県民医療の充実をめざして
― 県立病院の人員確定闘争 ―

栃木県本部/栃木県職員労働組合


1. はじめに

 1998年、栃木県では3県立病院の組織改編について、下記のような提案がされました。

【がんセンターの増床】
 ① がんセンターは、現在の200床から357床に増床する。
 ② 研究棟を新設する。
 ③ 平成14年4月開院をめどに議会で病院職員の定数見直しを行う。病棟は現在の5病棟を10病棟とし、外来に2つの診療科目を新設する。
 ④ 現在使用している病棟を改築する(6人部屋を4人部屋に改装)。そのため、平成14年4月までに段階的に病棟を開設していく。

【岡本台病院の精神科救急医療の新設】
 平成13年4月から岡本台病院に医療情報センターを開設し、24時間体制で精神科救急医療を行う。医療情報センターの役割は、通報のあった事例に対し、どこの病院で診察を行うか振り分ける業務を中心とする。

【総合リハビリテーションセンター開設】
 総合リハビリテーションセンター(仮称)の整備に伴う県機関の廃止(身体障害医療福祉センターを廃止、ひばり学園(聾唖学校)の代替え機能を総合リハビリテーションセンターに整備、知的障害者更生相談所を移設、肢体不自由児者更生施設と重度身体障害者更生援護施設を社会福祉法人への委託)。

 県職労では、現場の職員に提案内容を説明し、意見交換しました。その結果、次のような問題点が指摘されました。

【がんセンターについて】
 ① 病棟間で病床数に格差ができる
   現在、1病棟45~50床の病床を抱えているが、6人部屋を4人部屋に改装することで32~33床となる。新たな建物は、近くに自衛隊の駐屯所があるため、5階以上の建物が建てられず、増やせるのは5つの病棟までとなってしまった。単純に157床を増床する場合、33床を広げられず、新たな病棟に負担が行ってしまう状況であった。すなわち、既存の改装病棟は33床(ICUは18床)、新たな病棟は48床が3つの病棟、緩和ケア病棟は24床(デイケア16床を含む)、血液内科病棟が40床という結果になってしまった。
 ② 新規採用の看護職員の教育とその期間について
   平成9年からプロジェクトが組織され、人員について検討された。計画では平成12年11月に2病棟を増床し、平成13年7月に2病棟を増床し、平成14年4月に1病棟を増床するとなっていた。これでは、短期間で50名近い新規採用看護婦を一人前に育て上げなければならない状況になってしまう。
 ③ 外来看護職員を半数以上非常勤職員とすること
   がんセンターの外来は、一般外来と検査外来に分けられている。それぞれ、外来1、外来2という名称がついている。外来1は正規職員8名と非常勤9名、外来2は正規職員8名、非常勤2名の人員で組織されている。平均在院日数の引き下げ努力の結果、外来で抗ガン剤の投与や長時間の点滴等、業務が過重化されてきている現状で、非常勤職員では正規職員より労働時間が短いこと、責任の問題など正規職員への過重労働が問題となった。
 ④ 夜勤の看護体制について
   現在、2-8体制、19名(ICUは3-8体制、24名)で行われている。病棟患者数は45~50名であるが、看護婦の平均年齢が32歳前後と若いため、産休や育休、切迫流産での傷病休暇など、夜勤のできる看護婦が14~15名という状況が、ここ数年続いている。そのため、産休代替職員の配置など一定の努力はしてきたが、病棟看護婦の仕事の特殊性から、配属してすぐに夜勤に入れない。結局、夜勤者の負担は軽減されず、疲労だけが職員に残っている。今後、増床される病棟でも、2.5-8体制(48床)が予測され、2-8体制(33床)は19名から18名に削減されることも予想された。

【総合リハビリテーションセンターについて】
 ① 病院会計と一般会計それと外郭団体の会計が存在する組織となるため、複雑になる。また、建物管理および運営は外部団体に委託をしていく方針であるとのこと。
 ② 肢体不自由児者更生施設と重度身体障害者更生援護施設が社会福祉法人に委託されることにより、現在身体障害医療福祉センターに勤務している介護職員(介護福祉士の資格を持っている)の職場がなくなってしまう。
 ③ ひばり学園を休止し、代替え機能を総合リハビリテーションセンターに整備することにより、保母職員の職場が1つなくなってしまう。

【岡本台病院について】
 ① 医療情報センターの新設で振り分け業務を看護職員が行うが、担当する病棟がアルコール病棟と併用であるため、夜勤などで過重業務となってしまう。夜勤体制はどのように組まれるのか。
 ② 医療情報センターにおける振り分け業務において、振り分けの基準をどのように設置するのか、地域精神科病院との連携をどのように持っていくのか、医療情報センターの県としての位置づけはどのようになるのか。

2. 人員確定闘争における経過報告

 県職労では、現場職員との話し合いを経て、以下のような取り組みを行ってきました。

【がんセンターのたたかい】
 まず、分会役員を中心に、20項目以上の職場状況アンケート調査を行いました。回収率は96%を越え、職場実態の厳しさを表していました。いろいろ問題がある内容となりました。大きな問題として挙げられるものは、
 ① 産休、育休者が多く、夜勤ができない看護職員が増え、月に10回以上夜勤をやっている看護婦が多い。何か対策がないのか。
 ② 重傷度の高い患者が病棟に30%以上入院しているため、日勤における看護業務に負担が多い。日勤の仕事が時間内には終わらず、看護記録を記入する時間は残業となっている。
 ③ 上記の理由から、日勤深夜(日勤をしたその日に、また夜勤に入ること)でも、8時~9時近くまで残業している。家に帰る時間がない。
 ④ 1つの病棟19名のうち、一度に切迫流産が3名出た。その他1名が早産で緊急入院した。過重労働が原因ではないのか。
 ⑤ 3月で退職したいといっても、人数が足りないから6月いっぱいまで非常勤で働いて欲しいと頼まれた。それが1人ではなく、退職者全員が対応せざるをえない状況になっていた(平成10年で6名全員)。
 ⑥ 発熱したり(39度以上)、妊娠中期でお腹が張ったり、つわりで吐き気が止まらなかったりしても薬で対応し、日勤でも休むことができない職場環境になっている。
 ⑦ メニエル症候群や突発性難聴になり、仕事を続けることができなくなった。
  ― など、過重労働が身体に大きく影響している事例がたくさん報告されました。
 県職労はこれらの調査結果を受けて、がんセンター分会役員を中心に所属長交渉を行いました。所属長に提出した要求内容は、「労働条件の改善と人員要求」でした。所属長の回答は「当該主管課に要求内容を伝える」でしたが、分会は所属長に対し、職場の状況をきちんと把握し、実態をきちんと報告するよう求めました。

【総合リハビリテーションセンターの病院部門に関するたたかい】
 身体障害医療福祉センターに勤務する職員の各職場で調査を行い、総合リハビリテーションセンターの病院部門の検討を行いました。協議内容としては、
 ① リハビリテーション病院は120床であるが、当面80床にする。
 ② 肢体不自由児施設を病院の中に組み込む。
 ③ 適時適温の関係から、食事時間を現行の16時30分を18時にする。
― のような内容でした。このことについて、身体障害医療福祉センターでは所属長交渉を行い、職場改善と人員確保の要求をしました。しかし、当局からはがんセンターと同様の回答しか引き出すことが出来ませんでした。

【岡本台病院のたたかい】
 岡本台病院では第1病棟がアルコール病棟でしたが、この病棟に医療情報センターを併設するという協議がありました。このことを受けて、岡本台病院分会では第1病棟を中心に意見を集約し、所属長交渉を行いました。要求内容としては、
 ① 夜勤は5人体制とすること。
 ② 事務員の配置。
 ③ 第1病棟内でもアルコールと救急部門は分けて看護体制を組むこと。
― などを中心に、職場改善と人員確保の要求をしました。病院当局は、関係主管課に上申するとしながらも、「現状では難しい」との回答でした。

【病院職能協議会のたたかい】
 県職労の病院職能協議会では、保健福祉部長交渉で3病院の問題を取り上げ、「人員確保に対しては、現場と連携して状況をきちんと把握し、問題意識を持って取り組む」よう求めました。これに対し、保健福祉部長は前向きに検討するとしながらも、「現在の県の情勢では非常に難しい問題である」との回答でした。

【県職労としての取り組み】
 県職労本部は3病院の労働条件や組織改編等の問題、また、がんセンターのアンケートの内容を重く受け止め、病院改善闘争委員会を設置し、各病院の代表者が集まって対人事課交渉を行えるよう当局に求めました。当局もこれを受け入れ、平成11年10月から第1回の人事課長交渉が行われました。

【情勢を重視する人事課との交渉】
 第1回の人事課長交渉では、人事課長から回答された人員配置人数について各職場から要求を出し、回答を求めました。ほとんどの職種において要求に満たない数字であり、職場の実態を報告しながら、交渉を進めました。その後、書記長と担当中央執行委員が人事課と事務折衝を行うことで今後の方針を確認しました。人事課長は「他県の動向や類似施設等の状況から、提示した職員数が限界である」との回答にとどまりましたが、各職場代表の強い要請により、担当者の事務折衝が実現しました。

【議会対策への取り組み】
 県職労は組織内議員と話し合い、民主党議員にがんセンターを見学してもらい、看護婦や他の職種との話し合いの場を設けることにしました。民主党議員団は団長を含め7名が参加し、1時間半にわたり参加した約70名の看護職員、他職種の現状を話し合い、看護職員からは前記した内容が発言され、過重な労働条件の改善を強く訴えました。団長は改善に向け前向きに取り組むことを約束し、話し合いを終了しました。
 また、県職労は県議会厚生環境委員会の議員にアンケートや3病院の意見を集約した新聞で状況を説明しました。その中で、がんセンターの公的病院としての役割で「がん治療ができるのはがんセンターだけではない。県内にある大きな病院や中規模の病院でも行われている。また、毎年10数億円の赤字を計上しているがんセンターやその他の2病院において、人員確保は難しい課題」と言われました。

【県民に理解を求める取り組み】
 県職労は議会内での意見を受け、自治労県本部、連合栃木と連携し、1万人署名を行いました。結果として1ヵ月で1万余名の署名をいただくことができ、県民のがんセンターに対する期待度の高さに驚くとともに、がんセンターの役割の重さを実感しました。

【事務折衝の経過】
 他県の動向や栃木県の情勢、類似病院の動向などを理由に一向に態度を変えない人事課に対し、看護労働の肉体的・精神的過重やストレスが原因と見られる病気の発生、切迫流産の発生率の高さ、平均年齢の低さから出産の可能性がある看護婦が多いこと(産休・育休取得が多く、夜勤のできる看護婦が少なくなる)、仕事の状況で子どもをつくる選択さえできないこと、家庭(日勤でも夜遅くまで働かなければならないことに反対する夫との対立)と仕事場(忙しくて休めない、早く帰れない)で板挟みに会い、精神的に疲れている状況、各病院の地域との関わり合いや病院に対する期待度の高さで患者サービスが向上し、看護度が高くなっていることなどを根気強く、夜遅くまで事務折衝を繰り返しました。
 この結果、産休・育休については過去3年遡って平均の取得人数を計算し、次の年の4月に前倒しで3病院で20名を限度とし採用していくことを獲得しました。それ以外にも、看護職員については、がんセンターの33床の病棟でも現在の19名を確保し、血液内科病棟は3-8体制、その他の病棟(緩和ケア病棟を含む)は2.5-8体制に、総合リハビリテーションセンターの手術小児病棟は2.5-8体制、その他は19名の2-8体制に、肢体不自由児施設については継続協議となりました。岡本台病院の医療情報センターを含む精神科救急医療の第1病棟は、アルコール病棟併設および移送業務を含み3.5-8体制になりました。
 また、3病院の各職種においても、その必要性を加味し増員ができました。要求数には届きませんでしたが、栃木県における公立病院の役割が認められたという点では、大きな意味を持つ闘争であったと思います。総合リハビリテーションセンターにおいては、一般会計の部分については継続協議とし、現在も交渉が続いています。

3. 結果を受けての今後の取り組み

【外来看護婦と管理栄養士の取り組み】
 今回の人員確定闘争で成果を上げられなかったところもありました。外来看護職員の配属で、外来1と2をあわせて、正規職員10名、非常勤職員13名という結果でした。病院の運営の中で、平均在院日数の短縮は課題です。早めの退院は外来に負担がかかることはわかっていることです。現在でも外来で抗ガン剤の投与や短い期間での外来診察など、外来部門の必要性は他と比べて劣るものではありません。検査部門についても緊急検査や検査と並行して治療を行うような治療も緊急で行われています。非常勤職員では月の労働時間も32時間と短く、正規職員の負担は大きくなるばかりです。県職労としても今後の外来の状況を常に把握し、早急な対応ができるよう取り組みます。
 栄養課の管理栄養士の業務量は、あらゆる患者のニーズに応える必要性のある職場で、治療に係わることもしばしばです。いわゆる食事療法や減塩食メニューや食欲のない患者への対応など、一概には表現できない業務がありました。しかしながら、この職種についてだけは、増床しても職員数に変更がなく、かろうじて非常勤職員を1名配属するにとどまりました。各病棟を回り、一人ひとりの患者に会って食事の状態を確認している、また、月に一度の行事として、例えば食事の時にクリスマスカードを添えたりしています。このようなきめの細かなサービスについては、今後も継続していけるよう、県職労としても取り組んでいきます。

【精神科救急医療と医療情報センターの取り組み】
 アルコール病棟併設で精神科救急医療を行うことについては、建物の問題、アルコール患者が減少していることなどを理由に2つを分割することができませんでした。現在新設してから半年が経ちましたが、業務に波があり忙しい時には対応しきれないこと、緊急措置入院が増加し、他の閉鎖病棟に患者を分けている状況であることなどから、医療情報センターとしての目的を再度検討し、地域精神科病院との連携を見直す取り組みが必要です。

【総合リハビリテーションセンターの取り組み】
 人員確定闘争の中で継続協議となった部分、すなわち一般会計の人員や労働条件など、現在、担当プロジェクトチームの動向を見ながら、各職場の意見を聞き事務折衝を行っています。平成13年の2月議会で設置条例の改正を行う予定ということから急ピッチで検討しています。今後も職場と連携を取りながら取り組んでいきます。
 また、介護職員の職場が県ではなくなってしまう問題については、数名の社会福祉法人への派遣も含めて、県直営の職場を確保する取り組みを行います。このことについては現在協議中です。保育職場の縮小についても、児童虐待における保母の役割や総合相談部門への積極的参加、小児患者のベッドサイドケア、身体障害児の教育など職域拡大に努め取り組んでいきます。

4. 継続課題

【がんセンター】
 平成12年度に新規採用看護職員50数名ががんセンターに配属され、現在稼働している5病棟で、19名の看護職員が約7~8名の新規採用職員を教育しています。平成12年の11月に2病棟を増やす予定ですから、約半年で一人前に育て上げなければなりません。教育方針を新たにうち立てる必要性があり、当局とも何度か話し合いの機会を持ちましたが、完全なものはできあがりませんでした。そんな中で、病棟では産休や育休、育休時間を取得している看護婦が数名おり、5つあるうちの2つの病棟では14名前後で夜勤をこなしている状況です。このような状況の中、新規採用看護職員を育て上げることは、大変な過重労働となっています。とうてい規定の8時間では仕事は終わるはずもなく、ほとんど毎日のように8時~9時まで残業をしている状況です。
 過重となっている仕事として、急変患者は勿論ですが、新規採用看護職員が書き上げる担当の患者記録を確認し添削してから、自分の患者の記録を書くという作業です。また、一部の看護職員は、県の教育機関である衛生福祉大学校の夜間の非常勤講師を担当しています。当然勤務は時間外となり、レポートの添削やテスト作成、採点など勤務以外の過重労働となっています。
 県職労としても、今すぐできる対策がなく、来年度新規採用看護職員の中に産休・育休の見込み分の人員を要求すること、非常勤講師を婦長以外から担当させないこと、やっている超過勤務時間は今に限定されている恒常的なものであることから、超過勤務予算を確保し、時間外勤務手当の保障を約束させることなどで対応している状況です。平成13年は、新規採用看護職員が50名弱がんセンターに配属される予定ですが、新規採用看護職員の教育期間が2ヵ月しかありません。これは不可能です。このことについて関係当局と事務折衝をしながら、対策を考えているところです。

5. 闘争の反省と今後について

 3つの公的病院にこれだけの期待を持ち、その役割を認めさせたことは職員にとって今までの努力が報われたことになりますが、これから公的病院としてより一層発展していくためには、より多くの職員の努力が必要となります。そのためにも勝ち取った労働条件は守らなければなりません。合理化提案がされるなか、自分たちの役割を見失うことなく努力していきたいと思います。
 また、継続協議となっている部分、獲得できなかった職種についても、県の中核を担う職場として十分機能できるように今後も継続して交渉していきたいと思います。


公立病院の看護職員と医療従事者を増やして!