東京都23区及び市部の図書館における非常勤職員の導入と今後の課題

東京都本部/練馬区職員労働組合・図書館分会

 

1. 東京都23区と市部の図書館職員の現状

 図書館の職員はみな司書の資格を持つのだろうと思われるかもしれないが、実際にはそうとは限らない。横浜市、大阪市のように司書職制度がありほぼ職員全員が司書であるところもあるが、東京23区の場合、そのような制度がないため、一般の事務職員が図書館の業務にあたっている。その事務職員の中の司書資格者の割合は24%程で全国の図書館のほぼ半分でしかない。図書館のサービスの業務を行っていくには図書に対する広範な知識と対利用者の長い経験が必要とされる。もちろん大学、短大である程度の科目を履修すれば、取ることのできる司書の資格で、そのすべてがたちまちに身につくというわけではない。図書館勤務の中で何年、何十年と活かされてこそ初めて、図書館員らしいサービスができるのである。
 23区においては、かつては、専門職(司書職名制度)があったが、30年以上前に数名の採用者があったのみで、有名無実の制度として、1996年に廃止されてしまった。その代わりに、以前よりそして今でもとられているのが、事務職員中の希望する者を司書講習等に派遣し、有資格者として長期間図書館に配属し続ける、実質的専門職制度というべき方法である。一般の事務職員が3~5年のサイクルで図書館に習熟する以前に異動してしまうのに対し、これらの職員は10~20年と図書館で働き続ける、必ずしもすべてが司書とは限らない場合もあるが、これらの専門職的集団が職員中のどの位の割合を占めるかによっていわば、図書館の力量を決めると言える。もちろん当局がこれを養成しようにも、職員中に希望者が十分存在しない場合もあるし、職員がい続けたいと思っても事務職として異動される場合もあり、時々の状況によって不安定である。真の専門制とはほど遠いものである。
 一方多摩地域の市部では、最近では少なくなったが、専門職として採用された職員が、図書館の中核を占め、23区同様の実質的専門職員も加えると過半数が司書という、区部とは対照的な構造となっている。他の行政部局との人事の交流も、なくはないが、区部ほど一般的ではない。この構造の違いが非常勤職員の導入に際しての大きな差となって現れることになる。

2. 増え続ける非常勤職員

 東京23区の非常勤職員は、ここ数年で急速な勢いで増えている。1985年に公社委託された足立区における導入を皮切りに、今では23区のほとんどの図書館で非常勤職員が働いている。この導入を詳しく見ていくと、時期的におおよそ2つのパターンに分けられる。

(1) 第1期(1990年以前)
  開館時間延長などによるサービスの拡大、常勤職員の週48時間から40時間への労働時間の短縮によって、不足する職員を穴うめするために導入された。88年の練馬区、89年世田谷区、90年の中野区などがこれにあたる。

(2) 第2期(1996年以降)
  行政改革によって、常勤職員を削減し、代わりに非常勤職員を導入する。人件費の削減効果とともに、浮いた経費でサービス拡大を計る例も見られる。96年の目黒区、97年の大田区、98年の北区、99年の豊島区、2000年の葛飾区、荒川区と、枚挙にいとまがない。これについては、都区財政調整制度(東京23区における地方交付金制度のようなもの)における標準的図書館の職員算定基準が99年に常勤職員13人から常勤9人非常勤4人へと変更されたことも影響している。
  現在23区のすべての区で何らかの形で非常勤職員が導入され、その職員構成比率は2割にも達する。特に足立区、千代田区、豊島区といったところでは、3割を越える。(99年度)
  市部においては、区部ほどの激しいスピードではないが、同様の動きが目につきはじめている。
 ① 立川市
   中央図書館開館時に不足する人員を補充するために導入(94年度)
 ② 町田市
   地区図書館の開館および夜間開館日増などサービス拡大に対応するために導入(99年度)
  このほかにもいくつかの自治体での導入が見られるが、いずれもサービス拡大する上での労働力不足を補うという意味合いが強かった。しかし、ここ八王子市において常勤の職員を引き抜いて非常勤職員を導入することが行われている。(2000年)

3. 専門的非常勤と非専門的非常勤

 非常勤職員の採用においては、公募によるケースが大部分である。(それ以外には定年後の常勤職員の再雇用がある。)採用条件として、司書資格や図書館勤務の経験をあげる例が多く、その意味では、専門性が求められていると言える。不景気と図書館における常勤専門職の採用がほとんどないことがあいまって、近頃では公募は数十倍の競争率になることも珍しくない。優秀な人材が集まってくる。
 さて、採用とは別に、実際に従事する職務において、専門的と非専門的の2種類に大別することができる。

(1) 専門的非常勤
  選書、相談業務を含めるあらゆる事業分野に常勤職員とかわりなく従事する。勤務日数は少ないものの常勤と1日の勤務時間は変わらない。雇用年限は無いか、あっても長期間で、資格がある上に経験を積んでいけば、常勤職員との能力の逆転現象を起こす例もある。賃金や労働条件は非常勤の中では比較的優遇されている。練馬区、中野区、北区、豊島区等に見られる。

(2) 非専門的非常勤
  貸出、配架、図書整理等の非判断業務に常勤職員の補助として従事する。夜間や、土、日を中心とした勤務のところもある。雇用年限は、1年等有期を重視し、賃金や労働条件は、専門的非常勤ほど良くはない。せっかく資格を持ちながら活かせないとの声もある。世田谷区、目黒区等に見られ、市部はほとんどがこれに属する。
  ここ近年、導入を始めたところでは、非専門的でスタートし、時がたつにつれて専門的へと移っていく場合が多いようである。
  なぜこの2種類ができるかと言えば、1であげた常勤の専門職的集団が導入時にどれ程の力で存在しているかによると言える。専門職的集団の強いところは、非常勤の導入は自らの職域を脅かすものとして把えられる。組合を通じて強固な反対があり、導入が決まってもそれが常勤の削減に結びつかないよう、職務はきわめて限定されたものになる。
  一方、この力が弱い場合、導入は比較的スムーズに進む。図書館に執着のない職員が多い場合は、常勤削減にさえ目立った反対が起こらないこともある。ましてや職域を制限しようという必要など感じられない。専門職的常勤職員にとっても、非常勤が良いパートナーとして目に映る場合すらある。

4. 練馬区における現状と課題

 練馬区はもっとも早く88年より専門的非常勤を導入し、既に12年の歴史を持つ。競うように導入が進む各区の今後を予想していくためにも、練馬区の現状を見ていくことは意味のあることである。現在48名の図書館協力員と呼ばれる専門的非常勤と9名の再雇用員、合わせて57名が働いており、全職員中の27%を占める。もちろん12年前よりこの人数がいたわけではなく、当初1名、時短で9名、新館開館で3名というように、徐々に増えていった。導入にあたって常勤職員側の抵抗は、当初はともかくその後の拡大の過程では、常勤の削減を伴うことがなかったためあまり大きくない。むしろ、近年の厳しい行革状況の中で、サービス拡大に伴う非常勤の獲得は結果として、組合側の勝利としてとらえる向きさえある。
 65歳までで雇用止めがあり、比較的単純作業に従事する再雇用職員に対し雇用止めのない図書館協力員は、長い者で10年以上1つの図書館に勤め続けている。職務の内容も、庶務を除くあらゆる事業分野で常勤職員と共に働いている。大部分が司書有資格者であり、図書館で働く希望と熱意を強く持っている。
 当初は、子育ての終わった中年層が多かったが、今では、学校を出たばかりの若年層が、図書館への就職を希望して入ってくることが多い。48名中、47名が女性である。
 仕事においては、常勤職員と共に構成する各担当内でリーダー的役割を持つ者もいるし、選書、相談業務などでもなくてはならぬ存在である。常勤職員の中のかなりの部分を占める未習熟者や不適性者に比較すれば、完全にその能力は上で、しばしば常勤を指導するケースも見られる。練馬区の図書館は、非常勤の存在なくしては成り立たないと言ってもいい。
 しかしながら、その報酬19万5千円で、賞与はないため常勤の賃金の3~4割でしかないし、休暇制度やその他の福利更生等もとても充分なものではない。言わば同じ一労働同一賃金の原則に反する状態になっているわけである。また雇用止めは現時点ではないものの数年に1度の周期で、これを制限しようという動きは起こっている。前回その動きのあった98年に、図書館協力員のみの組合が結成された以後2年の間に休暇制度の改善や、短期非常勤導入の阻止などの成果をあげている。現在当局との間では、65歳定年制と館間異動の実施をめぐって交渉を進めており、いずれも実態としての非常勤の常勤化(終身雇用)を前提とするような議論となっている。
 ちなみに他自治体における組合組織化の状況をあまり詳しくは知らないが、中野区や立川市では、常勤職員の組合に共に加入する形をとっており、多摩市では、他の職種の非常勤職員と共に「嘱託ユニオン」を結成しているという。
 しかし未だ大半の自治体では、未組織であり、非常勤自身にとっても、また共に働く常勤の側からもさらにいっそう組織化が求められる状況にある。

5. まとめ(今後どうなっていくのか)

 東京23区においては、非専門的常勤職員(事務職)によって坦われていた図書館職場に、専門的非常勤職員(司書)が導入されるという複雑な状況になっているのであり、これをどう評価していくのかは、必ずしも簡単ではない。
 まず、図書館職員の専門性の観点から考えてみよう。今まで素人(事務職)がやっていた仕事を玄人(司書)が行うのであるから、当然その効率、効果は上がることになる。非常勤の導入によってサービスが良くなったという話は聞くが悪くなったという話は聞いたこともない。当然これは、住民からも歓迎されている結果になるだろう。そして非常勤が年とともに経験を積み、その専門的能力を活かせば活かすほど、常勤はその能力に差をつけられ、存在意義を失っていく。
 考えてみれば、極めて狡猾な方法である。常勤としての専門職を配置せずにおいて、非常勤として専門職を置いて競わせれば、当然常勤は3倍もの給与を取りながら、ろくに働かない駄目な役人と簡単に誰の目にも映ってしまう。常勤職員を削減していくにはこれほど良い理由づけはない。これに反対するのは、住民サービスを犠牲にしても、自分らの既得権を守ろうとする公務員のエゴとしかとられない。しかし、非常勤が良く働くのは、非常勤だからでは無く、専門職だからなのである。
 では、職域を制限すれば良いのだろうか。これも妥当ではないと言える。専門職的な職員構成を持つ市部や、専門職的集団が常勤職員の中で幅広く存在するいくつかの区を除けば、本のことを良く知らない常勤が本を選び、良く知っている非常勤がこれを並べるだけというのになりかねない。非常勤の導入がその地域の住民にとって救いとなるケースすらあるのである。
 常勤の専門職の配置を要求し、かつ現在ある専門職を守っていこうとする運動こそが、本来的原則的であるだろう。しかしそれこそ、当局者の進める行革路線の中で逆風をまともにくらうことになる。
 現に、専門職集団が厚く存在していたいくつかの区で、職名廃止以後激しい勢いで異動が行われたり、司書講習派遣制度の廃止縮小など実質的専門職制が解体する方向にある。今まで安泰であった市部でも今後予断を許さない。常勤が専門職であった場合でも、非常勤の専門職との違いは、資格や経験から生まれる能力の個人差でしかないのも確かである。専門性は非常勤によって担われれば良いのだろうか。
 夜間開館延長や通年開館などの住民からの要求が強まるにつれて、非常勤職員の導入にますます拍車がかかる傾向にある。北区や葛飾区などでは、中央館は、常勤のみで行い、地区館で非常勤の割合を高めるというような、管理とサービスの分業体制も起こりつつある。そのうちに一部の管理部門を除いてすべてが非常勤となってしまう日が来るかもしれない。足立区では今年から地区館の館長も非常勤化した。
 しかし、結局のところ、賃金の低さ、雇用の不安定さ等労働条件の低さが、非常勤の特質であり、自治体当局が導入のメリットとするところである。本来、非常勤であるからには、そこに常態的な仕事が無いからこそ、そのような採用を行うのであって常態的な仕事を5年、10年と続けていくのでは、常勤と何らかわりはない。
 正規の常勤との間には、実は、身分差があるだけなのである。当然ながら、同一労働同一賃金の原則に従って、現在の常勤に比例した賃金、労働条件を要求、獲得していくべきであろう。身分差を取り払い正規の公務員として扱うべきなのだ。
 ある意味では、硬直した現在の公務員制度の中で23区の図書館には、専門職が配置されてこなかった。あたかもその裏をかくように今非常勤という名で大量の専門職が津波のように各区に押し寄せている。図書館における職員の専門性の確保という点では、悲観するどころかむしろ希望の持てる状況でもある。この人達を守り育て、自分達と同じ立場にまで引き上げていくことが、私達の行っていくべき道筋であろう。それは、職場を身分差によって分断し、各個に支配しようとする行政当局に抵抗する方法でもある。(それは、専門職制をとる職場でも同じだろう。)
 そのためにはまず何よりも非常勤の立場に置かれている人達が、目ざめ自ら立ち上がっていくことを支援することが必要であろう。職場において常勤と非常勤の共存をはかり、いつしかそれも越えていって1つの職員集団として、短時間であれ、フルタイムであれ何ら違いのない立場で仕事ができるようになる日まで、共にたたかっていかねばならないのである。