高レベル放射性廃棄物問題と「脱原発運動」
~これからの住民運動と自治労運動のあり方~

岡山県本部/脱原発専門委員会 

 

1. はじめに

 本年5月に高レベル放射性廃棄物の地層処分をするための法律「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」(以下「高レベル処分法」という)が成立し、高レベル放射性廃棄物の地層処分が現実のものとして動き始めた。この現状を受けて自治労本部も、これまでの「反原発ネットワーク推進会議」を「脱原発ネットワーク推進会議」と組織改編して対応を図りつつある。この組織には原発立地県のみならず、現在放射性廃棄物処分場候補地として取りざたされている岐阜県・岡山県も参加し、取り組みを進めているところである。
 今回我々は、この「放射性廃棄物最終処分」問題にどう対処すべきかを、地域での運動実績を元に考察していく。そして地域での運動をどのようにして全国レベルの運動に押し上げていくか、その中で自治労の果たすべき役割を模索していきたい。
 なお、「高レベル処分法」の問題点と地層処分阻止運動の概要については自治労岡山県本部書記長高原俊彦がまとめている

1 高原俊彦「高レベル処分法の成立と地層処分阻止運動」自治労通信No.675 2000年8月

2. 高レベル放射性廃棄物処分をめぐる情勢

 前述のとおり、「高レベル処分法」は多くの国民の声を無視して3月14日閣議決定され、4月21日衆議院本会議で趣旨説明、5月31日に成立した。

(1) 高レベル放射性廃棄物処分事業のスケジュール
  「法案成立は電気事業者にとって悲願」と言い切る電気事業連合会は、去る3月29日に高レベル放射性廃棄物処分事業のスケジュールを明らかにした。これは3段階の処分地選定のプロセスに初めて具体的な数字を示したものである。これによると、まず「文献調査対象地区」が選ばれ、その中から「概要調査地区」が2005年頃までに5ヵ所程度決定される。さらにこの中からボーリング調査等を経て「精密調査地区」2ヵ所程度に絞り込まれるのが2010年までである。そして2020年には最終処分施設建設地が決定されるという。

(2) 処分計画の矛盾
  昨年11月26日に核燃料サイクル開発機構(以下「核燃機構」という)が「わが国における高レベル放射性廃棄物地層処分の技術的信頼性 ― 地層処分研究開発第2次取りまとめ ―」(「第2次取りまとめ」または「2000年レポート」という)を国(原子力委員会)に提出した。現在その報告書の評価の中途であり、国が評価を終了するのがこの秋と言われているが、なぜか評価が行われる前に「立法化」が行われた。「研究開発」と「処分事業」が同時進行している状態であり、国の評価が終了する時点では既に処分事業の実施主体が決定(10月1日予定)しているという本末転倒した進め方で、無理がある。

(3) 「高レベル処分法」の問題点
  この法律の成立で原子力政策の延命がもくろまれていることはいうまでもないが、まず最大の問題点は「原発から出た使用済み燃料を再処理した後に出る高レベル放射性廃棄物をガラス固化体で地層処分する」方法だけに限定されており処分の選択肢がないということである。法律では何故か「高レベル放射性廃棄物」という名称が消えているが、前提は「再処理した高レベル放射性廃棄物」の処分である。高レベル放射性廃棄物の処分方法については、地層処分だけでなく、直接処分・地上管理・浅地下管理なども選択肢として考えられており、現実に国際的には高レベル放射性廃棄物に対して「回収可能」な処分方法を求める考え方が有力になってきており、「地層処分」の概念そのものが揺らぎ始めている。
  次に「原子力発電環境整備機構」(以下「機構」という)の活動規制の不備が挙げられる。法律では「安全規制」について、「別に定める」としている。が、そもそも、処分技術のよりどころである核燃機構の「第2次取りまとめ」に対する原子力委員会原子力バックエンド対策専門部会の評価報告書は、この秋に国による評価が行われる予定であり、現時点の安全規制の成立は拙速である。また、諸外国においては行政機関から独立した評価機関が初期の段階から設置されている場合が多いが、日本においては行政上の独立権限を持ち技術的・科学的正当性についてチェックする機関が存在しない。
  さらに、法律では原子力発電事業者に最終処分に必要な費用の納付を義務付けているが、これは最終的には電気料金に上乗せされることになる。第一期分4万本のキャニスターの処分費用は約3兆円と試算されているが、この試算は実は1985年の土木業界紙では4,000億円とされていた。なんと15年間で10倍近い額になっている。この先何倍に膨れ上がるのか?
  最後に最も大きな法律の問題点として、複数の「機構」が処分場の立地を自由に選定できるという点が挙げられる。最終処分地を決定するプロセスを先に示したが、初期の「文献調査対象地区」を選ぶのは「機構」であるが、この「機構」には地域の活動や報告義務等の規制がない! まさにフリーハンドである。政省令でどれだけ規制されるか疑問である。
  法律の中で地元の意見を聴くのは、「機構」の「最終処分計画」を通産大臣が定めようとする段階で、ここで初めて当該地点の都道府県知事・市町村長の意見を聴くのである。地元の了承は後回しで、「機構」は自由に誘致活動を行うことができるからくりになっている。まさに旧来の原発立地システムと同じ手法であり、地域に混乱と民主主義の歪を生じさせるのは必至である。

3. 岡山県における現状と課題

 このような法律に対して岡山県でどのような運動を展開してきたのか、以下に記述する。

(1) 運動の経過と現状
  岡山県においては、1990年に高レベル放射性廃棄物の持込を拒否する県条例の直接請求が行われた。
  この直接請求運動に至るまでには約10年間の運動が存在していた。その発端は1981年、岡山県成羽町の山宝鉱山において(財)原子力環境整備センターが行った地層処分に関する研究であった。このとき地元の反対組織が通産省・科技庁に「山宝鉱山を処分地にしないよう」求めて交渉を行った。また、1985年には山宝鉱山の北側に位置する哲多・哲西地域で高レベル放射性廃棄物処分場建設に向けたボーリング調査誘致の動きがあり、高レベル放射性廃棄物地層処分場建設を行うことがあたかも決定したような記事が電力業界紙に掲載された。これに対して地元および高梁川流域で反対運動が組織された。特に哲西町でも住民運動は町職員組合も参加し、町民に対して署名活動を展開した。その結果、実に町民の9割以上の署名を集約し町長・議会に提出した。その結果、哲西町議会は、町長提案により「放射性廃棄物の持ち込み拒否宣言」を採択し、町内に標柱3本を設置して今日まで町是としている。
  また人形峠においても、旧動燃は国の高レベル放射性廃棄物地層処分研究開発の中核的推進機関として位置づけられ、原子力研究開発利用長期計画の第2段階(有効な地層の選定)に入った1986年~1989年頃にかけて中国地方71ヵ所におよぶ鉱業権をもち鉱区内のデータ、特に上齋原村の旧動燃敷地内における地質・地層(1,000m1本、500m2本のボーリング等)のデータを集中的に取得していた。
  これらの経過を受けて、1990年に自治労をはじめとする労働団体も加わって「放射能のごみはいらない! 県条例を求める会」(以下「県条例を求める会」という) が結成され、県への「直接請求運動」として県下で署名活動を開始した。そしてその年の11月3日には岡山市旭川河川敷において5,000人を集めて「34万の声をきけ!! 放射能のごみはいらない11.3大集会」が開催され、岡山県民として高レベル放射性廃棄物の持ち込みに強く抗議する姿勢を鮮明に示した。ちなみにこの時点までに「県条例を求める会」は346,500人の署名を集めることができたが、これは県内の有権者の実に4分の1に達する数であった。
  そしてこの集会の2日後の11月5日には臨時県議会が開催され、この「条例案」が審議されたが、県議会は住民の声を聞き入れず否決した。しかしながらこの時、当時の長野知事は「県民が不安を覚えるような施設は受け入れない」旨の答弁を行い、かろうじて一定の歯止めがかかった形になっている。(ちなみに石井現知事もこの答弁を繰り返している。)
  その後「県条例を求める会」は「高レベル放射性廃棄物持込拒否運動を風化させてはいけない」と学習会を繰り返し、着実に運動を継続していた。ところが昨年末から本年にかけて「高レベル処分法案」の成立の動きがあわただしくなり、運動は再び活発に展開し始めた。
  1999年12月7日、北海道・青森・茨城・岐阜・岡山の5道県の住民団体は、通産省・科学技術庁に対して連名で「安全性が確立していない高レベル放射性廃棄物の地層処分を強行しないよう」申し入れを行った。これには「核燃料サイクル」に反対する全国120以上の団体が賛同し、運動が全国に展開された。
  岡山県下においても、自治労を始めとする労働団体・市民団体が大型はがき署名、抗議FAX、街頭での宣伝・ビラ配布活動などに「県条例を求める会」を中心に結集し、人形峠を源流とする吉井川流域市町村長に対するキャラバン行動など積極的に取り組んできている。

(2) 課 題
  以上岡山県下での情勢と「県条例を求める会」の活動について簡単に触れた。若干の私見を述べて「課題」としたい。
  今から10年前に、県への直接請求運動を発端にして開始された「県条例を求める会」の活動は、現在も学習・広報を中心に継続している。これらの活動は高レベル放射性廃棄物反対運動の理論的深化、また単発の運動ではなく継続した反対運動に取り組んでいくためには必要な活動方向であり、運動の正常進化と理解して間違っていないと考える。
  ただ、結成の初期に広範な署名活動を展開し大きな注目を集めた「県条例を求める会」の運動が、「学習会の継続」という一見地味な運動に重点をシフトしたため、県民的に会の動きが見えなくなり、その存在感が希薄となっている事は否めない。
  また、県民も「喉元過ぎれば」熱さを忘れ、知事の「県民に不安を与える施設は受け入れない」答弁で「高レベル」問題についての意識が低くなっているのも事実である。この事は、今回の岡山市における街頭宣伝・ビラ配布を実際に行った際の実感でもある。
  その中で、新たな局面を迎えようとしている今、そこに自治労がいかに関わり、運動を広げていけるかが課題でもある。

2 「高レベル放射性廃棄物を県内に持ち込ませない」という1点のみで結集した 超党派 の市民運動団体。設立時から高レベル放射性廃棄物の「地層処分」に反対し、「地上管理」を打ち出していたことは注目される。

4. 自治労の役割と今後の展望

 「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」が制定され、我々は新たな運動への転換を迫られている。
 その中でも中長期的な課題として、①再処理をしないで、使用済み燃料の段階で処理していくことを求める。=プルトニウム政策の放棄を求める。②「処分方法の見直し」を求めていく。という2点が必要ではないだろうか。一言で言えば、「再処理せずに、回収可能な方法で管理を。」ということである。

(1) 自治労のアイデンティティーの確立
  自治労内での議論の方向についても考えておく。まず問題点として、自治労として連合の中で方針を明確にできていないということが挙げられよう。連合は、高レベル問題で民主党からヒアリングを受けた際「地層処分を認めた上での安全確保」を求めたという。つまり、連合内であたかも「地層処分」についての合意が得られたかのような回答をしているのである。これは明らかに「地層処分」の安全性に疑問をもっている我々の見解とは異なるものである。自治労は連合内でもっとそのことを強く訴えていくべきではないか? そして連合内における脱原子力政策への転換・地層処分方式反対の合意形成について、民主的手続きを経て進めるべきである。

(2) グローバルな視点で
  今後の議論の中での、いくつかの問題点に触れておく。まず、北海道、青森などの試験場・中間貯蔵施設地が、そのまま最終処分地となる可能性があるという問題がある。次に最終処分場建設地は複数になる可能性がある。
  ここで全国的な問題として「どう処分するか」「再処理工程をどう捉えるか」に議論を引き返していくことが必要である。この2点を議論の中心としていくべきであろう。
  また「今、現にあるもの」の扱いをどうするかという問題については、「はじめに結論ありき」ではなく、諸外国の動向を注目すべきである。「米国ヤッカマウンテンの高レベル放射性廃棄物地下処分場では予想外に早く地下水が移動していることが明らかになっている(週間金曜日記事)」という。世界の放射性廃棄物処分方法の方向は、「回収可能な処分の方向=処分ではなく管理の方向」へ向かっているのは確かのようだ。

(3) 地域運動から全国のネットワークヘ
  我々が運動を展開していく中で、「県」レベルの運動においては「日本全国レベル」の視点を踏まえておく必要がある。
  先にも述べたが、最終処分場建設地は複数になる可能性がある。それゆえに、反対運動の起こらない日本のどこでも候補地となりえるのである。それ故にこれまでの地域での「脱原発運動」から、全国展開を図っていく必要がある。
  その時に、県レベルの脱原発運動では「我々の県(都・道・府)には持ち込ませない」という運動が必要であることは言うまでもない。しかし、全国レベルで考えてみると、例えば現在青森県六ヶ所村に、「高レベル放射性廃棄物」が搬入され、「仮置き」されている現実についてどう対処すべきなのか、我々の運動の方法論で回答が得られるのだろうか?
  もとより我々自治労は全国組織である。全国組織である以上、全国のどこへ持っていっても矛盾の起きない運動の方向性を持つことが必要であろう。ある地域では「高レベル持込反対」、別の地域では「今ある高レベル放射性廃棄物を早急に最終処分場へ移動しろ」という運動を展開すれば、自治労としての方針矛盾を自ら認めることになるのではないか? 全国組織の運動方針として議論に耐えうるものを今こそ真剣に考えるべきではないか?

5. おわりに

 基本的には世界の趨勢として、「原発廃止」の方向はもはや動かないものになっている。そうであれば、今後の運動課題は「現在稼動している原発の廃止」「原子力に替わる代替エネルギーの開発」「現在地球上に存在している放射性廃棄物の問題」に絞られるだろう。
 その中でも特に、法律が制定されて急速に事態が進展している「高レベル放射性廃棄物最終処分」に対しては緊急の対応が必要である。原発が最初に稼動した時点から「最終処分の方法が未確定」であるという「論理矛盾」を放置してきた国、電力業界の責任は重いことは言うまでもない。しかし一方で、現実に生まれている放射性廃棄物の処分について現実的な議論をしてこなかった我々にも反省すべき点があるのではないか。
 地方と国は対等となった。自治労は、この問題に積極的に関わって全国展開を図り、地方から国・政治をかえて行く必要がある。
 いずれにしても、何が正しかったのか、誰が間違っていたのかは、遠くない将来、時代が証明してくれるはずである。