協働(産官学民)による生ごみ堆肥実用化への取り組み

大阪府本部/自治労豊中市労働組合連合会・とよなか市民環境会議生ごみ堆肥化プロジェクト

 

1. はじめに

 豊中市では現在、焼却処理している市の給食センターから排出される調理残渣及び子どもの食べ残しと市内の樹木剪定枝を活用した堆肥実用化の検討を行っている。
 この発端は「とよなか市民環境会議生ごみ堆肥化プロジェクト(市民・行政・企業・自治体労組などのパートナー組織)」による堆肥化の基礎的研究や試行的実験の結果を踏まえ、その活動の総括にもとづく具体の提案を受けたことによる。
 今後、学識の協力や行政の検討作業に市民参加も得て、理論的な構築も含め堆肥実用化に向けた問題整理がなされるが、この間の経緯を報告するなかで、地方分権を望見したい。

2. とよなか市民環境会議とは

 豊中市では、1995(平成7)年10月に「豊中市環境基本条例」を施行し、その後、行政計画である「環境基本計画」と共通の理念・目標・望ましい環境像をもつ「ローカルアジェンダ21」の策定に向け市民の参加・参画の手法を取り入れた。
 「とよなか市民環境会議」(以下「市民環境会議」という。)市長を会長に市民・事業者・行政の人々が共にこれからの豊中の環境づくりをしようと集まったパートナーシップの組織で、市内の約150団体と市民が参加し、「ローカルアジェンダ21(101の行動提案)」をまとめ、引き続き市内での環境行動に取り組んでいる。
 豊中市では、環境行政を推進する体制を構築し、このなかでは「市民環境会議」や「市労連」も含め次のような組織が確立されている。

豊中市環境行政組織図

 「市民環境会議」のもとにワーキンググループが設けられ、「アジェンダ21」の具体的な普及活動に取り組むため、自然(ビオトープや自然観察会など)・産業(ISO14001の認証研修やエコオフィスなど)・交通(アイドリングストップ運動など)・生活(環境家計簿やマイバック運動など)の4部会のほか企画屋本舗(環境出前講座など)・竹炭づくりなどのプロジェクトチームが日々の活動を展開している。「生ごみ堆肥化プロジェクト」もこのなかの活動の一環である。
 このワーキンググループの参加メンバーには、「環境基本条例」の策定過程において「豊中市環境審議会」からのヒアリングを受けた団体の構成員で、その後いくつかの団体で結成された「豊中環境ネットワーク」が発展的に解消して、自主的にワーキングのメンバーに移行した。

3. 堆肥化プロジェクトの取り組み

 大地から収穫された物を再び土に戻すことが食物連鎖の原則である。人が食する過程で排出される生ごみを堆肥化することで、資源(肥料)として作物の生産に応用することが、ごみの減量はもとより、資源の有効活用を通じた循環型社会の形成の上で意義をもつと認識して「堆肥化の実験」を開始した。

(1) 取り組みメンバー
  「市民環境会議」に「生ごみ堆肥化プロジェクトチーム」を設置し、実際の活動は市民と自治労豊中市労連(市職・水労・市従・クリーン労)及び行政(環境・土木・清掃関係)が協働して行った。また、生協(北大阪生活協同組合「野菜くず」)と市内の企業(松下産業機器「社員食堂」)の協力を得た。機械は堆肥機メーカーから無償の提供(貸与)を受けている。

(2) 実験概要

回     数 第1回目 第2回目 第3回目
位 置 づ け 基礎的研究 試行的実験 基本設計実験
実 施 期 間 99.8.3~9.10 00.2.1~5.31 00.6.19~7.18

投入生ごみ

投 入 量
市役所食堂

1日 60㎏
市役所食堂
生協・企業
1日 200㎏
給食センター

1日 200㎏
副 原 料
投 入 量
おから・剪定枝
1日 60㎏
剪定枝
1日 400㎏
剪定枝
1日 400㎏
検 証 目 的 ごみの分別
生ごみ量
ごみの種類
堆肥の成分分析
臭気の発生検証
熟成期間の検証
虫の発生確認
発芽・栽培テスト
実用化の可能性
堆肥の活用先拡大
市民の理解と参加
実験の理論的整理
システムの研究
水分調整の検証
問題点整理

 

(3) 実験の総括
 ① 調査・研修(学習会)の実施
   灘神戸生協堆肥工場(三木エコファーム)の見学、 盛岡市紫波地区の生ごみ堆肥化事業の視察、コンポスト助成制度の活用市民に対する調査、環境学習会、生ごみ循環体験見学会及び学習・講演会、生ごみリサイクル講演会、市労連生ごみ堆肥化学習会などに実験と並行して取り組んだ。
   なかでも3回の学習・講演会では市民約350人以上の参加を得た。
 ② 堆肥の活用先の確保と拡大
   実験による完成堆肥をどう活用するか、実用化の最大課題であり腐心した。結果は近隣の市町(大阪府箕面市・豊能町)の農家の協力を得て「小松菜」「ほうれん草」など発芽・栽培テストを行い、試食の結果は好評であった。
   このほか地元の農家で「水田」における実験や「カボチャ栽培」に挑戦していただいている。また、大阪鶴見花博協会の援助を得て、「花いっぱい運動(市内の公園「1ヵ所」での花植え)」運動に取り組んだ。この活動は、公園近隣の自治会有志とプロジェクトメンバー、市土木部の共同作業であった。
   なお、完成堆肥については今後行政に実用化の提案を予定することから、成分及び安全性基準検査を実施した。
 ③ 実験での把握と課題
   プロジェクトが当初にもった基礎的研究の目的は堆肥実用化の可能性があるかにあった。2回目の実験は、行政に対し事業者の立場から堆肥の実用化の検討を求(提案)めていくことの妥当性の有無を判断することであった。
   現在は市内から排出される生ごみや樹木の剪定枝は一部を除き焼却処分されており、これを活用する堆肥化が最も資源の有効活用に結びつくことから、実験の3回目は、行政内部の検討開始(後述)を踏まえその裏付けを整理することにあった。そのため、実用化の生ごみは排出事業場である給食センターの生ごみと市土木部が事業化している剪定チップ(提供)による堆肥化実験とした。
   3回の実験で判明したことは、①製品化した堆肥の活用ルートが確保できるかである。長期的に安定的に堆肥の活用が担保されなければ資源循環サイクルが機能しない、②堆肥システムで重要なことは、投入生ごみ量に対し、副原料である剪定枝をどの割合で投入するかである。調整が間違えば、水分過多となり製品化は困難である、③あわせて水分調整に失敗すると臭気の発生の原因となる、などであった。
   堆肥の実用化については、概ね問題点の整理を確実に行い、正確な実用化設計を構築すれば可能であるとの結論に達した。残課題としては、ソフト(維持管理の体制)の面での解決である。

4. 総 括

 約7ヵ月のロングランにわたって、市民と労働組合や行政がパートナーシップを大事にしながら堆肥化の実験を行った。
 真冬や真夏の生ごみ運搬と投入作業、剪定枝の袋詰め作業を行う一方で、のべ12回に及ぶプロジェクト会議を開催し、実験状況の意見交換と問題整理を進めてきた。
 その結果、次の構想を基にした実用化を展望した。

5. 実験を踏まえた構想

 基礎的研究と試行的実験と今後を展望すると下図が描ける。

構想図

 

6. 生ごみ堆肥化が迫られる背景とその動き

 食品などの製造業では、発生する生ごみの再利用やリサイクルが比較的進んでいるといわれている。また、ISO14001認証に関し、ゼロエミッション活動(有機性資源の循環化)が広がってもいるが、生ごみの場合は企業内リサイクルが困難なため、外部委託に頼っており、ゼロエミッションにつながらない状況が散見されてもいる。
 堆肥化されても、流通ルートに入り込むことも困難で、僅かのルートの隙間に便乗しているのが、生ごみ再利用の実状である。
 しかし、他の分野に比較してリサイクルが進んでおり、今後とも生ごみの堆肥化が進められるものと予見される。
 一方、国の動向としては、昨年に「食糧・農業・農村基本法」が制定され、基本理念に、①食糧の安定供給の確保、②多面的機能の発揮、③農業の持続的発展、④農村の振興、が唱われた。また、法第32条では(自然循環機能の維持増進)として環境保全型農業の再構築が定められている。
 さらには、先の国会で「食品循環資源の再生利用等の促進に関する法律案」が成立した。この法律は、「食品の売れ残りや食べ残し、食品の製造過程において大量に発生している食品廃棄物を、発生抑制や減量化して、最終的に処分される量を減らすとともに、肥料等の原材料として再生利用するため、食品関連事業者(製造・流通・外食等)により、食品循環資源の再生利用等を促進することを」目的としている。
 このなかで、地方公共団体の役割として、「区域の経済的社会的諸条件に応じて食品循環資源の再生利用等を促進するよう努めなければならない。」としている。
 また、「循環型社会形成促進法(21世紀に循環型社会の確立を図る)」では、例えば、ごみを循環資源ととらえ適正な処分により環境への負荷を少なくすることとして、処理責任を明確にすることを基本に、①発生の抑制、②再使用、③リサイクル、④熱回収、⑤適正処分、⑥生産者の責任の明確化(拡大生産者責任)、などを打ち出している。
 その他、「建設資材リサイクル法」や「廃棄物処理法」の制定と改正など、時代確実に変化する情勢を迎えている。
【自治体での動き】
 堆肥化の歴史は古い。昭和30(1955)年神戸市や横浜市で実験プラントが稼働し、その後高速堆肥化装置を整備する自治体が増えた。しかし、ごみ中間施設に対する割合は僅か1%以下で、ごみ処理の主流は焼却のまま、ごみ質の変化(プラスチックの増大や重金属含有廃棄物の混入)により、堆肥の品質の劣化もあって伸びなかった。堆肥の活用先の確保も困難なことも起因した。また、生産コストと販売価格のギャップの大きさがありすぎるためといわれている。
 他方、豊中市でも助成制度があるように全国的には家庭用生ごみ処理機による堆肥化の取り組みが広がっている。
 また、コミュニティ単位による堆肥化の実用化も始まりつつある。今後は、法律の動きや環境問題での市民の自覚と関心の高まりのなかで、行政において生ごみの堆肥化をどうするのか迫られると想定される。

7. 市民環境会議の提案

 豊中市では、「環境基本条例」を制定し、「環境基本計画」や市民の参加による「ローカル・アジェンダ21」が策定され、地域から環境問題への積極的な取り組みが求められている。現在、庁内でエコオフィス推進活動に現在取り組んでいるが、この一環としても、また、今後の生ごみのリサイクル推進状況を見据え、市としての率先行動と事業者の立場から、排出される生ごみを大地に帰すことを目的として「生ごみの堆肥化」を図るべきであると提案する。
 市民環境会議は、市としての「生ごみ堆肥化施策」の確立を期待しながらも、当面、事業者の立場から「生ごみの堆肥化」に着手することを要望したい。

(1) 生ごみの堆肥化に向けて
 ① 生ごみは有機資源である
   生ごみは土に帰すことで土中の微生物によって分解され堆肥となる。
 ② 剪定枝は貴重な有機資源である
   森林の腐葉土と同じで、土中のミネラルを潤沢に保有しており、植物にとって必要な微量ミネラルが含まれている。

(2) 生ごみと剪定枝の相乗効果
  樹木剪定枝は、土中のミネラルを多量に吸収しており、堆肥として優れた資源であるが、それだけでは水分と微生物の栄養源が不足する。他方、生ごみだけでは水分が多すぎて堆肥化に困難がともなう。双方を組み合わすことで良質の堆肥となる。

(3) 堆肥としての条件
  有害物質や病原菌などが含まないとの安全性が保障され、熟成が十分施し肥料としての成分が安定すれば、生ごみと剪定枝を活用した堆肥の生産実用化は可能といえる。

 【堆肥化の構想】

 

8. 堆肥化に向けて検討すべき事項(趣旨)

 資源循環型社会構築の一環として、豊中市の事業所から排出される生ごみの堆肥化事業を市内で処理される剪定枝も活用して実施するものである。

(1) 堆肥化における留意事項
  財政の厳しい状況における庁内コンセンサスを得るには、環境行政が最優先の課題とする作風が必要である。
  行政内部における今回の取り組みの温度差の解消を図ることが必要である。
  事業所から排出される生ごみの廃棄処分費や堆肥化事業の費用対効果を算出する。
  コストに勝る環境問題でのインパクトと率先行動の波及的効果を検証する。
  リサイクルと廃棄物行政及び生ごみの堆肥化をめぐる今後の動向を把握する。

(2) 生ごみを排出する市事業所の把握と実行可能性の整理
  現在実験中の市役所食堂や給食センター・単独給食校・保育所・老健センター・市民病院・その他生ごみを排出する職場が対象となるが、当面は市役所食堂及び給食センターに限定した実行計画を作成すべきである。

(3) 剪定枝の排出事業職場
  街路樹(公園緑地)・学校剪定枝・公園樹・下水道緑化・各施設緑化樹などとなる。

(4) 堆肥の活用
  堆肥の活用で現在、可能性のある農地は豊能町の大谷農園・箕面市の柳沢農園で今後活用が見込まれるのは豊能町の豊能農事研究会及び豊中農事研究会である。また、堆肥化活動と一体で取り組んでいる「花いっぱい運動(平成15年度まで)」や市民農園その他の希望者である。なお、豊中市の各学校・幼稚園・保育所・各施設で花壇などに堆肥を使用しているが、これが活用できる。

(5) 堆肥機械の設置場所
  堆肥の実用化に際して、堆肥機械・熟成槽・完成堆肥の置き場・選別機・除去設備・その他機材置き場・トラックヤードなどの敷地を確保しなければならない。また、当然建屋の建築も必要である。

(6) 従事者の確保と収集・運搬・投入車輌の確保
  継続的な体制の構築(人・物)が求められ、車輌などの各機材の確保も必要である。

(7) 法的にクリアすべき課題
  市が直接運搬する場合、収集の許可がいるか。業者が運搬する場合、廃棄物の領域となるのか。資源として活用する際、農地では「自区内処理」が適用されるかなど。

9. 行政内部に検討会議を設置(市民も参加)

 市民の提案とこれまでの活動を踏まえ「エコオフィス推進生ごみ堆肥化検討会議(第1条 豊中市環境基本計画及豊中アジェンダ21の具体化とエコオフィス活動を率先し推進することにより循環型社会の構築を図るため、本市が事業所として排出し焼却している生ごみ及び剪定枝の堆肥化活用の実行方策を検討することを目的とする。)」が設置された。
 委員は11の関係部局(生ごみや剪定枝の排出部局)及び労働組合(環境自治体推進協議会労組代表)で、実務の部会として16名の作業部会・実務担当者を配置した。

10. 産官学民の協働での検討開始

 検討に際し、産業界や学研そして市民の参加(プロジェクトメンバー3人及び学研1人)を得るため、実務検討を拡大作業部会として衣替えした。
 そして、次の事項を当面の検討課題とした。
(1) 豊中市(事業所)で排出される生ごみと剪定枝の活用を前提とした資源循環サイクルの構築にかかる理論の整理
(2) 市内のコミュニティ(特定の集合住宅を想定)を単位とした堆肥化の可能性の研究と活動にかかる理論の構築
(3) 豊中市の施策として生ごみの堆肥化の可能性の研究
について学研機関の協力を得て整理しながら、実務作業を開始している。

11. 実務の概要

実務の概要図

 

12. メッセージ

 今、確実に地球環境が破壊されている。人が生活を営む場がその原因をつくってもいる。地球環境をこれ以上悪化させないで、次世代へ繋いでいくためにも、人の生活の現場から環境問題の発信が重要である。そして、それに応えるのは市民に最も身近な自治体である。
 市民の取り組みを受け止め実用化の検討を開始した豊中市の対応は市民も実務作業に参加・参画させたこともあわせ評価できる。堆肥化で整理・克服すべき課題は余りにも多く実用化に至るか、即断できない。
 市民と行政そして学研と産業界の協働の取り組みは、自治と分権の時代に相応しい。分権はすでに始まってもいる。