「児童養護施設『茨城県立友部みどり学園』の 今後のあり方」について

茨城県本部/茨城県職員組合


 茨城県は、1997年2月の「社会福祉施設等あり方検討委員会報告書」で、①相談機関は多様な相談ニーズに対応できるよう再編整備すべき、②県立施設は民間施設では十分対応できないサービスを提供できるよう体制・機能を充実するとともに新たな役割・機能を検討すべき、③県立施設は民間施設との役割分担を踏まえて再編すべきと結論づけている。
 茨城県職員組合は、社会福祉評議会のなかに『福祉を考える会』を設け、「報告書」に対する具体的な反論書の作成を開始しました。1997年7月22日~1998年10月7日「茨城県立知的障害児・者施設内原厚生園の今後のあり方」、1998年11月13日~1999年10月13日「児童養護施設『友部みどり学園』の今後のあり方」の提言書をまとめ、茨城県知事に要求書とともに提出しました。2000年6月22日から肢体不自由児施設『こども福祉医療センター』のあり方について検討を始めました。
 本レポートは、「児童養護施設『茨城県立友部みどり学園』の今後のあり方」30ページ約4万5千字の要約です。

1. はじめに

 1998年12月28日、仕事納めの夕方近くなって、茨城県福祉部(現:保健福祉部)児童福祉課は、児童養護施設『茨城県立友部みどり学園』の廃止を提案してきた。廃止理由は「『友部みどり学園』は民間児童養護施設と競合しており、民間で対応が可能であるため」としている。提案の概要は、①『友部みどり学園』を廃止したい時期は未定である、②今後『友部みどり学園』への新たな入所措置をしないよう児童相談所長あて通知する、③民間児童養護施設に定員増などの受け入れ体制の整備を要請する、④現在入所中の児童については民間児童養護施設への措置変更は極力行わない、であった。
 茨城県は、県債発行残高が1998年度末で1兆1,573億円と一年間の県予算に匹敵するほど巨額になっており、その県債の返済にあてる公債費は9%(961億円)となっている。県は1998年3月に行財政改革大綱を策定し、6年間で知事部局400人の人員削減めざし、福祉施設の廃止や事業団委託、事務事業の見直し、組織再編などを進めている。さらにその内容を見直し、2007年度までに660人の削減を打ち出している。『友部みどり学園』の廃止も、この一連の行財政改革の流れによるものである。
 しかしながら、茨城県の児童福祉は公的支援の必要がないほど十分な水準に達しているといえるのであろうか。全国的に最低水準にある児童福祉の現状を放置したまま、行財政改革のため社会福祉の切り捨てが強行され、児童養護施設『友部みどり学園』が廃止されることを私たちは見過ごすことはできない。
 そこで、私たちはこの提言書で、児童相談所の体制の整備と専門性の確保、虐待を受けた子どもや「情緒障害児」などに対する支援施策の実施、さらに養護を必要とする子どもに対する支援施策としてファミリーグループホームや自立援助ホームの設置・運営子どもの権利擁護に関する支援施策などを提言し、茨城県が責任をもって児童福祉の充実をはかることを強く求める。

2. 児童養護とは

(1) 児童福祉の理念

(2) 児童福祉の動向

3. 茨城県の児童福祉の現状と問題点

(1) 茨城県における児童相談(特に養護相談)の現状
 ① 相談受付件数について
 ② 養護相談について
 ③ 児童虐待について
 ④ 外国人ケースについて
 ⑤ 児童相談所の職員体制について

(2) 茨城県の児童養護施設の現状
 ① 児童養護施設の生活
 ② 『茨城県立友部みどり学園』の現状について

4. 茨城県における児童福祉の今後のあり方

(1) 児童福祉行政の役割
 ① 児童福祉の充実を
 ② 正確なニーズの把握を
 ③ 利用者が選択できるサービスを
 ④ 地域格差のないサービスの提供を
 ⑤ 他機関との連携を
 ⑥ 児童福祉政策への提言
  ア 家庭支援の促進
  イ 里親制度の促進
  ウ 児童養護施設の整備と支援
  エ 自立生活支援事業の促進

(2) 相談・措置機関のあり方
 ① 職員体制と専門性の確保
 ② 組織体制
 ③ 相談システムの構築
 ④ 研修およびスーパーヴァイズ

(3) 児童養護施設のあり方
 ① 根源からの改革 一人ひとりが大切にされ 存在が確認できる生活を
 ② 「特別な生活」から「ごく当たり前の生活」へ
 ③ ニーズに合わせた支援(援助)を
 ④ アフターケアの充実 退所しても切らない関係を
 ⑤ 職員の意識改革 責任の自覚
 ⑥ 「子どもの権利条約」の実現

5. 児童福祉施策の具体的展開

(1) 子どもの権利擁護
 ① 「子ども条例」の制定
   「子ども条例」を制定し、子どもの権利を保障する施策を実施する必要がある。
 ② 権利擁護のための第三者機関の設置
   虐待やいじめの防止、施設における生活の質の向上をはかるため、「福祉オンブズ・パソンズ」の設置が必要である。
 ③ 児童福祉施設の「ケア基準」・「サービス評価基準」の策定
   児童養護施設における子どもの権利をまもるために、「ケア基準」や「サービス評価基準」の策定を早急にすすめる必要がある。
  ④ 「子どもの権利ノート」の有効運用
   子どもが権利を十分行使できるよう、「子どもの権利ノート」の具体的運用について、十分な検討が必要となっている。

(2) 児童相談所
  児童相談所は「行政機関」であり、援助の「専門機関」でもある。しかし、地方自治体は、児童相談所が「行政機関」として効率的であることばかりに気をとられ「専門機関」として重要な役割があるということに重きを置いていない。
  児童相談所は子どものためを一番に考える機関であり、子どもを主体として子どもの意見を尊重しなければならない。その理念が徹底していなければ方向を誤ることになる。児童相談所の専門性の確保と機能強化のため、次の施策の実施が必要である。
  ア 職員の専門職としての採用・配置
  イ 児童福祉司の適正配置
  ウ スーパーヴァイズできるスーパーヴァイザーの配置
  エ 継続性のある人事
  オ 時代の流れや変化に柔軟に対応できる系統的・計画的な研修
  カ 24時間対応の相談・支援
  キ 各児童相談所への一時保護所の付設
  ク 各施設・里親・ファミリーグループホームを担当するケースワーカーの配置
  ケ 児童精神科医・弁護士の配置
  コ 一時的相談機関との連携強化

(3) 居住サービス型生活支援
  居住サービス型生活支援においてもっとも重視されなければならない点は、「子どもが安心して生活できる場であるか」ということである。そのためには物理的・空間的なことはもちろんのこと、心理的にも確固たる自分の居場所が確保されなければならない。
 ① 里親制度の積極的活用
   里親は、一般の家庭そのものであるから家庭生活からかけ離れることを心配する必要がなく、集団生活のもつ不必要な刺激や規制が少なく、元の家庭生活に近い暮らしも送りやすい。里親制度の利用促進に力を入れるべきである。
 ② ファミリーグループホームの設置
   ファミリーグループホームとは、児童養護施設の職員のような専門家が自分の家庭で少人数の子どもとともに生活するもので、家庭的雰囲気の中での子どもの養育が可能である。ファミリーグループホームは、児童養護施設に代わり、今後の居住サービス型生活支援の中心となるべきである。
 ③ 児童養護施設の機能整備
  ア 地域格差が生じないよう、里親やファミリーグループホームの整備とあわせて設置場所を調整する。
  イ 小舎制やグループホームなどの少人数による生活の場とし、個室を確保する。
  ウ 病虚弱児のため、看護婦(士)を配置する。
  エ 家族をはじめとする子どもを取りまく環境との調整を行うため、ケースワーカーを配置する。
  オ 退所後の支援をおこなうためのアフターケアワーカーを配置する。
  カ 利用している子どもの権利保障のため、オンブズ・パーソンズを配置する。
  キ 里親やファミリーグループホームのバックアップ機能を整備する。
  ク 地域における「子育て支援センター」機能を整備する。

(4) 自立支援
  児童養護施設を退所した子どもや自立のための支援を必要とする子ども、および若年成人に対して、自立のための生活支援や就労支援などが必要である。
 ① 自立援助ホーム
 ② 公的保証人制度
 ③ 自動車運転免許取得費用補助制度および進学資金補助制度

(5) 児童ケア・リハビリテーションセンター
  関係研究機関との連携体制を形成し、治療プログラムの体系化や養育体系の理論化をはかり、里親・ファミリーグループホーム・児童養護施設や関係機関へフィードバックする必要がある。
 ① 「被虐待児」ケア・リハビリテーションセンター
   虐待を受けた子どもに対して、医学的・心理的ケアや支援をおこなう。同時に虐待者である親や家族への支援や医学的・心理学的ケアをおこない、虐待の根本的解決をはかるとともに、可能な限り子どもと家族が一緒に生活できるよう支援する。
 ② 「情緒障害児」ケア・リハビリテーションセンター
   不適応行動などがある子どもや注意欠陥多動性障害(ADHD)・反抗挑戦性障害(ODD)といった疾患をもつ子どもに対し、家族(養育者)を含めて、医学的・心理的ケアや支援をおこなう。

6. おわりに

 子どもの数が年々少なくなる中、子どもを取りまく問題は複雑で対処が困難になりつつある。また、子どもの数に反比例するように、児童問題は増加している。このような現状を、茨城県はどのように受けとめているのだろうか。
 将来をになう子どもは、大人の愛情や保護の必要な弱い存在であり、権利行使の主体でもある。大人は、子どもの人権を認めまもっていく責任がある。その責任は親が果たさなければならないが、何らかの理由により親が責任を果たせない場合は、国や地方自治体の責任において子ども一人ひとりが安心して生きられるよう、支援しなければならない。
 茨城県に求められているのは、『友部みどり学園』を廃止することではない。全国でも最低水準にある茨城県の児童福祉の向上をはかることである。また、県内で発生し社会問題となっている児童虐待に対して適切に対応できる体制を確立することである。そのためには、『友部みどり学園』の機能の強化、場合によっては「変身」が必要となっている。
 茨城県の児童福祉の現状があまりにも貧弱なため、支援を必要とする子どもたちに対して十分な支援ができないことに、私たち児童福祉の現場に働くものは、焦りや不甲斐なさ、時として怒りさえ感じることがある。
 遅れている茨城県の児童福祉が良くなればという想いを込めて、私たちはこの提言書をまとめた。茨城県は、この提言を真摯に受けとめ、子どもたち一人ひとりが安心して生きられる社会の実現に努力することを切に希望する。

資料1~6