地域を創る市民の力

東京都本部/自治研推進委員会

 

1. はじめに

 全国自治研の中間年にあたる1999年、自治労東京都本部は10月13日から11月2日にかけて延べ6日間、約400名の参加を得て『99自治労東京自治研集会』を開催した。今次自治研集会は「巨大都市東京の自治のあり方を探る」というメインテーマの下、①地域を創る市民の力、②国際連帯と人権、③環境自治体、④福祉のまちづくり、⑤社会福祉基礎構造改革、の五つの課題別集会を実施した。このうち②~⑤の課題別集会の成果は要請レポート等の形で今全国自治研に報告される予定なので、この自主レポートでは、①地域を創る市民の力分科会の経過と今後の課題を報告する。

2. 「地域を創る市民の力」分科会の経過

 99東京自治研第一分科会の作業委員会は99年5月14日に発足し、市民社会と自治労運動を考える、というテーマを設定して何回かの討議をすすめた。しかし、当初設定テーマの重さからかなかなか問題意識の深化にまでは至らなかったが、ともかくも“現場へ”という志向から、7月に練馬区の『加藤農園』及びワーカーズ・コレクティブ『ふろしき』を、そして杉並区の『上井草園』を訪ね、市民活動・市民事業の展開を直に見聞してみた。このフィールドワークは作業委員会全体にとってまさに刮目すべきもので、以後7月・8月の作業委員会討議は進展し、課題も「地域を創る市民の力」と明確に設定し、8月中旬には後掲『基調』をまとめるに至った。
 9月20日、最終の作業委員会で10月に二つの“つどい”を実施することを決定し、以後都本部を通じて各単組・支部に呼び掛けを行った。
 まず10月13日、杉並区の民間特養ホーム『上井草園』にて「市民が拓く地域の福祉」のつどいを開催した。施設見学の後、社会福祉法人サン・フレンズの施設長さん、練馬区のワーカーズ・コレクティブ『ふろしき』の代表の方の話を伺い、全体での交流・討論を行った。集会終了後約一時間、参加者20名で草取りや洗車などのささやかなボランティアに汗を流した。
 続いて10月30日、練馬区大泉の『加藤農園』にて「市民が創る“農”あるまちづくり」のつどいを開催した。保谷駅前に集合の後、参加者全員で道路や畑のごみ拾いをしながら会場に集合。農園見学と併せて農園主の加藤さん、練馬区役所都市農地課の話を伺い、その後南大泉区民館にて加藤さんも交えて交流会を開催した。交流会には練馬区職労現評組合員の心尽くしの“いも煮”もふるまわれ、楽しく充実した集会となった。多摩地域の組合員の参加も多く、全体で26名となった。
 二つの交流会を通してあらためて介護保険実施に伴なう地域福祉の複雑な事情、NPO法人を目指す市民事業体の行政に対する注文、都市農業を取り巻く厳しい環境、などに認識を深めることが出来た。介護保険に関しては、全国水準への平準化がとくに民間施設では厳しい経費削減を迫られる結果となり、具体的には相当数の職員の非常勤化が避けて通れない現実となっていること、民間施設では上井草園も含めて職員の組織化が大幅に立ち遅れており、都本部・中央本部の提起している30万人介護労働者の組織化は緊急・最重要の課題と確認した。

3. まとめと私たちの課題

 市民社会と自治労運動を考える、というテーマから出発したこの分科会は、結果として市民事業の現場を訪ね、そこで奮闘する市民一人々々と語り合うことで漸く問題の所在を認識できたのではないかと思う。私たち自身も職場や組合から自宅へ帰れば一人の市民として生きているのであるが、役所や組合というバリアの中にこもっている限り、市民社会の成熟はなかなか認識しにくいのである。
 さて、福祉と都市農業という二つの異質な現場を訪ねてみた私たちの問題意識は、市民生活の局面で、行政の予定・予想もしていないフィールド・分野で活発に展開されている市民事業・市民活動をどう見るのか、というところにあった。換言すれば地域の素朴な市民活動から出発した『上井草園』や、農業者のアイデアから実現した『加藤農園』の成功の秘訣は何だったのか、ワーカーズの皆さんの熱意の源は何か、を探ることだった。
 そして多少とも認識できたことは、これらの市民活動・事業に共通するのは事業に対する強固な自活・自立の意識であり、従って、行政の代行や下請けではなく、行政との協同・守備範囲の分担という位置付けがいずれにおいても行われているということであった。これは“共生社会”を目指す市民の自覚的地域活動の展開であり、市民自治へのたゆまない試行の積み重ねと見るべきであろう。
 20世紀の最後の十年間は、私たちが生活する市民社会が大きく変動した時代であった。主権在民の日本国憲法が施行されて以後も、私たちの社会は長い間中央集権的な国家中心行政の下におかれてきた。この構造の中では、市民は行政サービスの一方的な対象としての住民、行政区域内に居住しているというだけの住民、として行政体とは別次元に存在していたに過ぎない。一方、自治体行政のシビルミニマムも量的には一応の水準に達した90年代、とくに都市部における市民運動も大きく変貌し始め、単なるものとり、なんでも反対型の運動だけではなく、政策提案型のまちづくり市民活動、市民自治型のワーカーズ・コレクティブなどの活動も全国的に広範に見られる様になってきた。こうした市民社会の変貌状況が一挙に顕現したのが阪神淡路大震災であった。大震災は既存の行政システムや法体系には未曾有の事態には決定的な限界があることを明らかにし、また一方で二百万人にも及ぶボランティアの全国からの結集という日本の歴史にかつてない状況を生み出した。大震災は悲しい事態ではあったが、以後震災復興に関わる特別立法、NPO法、地方分権一括法などを生み出す契機となり、また続いて、福祉のあり方を措置から契約へと根本的に変革することとなった介護保険制度の創設を見ることともなった。
 団体自治とともに「地方自治の本旨」として語られてきた住民自治は、行政のユーザーとしての住民から、自覚・自立する市民の担う市民自治へと転換してきている。市民自治はNPO法や情報公開法を生み出して来たが、今後の地方分権の進展の中でさらに私たちの社会や行政のあり方を根本から問い直そうとしている。市民社会の自立・共生への成長は21世紀に向けてなお一層加速して行くことであろう。
 さて、こうして成熟していく市民社会に対して、私たち地方公務員、自治労組合員としてどのように関わっていったらよいのであろうか。一年間程度の自治研活動で答えを発見できるほど簡単な問題ではないが、市民と行政という二元的発想に止まる限り解決の糸口は無いであろう。
 前述のとおり私たち自身も一人の市民である。役所や組合がバリアであるならば、市民としての私たち自身がそれを取り除いていかなければならない。役所や組合の仕事も市民活動という視点から見ていくということである。
 また、市民活動や市民事業を担っている地域の市民は、行政とのパートナーシップや行政の支援を常に求めているということも忘れてはならない。「社会的責任を自覚した個人」が市民ならば、社会的責任を行政という仕事を通して共に担っているのが私たちなのである。地域を創る市民とともに、私たちも力を発揮しよう!
 短い期間の取り組みの中で三つの市民活動グループとの交流が実現出来たが、様々に展開している市民活動の現場、例えばまちづくり市民活動、子育て・子育ち支援の市民活動、男女共同参画への取り組みなどなどを訪ねる余裕が無かった。今後の課題としたい。
 最後に、私たちの意図をくんでご協力いただいた三つの市民活動グループと、分科会実現の原動力になった練馬区職労、自治労都庁職西税支部にあらためて御礼申し上げる。
 以下、資料として分科会の『集会基調』と『実施要項』を掲げる。


<資料①> 『地域を創る市民の力』分科会 実施要綱

地域を創る市民の力……自立する市民と行政、どうつきあうか

 「地方自治研究集会(自治研)」は今年は全国集会ではなく都本部集会です。
 9月30日に総評会館で全体集会を開き、10月から11月始めに6つの課題別集会を開きます。
 そのうちNPO・市民運動との関わりについては『地域を創る市民の力』分科会と名づけ、“福祉”と“都市農業”をテーマに、市民と行政とのあり方を問い直すことを目的に集会を行います。
 行政の代行や下請けではなく行政との協働、守備範囲の分担という位置付けを持った、自活・自立した市民活動・事業が展開されてきています。行政のユーザーとしての住民から自覚・自立した市民の担う市民自治への転換を目指すものです。このような市民自治は社会や行政のあり方を問い直すもので、今後の地方分権を押し進める重要な要素となるでしょう。「行政のお手伝いをお願いする」というこれまでの関係ではなく、市民活動や市民事業を担っている地域の市民と行政とのパートナーシップが求められているのです。
 自立する市民とどうつきあうのか、フィールドワークを行いながら考えてみましょう。“福祉”をテーマに10月13日「市民が拓く地域の福祉」のつどいを、“都市農業”をテーマに10月30日「市民が創る“農”あるまちづくり」のつどいを開きます。施設訪問を行いますのでともに参加人数は20人です。詳細は下記の通りです。

A 99都本部自治研『地域を創る市民の力……自立する市民と行政、どうつきあうか』
   分科会① 「市民が拓く地域の福祉」のつどい

1. 日  時 1999年10月13日(水)13:00~17:30
2. 場  所 杉並区立特別擁護老人ホーム「上井草園」
          杉並区上井草3-33-10
         集合場所 西武新宿線上井草駅 南口
3. 募集人員 20人
4. 内  容 ★施設見学:「上井草園」の見学
★話題提供:「上井草園」運営の立場[小酒井好春さん]からと、たすけあいワーカーズ「ふろしき」を運営している[菊地ユリ子さん]からの、市民活動としての行政に対する意見・要望などを提起してもらう。
★意見交換:参加者による自由討論。司会は 作業委員の白石 孝さん。
★若干のボランティア活動:見て聞くだけではなく体を動かす活動も行うことを目的に
               =「上井草園」園庭の草取り(軍手持参)
★終了後、参加者による交流会(有料)を行う。
5. 進  行 13:00 西部新宿線・上井草駅集合
13:30 上井草園の施設見学
14:25 意見交換会開会 司会 白石 孝さん(作業委員)
14:30 上井草園施設長・小酒井好春さんの話題提供
14:45 ワーカーズコレクティブ
              『ふろしき』理事長 菊地ユリ子さんの話題提供
15:15 自由討論
16:15 討論を終えて、園庭の草取り(ボランティア)
17:15 上井草園での行動を終了
     参加者交流会(会場は当日案内)

 

B 99都本部自治研『地域を創る市民の力……自立する市民と行政、どうつきあうか』
   分科会② [市民が創る“農”あるまちづくり]のつどい

1. 日  時 1999年10月30日(土)13:00~17:00
2. 場  所 練馬区体験農場「加藤農園」および練馬区南大泉地区区民館
         集合場所 西武池袋線保谷駅南口
3. 募集人員 20人
4. 内  容 ★施設見学:緑と農の体験塾(農業体験農園)の見学
★話題提供:市民農園事業を通じての住民との関わり方、ならびに都市農業についての話題=加藤農園主(塾長)加藤義松さん。練馬区の市民農園事業。その他の地区での市民農園事業。および農地の税制。
★意見交換:司会 関口孝光さん(作業委員)
★若干のボランティア活動:
               見て聞くだけでなく体を動かす活動も行うことを目的に
               =駅から農園周辺と区民館までの道路のごみ拾い(軍手持参)
★終了後、参加者による交流会(有料)を行う
5. 進  行 13:00 西部池袋線・保谷駅集合/受付、加藤農園までの沿道の清掃。
13:30 加藤農園の見学と農園の運営について加藤さんのお話を聞く
14:30 移 動
14:45 司会・趣旨説明 関口孝光さん(作業委員)
     話題提供 ① 練馬区の市民農園事業
            ② 農地の制度と税制
            ③ (補足として)杉並区・世田谷区の市民農園事業
                           多摩地域での市民農園事業
     意見交換
17:00 終 了
     参加者交流会(引き続き、南大泉区民館で)

 

以  上