新しい公立保育所づくりをめざして

長崎県本部/佐世保市役所職員組合


1. 経 過

【背 景】
  当市では現在、保育所7施設、知的障害児通園施設1施設、幼稚園8園、通所型療育施設1施設が市の直営で運営されている。このうち公立保育所・幼稚園については第二次行革の時点で、行財政改革推進検討委員会より「統廃合や民営化の検討」が答申された。
  その後、この統廃合・民営化問題は第二次行革の積み残しとして放置されてきた。市職はこの状況に対して、保育所職場(分会)とともに当局への人員要求を繰り返し行ってきたほか、行政の担当課職員と公立保育所の生き残り策について協議もしてきた。しかし当局は常に「行革の残み残しとして整理が済むまで」と判断を保留し続けてきた。その結果、保育所職場では18年間新規採用がない状態が続いていた。

【外部検討委員会】
  平成11年10月、市当局は「公立保育所改革検討委員会(外部検討委)を設置し、保育所の合理化に動き出した。
  外部検討委員会の12人の委員会メンバーの中には、労働者代表として公立保育所園長が入ったほか、連合佐世保地域協議会選出というかたちで県本部副委員長(兼社会福祉評議会担当)の市職特別執行委員が入り、議論に参加してきた。
  市議保育所分会では、外部検討委の合間にこの労働者側委員からの経過報告も兼ねて学習会を数回にわたって開き、保育所のあり方について議論を重ね、委員会へ現場の意見を反映させるよう取り組んだ。
  委員会では当初、公立と民間の単純なコストや定数の充足率で比較するような資料が使用されており、公立の置かれてきた状況・経過についてまったく配慮されない危険があった。労働側代表委員はまずこの点から指摘し、議論の方向に修正を加えてきた。
  その結果、委員会全体の結論として、「公立不要」「安上がり保育」という考えからくる統廃合・民営化の考えをはっきりと否定し、「公立保育所の必要性」を明確にうちださせることに成功した。
  外部検討委は、平成12年1月までに計4回の会議を開いて提案書をまとめ、平成12年1月27日に市長に提出された。
  ※ 外部検討委の提案書の主な内容は以下の通り。
  1. 市内を3つから4つの地域に分け、現在7施設ある公立保育所も3~4施設に減らして、それぞれの地域での子育て支援の中心としての機能を持つ拠点保育所となるように、機能強化を図る。
    たとえば、乳児保育・延長保育・障害児保育などの基本機能のほかに、地域子育て支援センター事業、障害児を含めた一時保育、空き保育室の開放等、子育て支援を充実・強化する。(減らす3~4園は民営化の方向)
  2. 保育行政担当部署に保育士を配置して、子育て関連施設の職員等の指導、連携、情報の整理、公開、子育てに関する政策や制度の企画・立案を行うよう、新たな機構・体制の確立を図る。
  3. 子ども発達センター(療育施設)に保育士を配置し、統合的な子育て支援対策として療育事業と子育て支援事業の充実を図り、行政や関連機関との連係を図る。
  4. 幼保一元化の問題は、関係機関の動向を視野に入れながら、今後の検討課題とする。

【当局との交渉】
  外部検討委の提案後、4月28日に当局より組合に対して保育所見直しについての提案が行われた。提案内容はほぼ外部検討委の提案書に沿ったものだった。具体的には
  ● 公立保育所7園のうち3園を拠点保育所とし、残りは順次民間委託する。委託した保育所は、最終的には平成18年度までに委譲する。
  ● 委託する保育所のうち、土地の境界線問題などが整理しやすい御船保育所のみ、平成13年4月に委託する。
  ● 拠点化と同時に保育所の入所定員も見直しをする。
  ● 保育行政担当課に保育士2名を配置する(平成13年4月)
  ● 子ども発達センターに保育士を4名、常駐させる。(平成13年4月)
  といった内容だった。
  6月2日までに計5回の団体交渉が行われ、その間、保育所分会では報音を兼ねて随時全体集会を開き、見直し提案に対する討議を重ねていった。
  もともと、行政内部では外部検討委の前段に、行政の担当職員、園長、保健婦、現場の主査級の保育士からなる検討会(内部検討会)が設置され、佐世保市独自の子育て支援の方向性を考えてきた経過があった。
  しかし、提案された拠点保育所の中身については、内部検討会での意見も十分に反映されておらず、現場組合員と当局の間で考え方や捉え方に多くの食い違いがあった。また、基本機能についても当局は入所定員を削減した形で提案してきた。
  市職はそれらの問題点を交渉の中で指摘し、最終的に以下の点を確認し、妥結した。
  ● 拠点以外の保育所を民間委託する前に条例改正を行い、拠点保育所について明記する。
  ● 拠点保育所の中身の充実を図るため、協議の場として労使検討委員会を設定する。
  ● 拠点保育所の数は3施設とし、他は委託・委譲するが、幼保一元化についての検討が終了していないため、委託・委譲する保育所の数は保留し、継続協議とする。御船保育所については提案通り平成13年4月に委託する。
  ● 保育所の人員については継族協議とする。
  ● これまで長期にわたり退職者の欠員不補充が続いてきたことに配慮し、平成13年度に前倒しして新規採用を行う。
  ※民間委託実施時期
   御船保育所  平成13年4月1日
   日字保育所  平成14年4月1日以降 幼保一元化の対象と考えられる
   三川内保育所   〃   〃    保育所
   柏木保育所     〃   〃

【労使検討委員会】
  6月21日に第1回の労使検討委員会が開かれて以降、8月末までに4回の協義を行った。その中では主に業務のあり方についての共通認識づくりが先行したが、その結果業務的に増員を要する部分が明らかになった。今後、市職としては本部交渉でその増員分を含めて市当局に対し当初の提案内容の不備をついていくこととなる。

2. まとめ

 過去、行革・合理化をはねかえし、公立保育所の存続を求めていくための組合側の主張には、以下のようなものがあった。
 ● 福祉にコスト論を持ち込むべきではない。
 ● 保育所措置費の計画基準のため、民間では保育士の長期雇用は難しい。そのため経験のあるベテラン保育士は民間には少なく、公立には多い。これがコスト比較の際に公立に不利にはたらくのであり、コスト論をいうのならば措置費の計算方法を問題にすべき。また、公立保育所のベテランの経験を生かす方向を考えるべき。
 ● 民間は理事者によって保育内容や理念に差がある。経営者が経営・利益重視の考えの場合、保育内容や環境が劣悪になることも予想される。公立は保育サービスの質の維持のためにも必要。
 ● 完全に市場原理にゆだねてしまうと、採算のとれない地域が保育サービスを受けられなくなる危険がある。
 これまで、私たち市職はこういった考えをもとに公立保育所についての要求を取り組んできた。しかし当局はこういった指摘についてほとんど議論せず、「行革の積み残しだから、その整理が終わってから」と解決を引き延ばしてきた。
 これは1つには、議会でそのような議論にならないことが大きな要因だ。マスコミなどで単純なコスト比較から来る公立批判が繰り返される中では、「公的サービスはどうあるべきか」という議論を法・制度の問題点から詳細に積み重ねていくより、単純に「民間でもやっている事業は委託を」と言う方が、有権者に対しても「行革を強く推進している」という印象を与えやすい。
 そのような状況でも、具体的な委託・合理化案が出されるまでにこれだけの時間がかかったのは、当局が保育所の合理化について組合・利用者と議会との両方を納得させられるような説明を見い出せず、民営化・統廃合について否定・推進どちらにも決断できなかったのではないかと思われる。今回ようやく当局がこの問題の整理に動いたのは、18年間の欠員不補充により、保育所を減らしても職員の配置転換などせずに済むため、組合側の合意も得やすいという思惑もあったのかもしれない。(実際、今回の当局提案での人員数は現在の正規職員数と同数まで定数を落とすことで済むようになっている。)
 しかし、そういう状況では、ただ単に園の数を整理するだけではその先の公立保育所存続は確実ではない。市職は外部検討委に意見反映の取り組みを進める中で、「たとえ今回の見直しで園を減らしても、それ以上は減らさせない。公立をゼロにさせない」ことを第1に考えて対応してきた。
 もともと、前述したような議会の状況を見ると、公立保育所は「民間でもやっていること、できること」をやっているだけでは、将来にわたって公立として存続することは難しい。本市の場合、知的障害児通園施設と保育所の間で人事交流がなされており、保育士の中に障害児保育についての経験者が多いこと、市長の政策として設置された通所型療育施設の運営にも公立保育所の保育士が参加してきたことなどから、保健所と連携して療育サービスを展開できる素地があった。
 それに加えて、職場での議論が積み重ねられる中で、家庭保育児童への対応として園庭開放だけでなく地域の公民館などへ出向いて親子遊びの指導を行う事業(「シーユー」)が取り組まれており、措置児以外の地域の親子を対象にしたサービス展開について実績を積んでいたことも、現場が議論に参加できる基盤をつくったといえる。
 こういった諸々の積み重ねの上に、今回の取り組みでは公立について「子育ち支援のうち、民間では取り組めない事業を行う」「行政サービスとして措置児以外の家庭保育児童も対象にした。地域の子ども全体の育ちを考える」という公立のあり方を、外部検討委の中でも確認させることができた。そして、労使交渉とそれに続く労使検討委員会の中でも、この公立の新たな位置づけに基づき議論が進めさせることができた。
 もちろんこれで公立が安泰となったわけではないが、少なくとも欠員不補充について歯止めをかけることはできたし、何より今後の公立のあり方について条例に盛り込むことを当局から引き出したことは大きい。
 市職ではこれを足がかりに、さらに子育ち支援に行政の果たすべき役割、公立保育所の展開するサービスについて職場での議論を深め、実のある改革としていく考えだ。

(資料)

佐世保市公立保育所改革検討委員会 提案書(案)

※下線部は検討委メンバーによる修正箇所
○公立保育所改革の基本方針
  近年、我が国は少子化や核家族化の進行、女性の社会進出の増加、都市化による生活環境の変化並びに価値観や生活様式の多様化等により、子どもと家庭を取り巻く環境は、大きく変化し続けております。
  佐世保市も少子高齢社会をむかえ子どもと子育ての問題は、より複雑化しており、様々な支援政策の成果が、なかなか現れてこない現状であります。
  家庭と親だけで、21世紀を支える子ども達を健やかに育てることが、困難になっており、佐世保市としても市の施策に市民が参画し、地域社会と一体となった佐世保市独自の子育て支援対策の推進が、少子対策の重要な施策であると考えられているようです。
  このような状況の中、「佐世保市行財政改革推進委員会」から公立保育所の統廃合、民営化について検討をすべきであるとの答申を受けて、「佐世保市公立保育所改革検討委員会」が設置されたものです。
  当委員会では、その答申の目的である「公的な保育資源の効率的、経済的な運用」を行うための方法として、「全ての公立保育所の廃止」並びに「機能を充実しての公立保育所の存続」などについて検討いたしました。
  しかし、佐世保市の「保育環境の悪化」や「子育て支援施策の後退」につながる、また「行財政改革の目的」が達成できないなどの意見により、以下の結論に達しました。
結 論
 「笑顔あふれる子どもを育む"子育てモデル都市"佐世保」の実現のためには、まず本市の状況にあった佐世保市独自の子育て支援機構の構築が必要であると考え、子育て支援の中央機構としての「行政機構」、「子ども発達センター」の充実とそれをフォローする「地域拠点」の充実を図り、互いに連携しながら佐世保市全域の子育て支援を推進することが望ましいと考えます。
 公立保育所については、市内全域の子育てをカバーするため3ないし4つを拠点施設として残し、その他の施設については民営化することが望ましい。
 その理由については、以下のとおりです。
1. 佐世保市の子育て支援について
  佐世保市には平成11年4月1日現在で14,468人の就学前児童かおり、その内の約22%が認可保育所、約4%が認可外保育所、約23%が幼稚園に通っている現状であり、残りの約51%に当たる児童が親と家庭内で、毎日を過ごしているという状況であります。
  少子社会対策事業の一環として佐世保市では、保育料の軽減や入所定員の増、特別保育事業の推進など保育環境の充実に努められています。
  また、平成10年10月から子ども発達センターの正式稼動による「療育事業」の推進が図られており、その利用状況は、当初の予定を大きく上回り職員配置の問題等から新規の初診者が受け付けられないという現状であります。
  これは、療育事業に対する市民ニーズの高さを意味するものでありこれに応えることが佐世保市に求められていると言えます。
  当委員会では、今後の、本市における「親と子の環境整備」、「子育て支援」の充実を考えますと「行政機構」と「子ども発達センター」を中心とした、中央機構を造り上げ、その機能を生かし、地域での「子育て支援」、「親と子の絆を強める」、「保育の充実」、「療育事業の普及」など、特に家庭内での保育に対する地域支援の強化を図る佐世保市独自の中央と地域が一体となった、子育て支援機構の構築が必要であると考えます。
  そのためには、次の二つの中央体制の強化が望ましいと思います。
  まず、「行財政改革」の目的である、「柔軟で総合的、計画的な行政」などの実現のために、佐世保市の「行政機構」内部に保育士を配置して、子育て関連施設の「職員等の指導・連携」、「情報の整理・公開」や市民の「子育てに対する意識の高揚事業」の実施など子育てに関係する政策や制度の企画、立案を行う新たな機構・体制の確立を図ることが必要であります。
  そして、「子ども発達センター」の機能を十分に生かした、佐世保市全体の総合的な子育て支援対策として「療育事業と子育て支援事業」の実施のため、同センターに保育士を配置し、行政や関連機関との連携を強化しながら、佐世保市の子どもの健全な育成のため、より一層の充実を図ることも必要であると考えます。
2. 公立保育所の現状と求められる将来像(機能と役割)について
  平成11年11月現在、佐世保市には、公立保育所7施設、民間保育所38施設の認可保育所があります。
  例年、民間施設の入所状況は、年度当初は定員を僅かに下回るものの年度途中からは、ほとんどの保育所が定員を上回る入所になっているのが現状です。
  これは、保育時間を延長して児童を預かる、時間延長保育事業や受入れ月齢には差があるものの乳児を預かる、乳児保育など利用者の利便性を考慮した、特別保育事業への積極的な取り組みが、民間保育所の人気が高い大きな要因であると考えられます。
  これに対して、公立保育所の入所状況を見ますと、ここ数年間の入所率は70数%程度と入所定員に満たない状況で推移しております。
  市内に、待機児童がいる状況の中でも、公立保育所の入所率が低い理由としては、「特別保育事業への取り組みの遅れ」や「入所年齢枠の設定による制限」などを原因とする利用者離れが、入所児童の減少につながったものと思われます。
  また、これに伴い、保育士の退職による新規職員の補充がなされなかったために、毎年、4月当初に定員数までの児童の入所ができない状態が恒常化したことも、大きな要因となっているものと考えられます。
  こういう状況を踏まえながら、また「財政改革」の面からも公共事業のあり方が問われている現在において、「障害児の一時保育」や「療育事業への取り組み」など各種機関との連携、事業経費、その他の事情により民間施設が取り組みにくい事業について、公的機関が実施するべき事業であると考えます。
  このことから、当委員会では、本市全域の子育て支援を考え、様々な事業を全市対象に企画、実施する、「行政機構」と「子ども発達センター」の充実が重要な課題であり、さらに、それを地域的にサポートして「地域子育て支援事業」を行う「保育所機能」と「地域の療育支援事業」を行う佐世保市独自の「保健所の機能」をも兼ね備えた、公立保育所の機能充実が必要であり、これが「佐世保市の子どもと親を育む」子育て支援体制の望ましい形であると考えます。
  また、公立保育所が、「子ども発達センター」の地域センターとして機能することで、民間保育所では実施できない「子育てと仕事の両立支援」の地域拠点事業として本市全域での推進を図ることが可能になると考えます。
  この体制を実現するためには、佐世保市を3ないし4つの地域にわけ、各地域ごとに拠点保育所1ヵ所を存続させることが望ましいと考えます。
  この拠点保育所では、「入所年齢枠の撤廃」や「乳児保育」、「障害児保育」、「時間延長保育」など保育所の基本機能を整備し、佐世保市民が利用しやすい保育所をめざすことが望ましいと考えます。
3. 公立保育所の統廃合・民営化等について
  公立保育所の統廃合・民官化については、佐世保市における近年の女性の社会進出の増加、生活環境並びに職場の勤務体系の変化など、女性の就業者数の増加を考慮すると、今後、保育所の入所対象年齢の児童数が減少しても、保育所に入所を希望する対象児童数は横ばい又は、微増で推移すると考えられます。
  公立保育所を統廃合すると市内の保育所の入所定員の減少につながり、民間保育所だけでは、保育所入所児童数に対処できず、市民の希望する保育所への入所に支障をきたす恐れがあり、待機児童が増加することが考えられます。
  前に述べたように、拠点となる公立保育所においては、佐世保市独自の拠点機能と基本機能を強化しながら、新しい保育所として「地域で子どもを育むことのできる力」を創設するために存続させ、それ以外の公立保育所については、「行財政改革」の答申に従って民営化の方向で、改革していくべきであると考えます。
  当委員会としては、公立保育所の統廃合・民営化に伴って市内の保育所の入所定員が減少することがないように留意する必要があり、公立保育所の統廃合については、好ましくないと判断いたします。
  幼保一元化については、関係機関の動向を視野に入れながら今後検討も必要であろうかと思われる。
  このようなことから、公立保育所の民営化と拠点保育所化としての強化が望ましいと結論づけ、拠点保育所として存続する施設以外の公立保育所については、保育環境並びに労働条件が悪化することのないよう留意しながら年次的に民間へ委譲することが、佐世保市の公立保育所を改革するにあたっての望ましい方法であると考えます。

平成12年1月 日

  佐世保市長  光 武   顕 様

佐世保市公立保育所改革検討委員会
委員長  安 部 恵美子

保育所機能内容の説明

佐世保市拠点保育所概念図