衛生管理法HACCPに基づいた危害分析調査結果から

山形県本部/鶴岡市職員労働組合・学校給食センター

 

1. はじめに

 96年に発生した病原性大腸菌O-157問題は、その多くが特定できないまま、文部省から82項目のチェック項目や過度の消毒の指示が出され、97年4月1日に「学校給食環境衛生の基準」を見直し「学校給食管理基準」が通知されました。このような状況の中に、厚生省は新たな衛生管理の方法として、「宇宙食」などの調理に関する「HACCP」の導入を検討し取り組みを実施しました。
 97年11月に「調理施設におけるHACCP試行事業検討会」が開催され、各施設(学校・病院等の集団給食施設・院外調理施設・弁当等)が選択され、各施設において代表的な献立を中心にHACCPの考え方に基づく衛生管理手法の普及を図るという方針で、対象施設ごとに施設関係者と自治体関係者から構成される「HACCP検討班」を設置して試行案を作成しました。
 98年からは試行案に基づいて実際の調理を行い、各調理工程などにおける微生物検査結果などの収集を行い、一般的実例を用いて全国の調理施設にHACCPの考え方に基づく衛生管理手法の普及を図ることを目的に、衛生管理法として危害分析重要管理について調査が実施され、鶴岡市学校給食センターもこの調査のモデル施設に指定されました。

2. HACCPシステムの特徴

 HACCPとは危害分析(Hazard Analysis)と重要管理点の設定(Critical Control Points)の略。
 HACCPシステムは、危害の発生を予防するシステムであり、危害が発生した後に対応するためのものではなく、生物学的、化学的、物理的な危害の発生を防ぐための1つの手段といえます。危害の発生をゼロにするシステムではありませんが、食品の安全性を侵す可能性のある危害の発生を最小限にするために考えられています。
 具体的には、食品の原材料の生産から、最終製品が消費者に消費されるまでの、すべての過程について、危害分析の結果に基づき、消費者による摂取に伴う危害発生を防止する上で極めて重要な工程(CCP)を特定し、当該工程の管理状況を連続的又は相当の頻度でモニタリングすることにより、危害の発生を未然に防ごうとするものです。また、管理状態が不十分であることが判明した際には、速やかに改善措置を講じ、安全性が保証できない製品が流通過程に入ることを防ぐシステムでもあります。
 従来の最終製品の検査に依存した安全性の確保から、工程管理、特に重要管理点の管理状態のチェックに集中することになり、各工程の管理状態の適否を判断する管理基準(CL)のパラメータ及びそれをモニタリングする方法は迅速に結果が得られる性質のものでなければなりません。
 また、監視手法では立ち入り検査時の衛生管理、工程管理しか評価できませんでしたが、HACCPのもとでは営業者が危害発生を防止するため厳重に制御すべきと設定した重要管理点にあけるモニタリング結果及び改善措置の結果を記録した文書を提出することになります。
 監視員はこれを調査することにより、通常どのような衛生管理、工程管理が行われてきたかが分かるようになり、専門的立場から営業者が重要な危害を適切に特定していること及びそれらの危害を適切にコントロールしていることを確認するとともに、必要に応じて適切な助言、指導を行うことができます。
 HACCPシステムは、食品の原材料の生産から、最終製品が消費者に消費されるまでのすべての過程に適用することができるとされています。そのシステムの導入により、食品の安全性が向上することはもちろん、資源をより有効に利用できること、衛生上の危害に適時対処できるようになること、行政による監視・指導が効果的・効率的に行えるようになること、食品の安全性に関して国際的な信頼性が高まることなどが期待できます。

3. 鶴岡市学校給食センターの取り組み

 鶴岡市学校給食センターには、自らの健康と職場の安全・衛生について検討する労働安全衛生委員会が設置されており、この委員会が中心となり、保健所担当委員と一緒に、手指や食材の拭き取り検査を行い、施設設備や作業導線を含めた膨大なデータを作り上げました。
 調査終了後も、このデータを基に安全衛生のポイントについて認識を深めるとともに、疑わしい食材や設備の安全性について検査を続けています。

4. 分析結果について

(1) 施設の概要
  本施設は、センター方式の学校給食調理場(ドライ方式)で、東西各棟に調理室を育し、全体で1日約11,000食(施設は14,000食規模)を市内の全小・中学校(小学校21校、中学校6校)に提供しています。HACCP事業の対象施設は、東棟で5,130食(小学校10校、中学校3校)の調理を行っており、栄養士3名(内1名は東西兼務)、調理員30名配属されています。
  調理献立は副食のみ3品で、炊飯は委託となっています。

(2) 分析した献立
  揚げ物(コロツケ)、焼き物(ハンバーグ)、炒め物(おから炒り)、煮物(コーンシチュー)、汁物(かきたま汁)、和え物(ピーナッツ和え、ヨーグルト和え)、サラダ(チキンマリネ)、蒸し物(いが栗蒸し)、果物(りんご)等

(3) 分析結果において留意すべき事項
 ① 食材等納品時検査結果(その1)

食   材

一般菌群数 大腸菌群数
 も や し 10,000,000 1,000,000
 きゅうり 100,000 10,000
 にんじん 100,000 1,000
 豚  肉 100,000 <300
 豚ひき肉 10,000 10,000
 お か ら 10,000 1,000
 ご ぼ う 10,000 <300
 じゃがいも・りんご・こしょう 100,000 <300
 長ねぎ・さやえんどう・たまねぎ 10,000 <300
10  きゃべつ・ほうれん草・豆腐 10,000 <300
11  豆腐業者の容器内水 10,000 1,000

 ② かきたま汁時における「もやし」及びチキンマリネ時における「きゅうり」の工程中、次の汚染がみられました。なお、もやし自体は、洗浄後(3槽式つけ洗い、補給水有り)においても、一般細菌数10の6乗、大腸菌群10の4乗と納品時と変わりありませんでした。

も  や  し

一 般 菌 群 数 大 腸 菌 群 数
作 業 前 作 業 後 作 業 前 作 業 後
 納 品 時 1,000,000   10,000  
 袋あけ従事者手指 <300 1,000 <300 1,000
 洗浄もやしを入れた容器 <300 100,000 <300 10,000

 

き ゅ う り 一 般 菌 群 数 大 腸 菌 群 数
作 業 前 作 業 後 作 業 前 作 業 後
 納 品 時 100,000   10,000  
 下処理の従事者手指 <300 10,000 <300 10,000
 下処理の包丁 <300 10,000 <300 1,000

 ③ ピーナッツ和え・おから炒り・ヨーグルト和え・りんご時の下処理洗浄工程における野菜等の洗浄後(3槽式つけ洗い、補給水有り)の水を検査しましたが、洗浄水そのものの細菌数は少なく、食材洗浄という工程における菌の除去効果は、それほど無いと思われました。また、使用水(水道)残留塩素(0.3ppm程度)も、洗浄撹拌により直ちに消失しました。
   なお、ヨ-グルト和え時におけるきゅうり(納品時、一般細菌数10の5乗、大腸菌群300以下)について、洗浄等の各作業工程における相互汚染等をみるため、無菌きゅうり(仮称、沸騰中に1分間浸漬)を、各作業工程に同時に入れてみましたが、工程における汚染はほとんどありませんでした。
 ④ 前日納品しているほうれん草(ピーナッツ和え)・ごぼう(おから炒り)は下処理をして洗浄、長ねぎ(おから炒り)は根取りと洗浄を行い、次の日まで冷蔵保管(出庫時5.0℃以下)していますが、次のとおり納品時より出庫時の方が高い菌数でした。

食   材 一 般 菌 群 数 大 腸 菌 群 数
納品時(前日) 出 庫 時 納品時(前日) 出 庫 時
 ほうれん草 10,000 100,000 <300 10,000
 ご ぼ う 10,000 10,000 <300 1,000
 長 ね ぎ 10,000 100,000 <300 1,000

 ⑤ チキンマリネ時におけるきゅうり(納品時、-般細菌数10の5乗、大腸菌群10の4乗)は、湯通し(100℃、10秒間、湯通し後のきゅうり表面温度は、42.2℃)後、冷却していますが、湯通し冷却後のきゅうりから一般細菌数10の4乗、大腸菌群10の3乗検出されたものがあり、また、冷却後の釜から一般細菌数10の3乗、大腸菌群10の2乗検出されました(100℃、5秒間、300以下というデータもあります)。
   検体固体差等もあると思えますが、原材料の段階から汚染度の高いきゅうりは、100℃、10秒間のみでは、殺菌としては不十分と思えます(きゅうりのイボが影響しているのか)。
 ⑥ 調理済食品は、盛り付け後、子どもたちが給食室に取りにくるまで、最長で2時間あり、学校単位ごとに調理済食品(加熱・非加熱)・食器を同一コンテナ(濃度調節機能無)に入れ搬送しております。
   非加熱食品の場合、子どもたちが取りにくるまでの温度変化で、高温に上昇したのがチキンマリネで3.5℃でした(当初品温13.1℃、コンテナ内温度・最高26℃、気温3.0℃)。
   なお、コンテナ内の温度が最も上昇したのは、おから炒りの日で、3品とも暖かいものであったことから、コンテナ内の温度は20℃近く上昇しました(気温6.1℃)。
   調理済食品の細菌検査結果は、チキンマリネを除き、一般細菌数・大腸菌群ともに300以下であり、提供時の検査結果では、チキンマリネも含め細菌数の増加はありませんでした。
   チキンマリネの一般細菌数10の3乗オーダーについては、調味料(こしょう)の菌の移行、湯通し時における野菜の菌の残存、その後の工程での器具からの汚染によるものと思われます。
 ⑦ 揚げ物機・焼き物機・蒸し物機については連続式を使用しています。今回の結果からは、焼き物機・蒸し物機の加熱後の食品中心温度(食品横一列配列の右・中央・左)では、焼き物機の場合、中央が低く、蒸し物機の場合右側が低いという状況にあります。また揚げ物機についても左側の中心温度が低く、さらに、デ一夕収集が必要と考えられます。

(4) 夏季と冬季の調査結果から
 ① 食材等納品時検査結果(その2)

食   材 一 般 菌 群 数 大 腸 菌 群 数
夏  季 冬  季 夏  季 冬  季
 も や し 100,000,000 10,000,000 1,000,000 1,000,000
 き ゅ う り 1,000,000 100,000 100,000 10,000
 こ し ょ う 1,000,000 100,000 1,000 <300
 ほうれん草 1,000,000 10,000 100,000 <300
 き ゃ べ つ 1,000,000 10,000 1,000 <300
 豚   肉 100,000 100,000 <300 <300
 た ま ね ぎ 1,000,000 10,000 1,000 <300
 に ん じ ん 1,000 100,000 10,000 1,000
 し ょ う ゆ 10,000 <300 <300 <300
10  生 揚 げ 10,000 未実施 1,000 未実施
11  蒸しかまぼこ 100,000 未実施 <300 未実施
12  鶏   肉 10,000 未実施 <300 未実施
13  アンデスメロン(果肉) <300 未実施 <300 未実施
14  アンデスメロン(皮) 1,000,000 未実施 <300 未実施

 ② アーモンド和え時のもやしについては、洗浄後(3漕式つけ洗い・補給水あり)においても、一般細菌数10の8乗、大腸菌群数10の6乗と納品時と変化がなく、夏季・冬季とも菌の減少が見られませんでした。
 ③ 冬季実施のチキンマリネのきゅうりは、湯通し後の一般細菌数は10の3乗でしたが、夏季実施のシーチキンサラダ時の同工程では、300以下となりました。納品時の一般細菌数、大腸菌群数は夏季の方が多かったが、作業面で湯通しの時間を冬季10秒、夏季20秒としたことが、菌の減少につながったと考えられます。
   また、シーチキンサラダ時の冷却工程まで一般細菌数は300以下でしたが、裁断後一般細菌数が10の3乗検出されました。スライサーは使用前後とも細菌汚染は見られないことから、湯通し時間がロット(釜)ごとに異なり、十分でなかったロットのきゅうりに生残していた菌の汚染とも考えられます。
 ④ 冬季実施のピーナッツ和え時のほうれん草は、湯通し後、一般細菌数及び大腸菌群数とも300以下であったが、夏季実施のけんちん煮及びアーモンド和え時で一般細菌が10の3乗、アーモンド和えにおいては大腸菌群が10の3乗検出されました。夏季の湯通し時間は60~120秒では不十分と考えられます。
 ⑤ 冬季実施のりんごは作業工程を経ても菌の増殖は見られませんでしたが、夏季実施のメロンは菌が増加しました。これは切断時に皮の部分の汚染を果肉部分に付着させたことが原因と推測されます。
 ⑥ 調理済食品の調理終了後と提供時の状況は下表のとおりであり、菌の増殖はありませんでした。なお、下表以外の加熱食品については、一般細菌数・大腸菌群数ともに、調理後・提供時が300以下でした。

献 立 名 工 程 一般細菌数 大腸菌群数 品 温 温度差 提供までの時間
 アーモンド和え 調理後 1,000 <300 12.8    
提供後 1,000 <300 16.4 3.6 1時間11分
 シーチキンサラダ 調理後 <300 <300 14.4    
提供後 <300 <300 16.6 2.2 1時間43分
 アンデスメロン 調理後 10,000 <300 13.7    
提供後 10,000 <300 19.6 5.9 1時間17分

 ⑦ 調理済食品の調理終了後と提供時における温度変化(品温の差)は下表のとおり。

  煮 物 炒め物 蒸し物 焼き物 揚げ物 和え物 サラダ 果 物
冬 季  調 理 後 92.0 79.0 75.7 87.8 63.0 12.6 13.1 14.3
 提 供 時 77.0 47.8 25.0 48.6 42.0 14.7 16.6 16.3
 品 温 差 -15.0 -31.2 -50.7 -39.2 -21.0 2.1 3.5 2.0
夏 季  調 理 後 84.1 88.7 90.5 86.0 82.9 12.8 14.4 13.7
 提 供 時 72.0 60.5 44.7 48.0 44.7 16.4 16.6 19.6
 品 温 差 -12.1 -28.2 -45.8 -38.0 -38.2 3.6 2.2 5.9
冬期と夏期の品温差の幅 2.9 3.0 4.9 1.2 -17.2 -1.5 1.3 -3.9

 ⑧ 施設ふき取り検査の結果、作業終了後に一般細菌数の増加が見られた箇所が、冬季に比較し夏季は著しく増加しています。特に調理釜設備が顕著であり、水分を丁寧にふき取ることが重要と考えられます。
   また大腸菌群数については、冬季検査で検出された箇所は作業終了後の1ヵ所のみ(10の2乗)であったが、夏季検査の結果、作業開始前3ヵ所から、10の2乗~3乗検出されました。

(5) その他(-般衛生管理事項など)
 ① ∪V殺菌保管庫から出したばかりの器具(調理使用前)から、一般細菌数・大腸菌群ともに10の3乗検出されました。∪V殺菌保管庫の点検及び∪Vランプの定期交換が必要と思われます。
 ② 施設環境の拭き取り検査において、作業開始前の調理釜の蒸気調整コック・スライサー設置付近の床、作業終了後の下処理室蛇口・調理釜床・スライサー設置付近床から一般細菌数が10の5乗~10の6乗検出されました。作業終了後の洗浄・消毒・乾燥の徹底が必要と思われます。
 ③ 残留脂肪においては、特にまな板(豆腐類用)が+2であり、洗浄が不備であったと思われます。

5. 最後に

 施設や従事者の衛生管理を十分に行うことは当然ですが、それ以上に、食材から細菌を移行・繁殖させないことが重要のようです。作業後の施設設備の清掃と乾燥、作業から作業に移行する際の手洗い、細菌数の多い食材の加熱、という基本を守りながら調理作業に従事していかなければなりません。
 モデル施設としてHACCP試行に取り組んだ中で、様々な検査結果によって食材に対する意識や作業面の変更など、認識をあらたにさせられた事項も多くあり、職員の衛生管理に対する意識の向上からも実施して良かったと思います。
 今後、職員や施設設備の衛生管理は従来どおりの対応を基本にしながらも、HACCP試行における検査結果をふまえて、なお一層、安全な食材の購入、適切な処理の方法、職員の衛生管理に対する意識の向上をはかっていきたいと思います。