、生き延びていくためには、さけて通ることのできない課題として議論が活発となってきた。
 国内においてもようやく水行政について注目を集め、関係各省庁でも総合的水管理についての議論が活発化してきた。各省庁において、審議会、研究会など多くの機関で提言や報告がまとめられているが、いずれも基本法制定を具体化するものではない。
 そこで私たちは、流域毎の水源涵養、治水、利水、排水など統合的な水管理を提起し、良好な水循環、水環境を取り戻し、地球が「水の惑星」として持続していくために「水基本法」を提起するものである。

2. 水基本法案の概要

(1) 基本的視点
 ① 「水は公共のもの」という概念を確立する
 水は、海洋、大気、陸地と自然の摂理に沿って絶えず循環している。この連続した水循環を総体としてとらえ、この水循環系への負荷を最小化する地域づくりを行うとともに、健全な水循環の保全と再生を図らなければならない。
 地下水は地表水と一体となって水循環を形成しているにもかかわらず、現在、地下水は土地の権利に属すると見られており、健全な水循環を阻害する要因となっている。そのため、地表水も地下水も「水は公共のもの」であるという概念を確立する必要がある。
 ② 統合的な水管理体制をめざす
 日本の水行政は、環境庁、国土庁、厚生省、農林水産省、通商産業省、建設省等の縦割り的管理となっており、地方自治体においても中央政府の組織・施策に照応する体制となっている。
 このため、水源開発、供給施設の整備、治山・治水対策、森林の保全・整備等の水源保全対策、水質保全対策、地下水利用の適正化、雑用水利用の促進等の諸施策が個別的かつ競合的に実施されてきており、水資源管理や水環境保全が適切に行われていない現状にある。
 このような現状への反省もあって、近年、各省庁の審議会や研究会、関連機関(日本下水道協会等)から、水循環や水環境の視点を重視し、流域単位の総合的水管理を求める意見が多く出されている。また、98年8月には前述6省庁の担当課長クラスによる「健全な水環境系構築に関する関係省庁連絡会議」が設置された。しかし、これらの議論は求心力に乏しく、水政策の新たな展開に至っていない。いまこそ、持続可能な共生型社会を形成することを目的として、水に関する統合的な政策や施策を実施し、市民・自治体・国・企業などが相互に連携し、責任と役割を分担しつつ協働し、統合的水管理システムを確立することが求められている。
 ③ 流域を基本単位とした自己管理を確立すること
 水は自然形態として存在する分水嶺により区切られた集水域(流域)を単位に循環している。したがって、水の管理も流域を単位として行う必要がある。
 各流域は、自然的・社会的・歴史的条件が異なることから、水行政に関わる課題についてもそれぞれ重要度が異なる。このため、国の全国一律の基準による管理でなく、流域ごとの地域に適合した水政策や水管理を住民合意で作り出していくことができるようにしなければならない。
 このため、水に関わる国の権限を分権し、流域単位に自己決定し、自己責任を負えるようにすることが必要である。また、流域は複数の自治体にまたがることが多い。したがって、流域の基本的施策は個別自治体単位ではなく、統合的に行われなくてはならない。
 ④ 統合的水管理への住民参加と水行政の公正・透明性を確立すること
 各地でダムや堰の建設、干拓事業や下水道事業など、水に関わる事業で住民の反対や事業の透明性を求める運動が起きている。
 水源開発についてはダムや堰の建設が主に行われているが、水利権の転用や事業の見直し、地域住民の節水、土地利用の見直しなどの政策を積極的に進めていく必要がある。また、過大な下水道計画によって、環境や財政が破壊されており、地域にあった計画が求められる。
 これらの水政策を推進していくためには、住民の参加・参画が重要な要素となってくるため、国・自治体・事業者の責務と住民の権利と義務、財源のあり方を明確にしていく必要がある。
 また、水行政を流域ごとに分権化するということは、中央の巨大な財源・権限の分散化を意味するが、これらの財源や権限は住民によってコントロールされなければならない。このため行政や議会・審議会の情報公開や事業執行の監視、計画段階からの住民の参加などにより水行政の透明性を担保し、その結果については住民が責任を負うことを可能にするような条件整備をはかるべきである。
 ⑤ 水基本法の必要性と関係法規との関係
 現行の水関連諸法は縦割りの事業法的性格が強いため、新たに「水基本法」を制定することが必要である。また、この法律の主旨にそって、関係法令を改正しなければならない。同時に、水基本法は関係法規の上位法であり、個別法の改正にあたっては本法の趣旨に反してはならない。

(2) 水基本法案の構成
  水基本法案は、前文を置き、条文は5章で構成する。
 ◎ 前文
 前文では、「水は環境と生命の基本」であるとの認識に立ち、地球規模で水不足がもたらす紛争の危機や環境汚染の広がりへの対応、国内における水の資源管理と環境管理のあり方の見直しが必要であることを述べる。そして、「自然と共生する安全・安心の節水型社会を創造することが、次世代の国民や国際社会に対し、現在に生きる私たちに課せられた使命である」と宣言する。
 ◎ 第1章(総則)
 総則では、目的、基本原則、用語の定義を条文化し、続いて、国、地方自治体、事業者の責務、住民の権利と責務を明らかにする。「基本原則」では「地表水と地下水は公共のもの」と宣言し「流域単位の統合的な水管理」の原則を定める。「国の責務」では「国の権限に属する事務の一部を流域連合で処理できるようにする」と規定する。そして、「住民の権利と責務」では、水循環・水環境保全のための努力義務を明確にする。
 ◎ 第2章(組織)
 統合的な水管理の執行機関として流域単位に「流域連合」(地方自治法上の広域連合)を設置すること、流域連合に審議機関として「流域審議会」を設置することを規定する。
 国の権限に属する水利権等の許認可などの事務を流域連合が処理できるようにし、国の役割を全国的な大枠としての計画策定、必要最低限の全国的な調整、支援にとどめる。また、国の審議機関として「水政策審議会」を設置する。
 ◎ 第3章(総合計画)
 第3章では国レベルの流域全国計画と各流域総合計画、さらに水利権について定める。流域全国計画では流域連合の区域を定める。統合的水管理の基礎となる流域総合計画は、流域単位で作成する。「水利権」では、地下水についても河川流水と同様に占用の許可を必要とするよう規定する。現状の水利権と地下水の使用権については基本法の全面施行までに実態調査を行うことを特記する。また、水利権の運用を円滑にするため、適切な補償原則を明文化した。
 ◎ 第4章(財政)
 統合的水管理を行うための財源は、流域連合(広域連合)構成自治体の分賦金、利水負担金、国庫支出金の3種類とする。
 自治体分賦金は、市町村にあっては基礎分賦金、汚水分賦金、雨水分賦金の合計とする。汚水分賦布金と雨水分賦金は汚水衛生処理率の向上や雨水流出抑制に伴って減額させる仕組みとする。
 都道府県の分賦金は市町村分賦金の合計金額に一定の乗率を掛けて算定する。
 利水負担金は利水目的などを考慮し設定する。
 国庫支出金は、流域連合が行う国の権限に属する事務に要する経費と、統合的水管理に伴う国家的受益に対する負担金である。
 具体的金額や負担割合などは、経費の予測も行いながら、水政策審議会や流域審議会の検討を経て決定する。
 ◎ 第5章(雑則と付則)
 「雑則」では、流域管理の要となる実態調査について特記し、付則で法の施行を3年以内と規定した。ただし、水政策審議会設置と計画作成のための現状調査については法公布の日から施行することとした。