21世紀に対応した教育システムへの提言

茨城県本部/茨城県職員組合・柳田 洋一

 

1. はじめに

 現在の高度情報化社会においては、急速な国際化と伴って、情報のボーダーレス化が加速され、これによって多様な興味や価値観が生じている一方で、ゆとりある教育を望む意見もある。
 また、新しい国の学習指導要領では国際社会に貢献できる主体性のある人材育成を掲げており、この様な社会のニーズに対応できる人材を育成するために、教育制度を多様化させ、柔軟に運用する必要があると考えられる。
 これらに対応する方法として総合学科高校の設置が考えられ、新しい教育システムについて検討を行ったので、提言する。

2. カリキュラムの多様化について

① 科目選択制の導入
  必修科目を最小限にとどめ、生徒の多様な興味に対応しつつ、幅広い基礎知識を持った人材を育成するために、普通科と職業科の垣根を外し、選択科目の多い総合学科へ転換する。

② 学際性科目の導入
  科目の境界を取り払い、同一授業内で2科目以上にまたがる分野を学習する。例えば、歌曲の作成では、作詞は国語、作曲は音楽とか、絵本の創作では、文章作成は国語、挿絵は美術とか、あるいは、AET(英語指導助手)の持つ多様なバックグラウンドを活用して、英語で学ぶ数学や理科なども考えられる。
  また、環境問題などをテーマに課題研究を行う場合、総合的な知識が要求され、学際性科目として考えられる。

③ 外部講師の導入
  生徒の多様な興味に対応するためには、様々な科目を用意する必要があり、実際に各産業に従事している社会人に講師として来てもらうことで対応できると考えられる。
  また、生徒に社会の現状を知らせることは、将来の職業選択に関する認識も深まることが期待できる。

④ 習熟度別授業の導入
  生徒が多様化するに伴い、習熟度に差が出てくるものと考えられ、習熟度別の授業を実施することで、生徒一人ひとりに応じたよりきめ細かな教育を行うことが可能となる。
  また、進学を希望する生徒に対応するためには、山梨県の甲陵高校で実施しているように、大学受験予備校とテレビ回線で結んで、予備校の授業を受けさせることも考えられる。

⑤ 授業時間の拡充
  全日制と定時制の区別をなくし、午前・午後・夜間の3部制とし、生徒の都合のよい時間帯に授業を受けられるようにする。また、夜間だけの授業を受けても3年間で卒業できるようにする。

⑥ 自由研究・野外授業の導入
  小中学校においては、「総合的な学習の時間」として導入されることになっているが、高等学校においても同様に「調査する」、「考察する」、「まとめる」能力を養うために、大学の卒業論文に相当する自由研究(個人・グループを問わない)を設けて、卒業時に発表会を開催して、単位として認定する。
  また、野外授業も多く取入れ、博物館、美術館、研究施設等を見学し、レポートを提出することで、単位として認定する。

3. 単位制の導入について

① 単位認定の拡大
  生徒の所属する高校で授業を受けて単位を習得することを基本とするが、他の高校の授業を受けることも認めるほか、NHK学園などの通信制高校や専修学校の授業、さらには、文部省認定の通信教育講座も単位として認定する。
  また、課外クラブ活動についても、例えば、体育系クラブに所属している生徒は保健体育の単位の一部として認めるとか、文科系クラブに所属している生徒も芸術等の単位として認める。

② 各種検定・資格の単位認定
  例えば、英語検定2級(高校卒業程度)を習得した場合、高校課程での英語の単位は終了したものとして扱う。一方、国際化に対応するため、英語以外の外国語科目(中国語・フランス語・スペイン語など)も設けて、英検2級と習得した生徒には積極的に履修するように薦める。
  また、大学入学資格検定、簿記会計等資格試験についても単位として認定する。

4. 職業高校の活性化について

① 施設の活用
  実践的かつ高度な技術を習得するために、現在の職業高校の充実した施設を活用する。
  例えば、水産高校での水産生物の発生実験、スキューバ・ダイビングの講習、乗船による海洋観測実習、アマチュア無線の講習、農業高校でのバイオテクノロジーの実験や生活園芸実習、工業高校での自動車整備やコンピュータ実習、生活科高校での製菓実習やアパレル技術実習、商業高校での簿記会計やワープロ実習などが考えられる。
  また、現在は職業科に限らず、小規模な施設が県内各校に点在しているが、将来的には各地域ごとに適正な規模で配置を行い、施設の拡充を図る一方で、効率的な利用を推進する。
  将来、全ての高校が総合学科へ移行した場合、同一地域内にある複数の普通科と職業科高校において、午前中は必修科目を各校で受講し、午後からは他校の施設を利用して、A高校では商業関係科目、B高校では家政関係科目、C高校では農業関係科目、D高校では工業関係科目、E高校では外国語・国際関係科目を学べるようなシステムを検討する。

② 専攻科の設置
  情報処理技術者、自動車整備士、建築士などのより上級の資格を習得可能にするため、2年制の専攻科を設ける。
  また、高等専門学校や短大を卒業したのと同等の資格も与えることで、上級資格を習得するにとどまらず、4年制大学の3年次へ編入できるようにすることで、卒業後の進路を広げることが可能になる。

5. 中学・大学教育との接続

① 中学教育との接続
  高等学校への進学を準義務教育とし、希望者は全員受入れ、単位を習得すれば、卒業を認めるようにし、最終的には宮崎県立五ヶ瀬中高校のように中高一貫教育をめざす。
  また、現在の県立高校は授業を受ける施設として位置づけ、基本的に生徒の居住区から通学に便利な高校へ通うものとし、高校にランクづけは行わないようにする。

② 大学教育との接続
  単位制高校へ移行した場合、生徒にゆとりが生まれるものと考えられる。一方で、現在の教育制度では、数学や物理学等で若年から才能を発揮する生徒について対応が十分できない。そこで、欧米のように高校在学中に大学の単位習得を認めることで、優れた生徒の能力を伸ばすことができる。

③ 生涯教育への対応
  総合学科高校の授業を生涯教育の一貫として、一般へも公開することで、地域の社会人と一緒に学ぶことで、生徒にも刺激となり、地域の活性化につながる。

6. スポーツ・芸術の振興

 基本的に高校進学を準義務教育とし、他校で授業を受けることを認めるようになった場合、これまでスポーツ・運動系や文化系クラブなど各校の特色が薄れることが懸念されるが、地域ごとに、これまでの実績や地域性を考慮して、強化推進校を設け、指導者の派遣や育成を図ることで、スポーツや芸術の振興を図る。

7. まとめに代えて

 地域に根ざした新しい教育システムをつくっていくためには、教育関係者だけでなく、もっと地域において、教育制度の見直し、高校のランクづけの廃止、地域に根ざした教育と地域の活性化とは何か、本当に望ましい教育とは何か、そして教育とはどうあるべきか等について十分な論議を重ねることが必要であり、今後、新しい教育システムづくりに向けた取り組みが活発になっていくことを期待している。