「山形市中心市街地の整備改善及び商業等の活性化基本計画」
(街・賑わい・元気プラン)を読む

山形県本部/山形市職員労働組合


1. はじめに

 どの自治体においても中心市街地の衰退が問題となっている。俗に「シャッター通り」と呼ばれる空き店舗が目立つ中心商店街も少なくない。大型店が次々と郊外に開店する一方、中心市街地の大型店は閉鎖が相次いでいる。山形市中心市街地においても同じ状況にある。通産省が建設省などとともに、2年程度前から、中心市街地の活性化に向けて法案整備を含め、具体的なプログラムの提示を図っている。
 中心市街地の活性化が求められる理由として、中心市街地は、商業、業務、居住等の都市機能が集積し、都市の文化、伝統や新たな産業を育んできた「街の顔」とも言うべき大切な地域であると説明がなされれる場合が多い。また、都市の構造として、CBD(中心業務地区)などの求心的な区域があり、それを囲むように住宅地がある。さらにその周りには田畑や山林が広がり、そこは通常、市街化調整区域となる。交通体系も中心市街地を中心に放射状に形成される。そのような形態が一般的なものとされ、実際そのとおりの構造となっていた。都市の効率的整備とスプロール化防止の点からも、中心市街地は意味のある存在であった。
 しかし、その中心市街地の求心力が保証されるのは、利便性と快適性がある場合に限られる。例えば、中心市街地の交通事情が悪い(公共交通機関、駐車場等)、あるいは店舗等の空間確保が難しい(店舗面積、出店コスト等)などの状況にある場合、「街の顔」や「都市構造の最適化」という理由だけでは中心市街地の活性化推進は困難であろう。つまり市場原理の前には、そのような理由だけでは説得力を持たないのである。そこで山形市で作成された「山形市中心市街地の整備改善及び商業等の活性化基本計画」をもとに、中心市街地が果たす役割とその活性化の条件を探ってみたい。以下、その計画書の概要である。

2. 山形市の概要

 山形は母なる川「最上川」の豊かな恵みにより、多くの産業、文化を育み、現在の基礎を築いてきた。この間、山形市は社会、経済活動の中心としてその役割を果たすとともに、中心市街地における商業活動は、古くは京都、大阪との特産品等の交流や、また近年においては内陸の中枢都市として、地域の発展に寄与してきた。最上家を城主とする「山形城」と、参勤交代により整備された「羽州街道」により街並が形成され、時代の変遷を経ながら近代都市計画の中で今日に至っている。
 山形市の中心市街地は、城下町として発展し、山形商人発祥の地でもあり、町人文化の繁栄による地域の伝統(初市、まつりなど)が継承されている所である。しかし、車社会の進展や郊外型大型店の進出をはじめとする商業環境等の変化を受け、中心市街地の空洞化が進んでいる。中心市街地の活性化を図るため、「山形市中心市街地の整備改善及び商業等の活性化基本計画」(街・賑わい・元気プラン)1998年3月に策定された。

3. 中心市街地の現況

(1) 現状と問題点
  山形市の中心市街地の区域設定は、口の字型商業業務地区に霞城公園から文翔館などを含む歴史・文化軸と駅西地区新都心などを取り込んだ、約
235haの区域としている。
  主な課題としては、①人口の高齢化、②景気の低迷(消費支出の減少、雇用の不安)③人口の伸び悩み、④余暇時間の増加、⑤観光者数の減少、⑥車社会の進展、⑦大型店の郊外への進出、⑧公益施設の郊外移転(都市機能の郊外分散)、⑨仙台市等県外への購買流出などがあげられる。
  また、交通体系からみた場合、①市街地の骨格となる環状道路が未完成で、都心地区を中心とした放射状の道路網体系となっていることから、都心地区への流入部を中心に渋滞がみられる、②幹線道路のネットワークが不十分なため、都心地区や公共公益施設など、多くの人が集まる交流拠点への交通利便性が低い状態となっている、③自家用車利用の増加や定時性を確保しにくいことなどによりバス利用者が減少し、バスサービスが低下している、などの問題点が指摘される。

基本計画における中心市街地の区域

(2) 中心市街地の空洞化の現状
 ① 人口・世帯数の減少
   中心市街地の人口は、平成9年は昭和51年にくらべ31%減少している。昭和51年は17,340人であったが、平成9年には11,982人に減少している。
 ② 高齢化が進む
   65歳以上の占める割合は市全体の16.8%に対し、中心市街地は22.4%と高い(平成7年)
 ③ 自動車交通量の減少
   平日、休日の七日町、駅前ともに、中心街及び中心街へ向う地点で自動車交通量が減少している。(平成6年と9年の比較)
 ④ 歩行者通行量の減少
  ● 平成6年までは、増加する調査地点が多かった
  ● 平成8年から、減少に転じる調査地点が多くなる。
 ⑤ 中心街での買物割合の低下
  ● 商品総合では、昭和63年の67.7%から平成9年は44.3%に低下
 ⑥ 中心市街地及び中心街における商業力が低下
  ● 中心市街地の小売販売額は、平成6年から減少
  ● 山形市全体に占める中心市街地の売場面積の割合は、昭和63年から低下
  ● 中心街の小売販売額の割合は、昭和
51年から低下
  ● 最近は、郊外への大型店の出店が多い
   第1種大規模小売店舗については、昭和50年までは中心市街地への出店が6店と多く、その他の地区には出店がなかった。昭和51年から昭和63年にかけては、その他の地区への出店が2店みられるようになり、平成に入ってからはその他の地区への出店が6店と多くなっている。
   第2種大規模小売店舗については、昭和
51年以降出店が急増しており、昭和51年から63年にかけてその他の地区への出店が19店、さらに平成元年から10年にかけては、その他の地区への出店が42店となっている。

(3) 中心市街地の商業の変化
 ① 中心市街地の店舗数は、平成3年から再び減少し、平成9年には960店となっている。昭和51年にくらべ、208店舗減少している。
 ② 平成9年の従業者数は
5,733人であり、平成6年にくらべ705人減少している。市全体に占める中心市街地の従業者数の割合は、昭和51年の34.2%から平成9年には1.6%に低下している。
 ③ 中心市街地の小売販売額は、平成9年は
912.3億円であり、平成6年にくらべ2.7%減少している。さらに、中心市街地の販売額が占める割合は昭和51年の48.7%から、平成9年は25.1%に低下している。
 ④ 中心市街地の売場面積は、平成9年は平成6年に比べすこし増加しているものの、山形市全体に占める割合は、昭和
51年の54.3%から、平成9年には30.6%に低下している。
 ⑤ 中心市街地の主な商店街の平成9年調査時点の空き店舗は
18店で、空き店舗率は3.3%となっている。平成7年は調査対象商店街がやや異なるものの、5.7%であった。空き店舗となった時期は、平成7~9年が88.9%となっている。平成6年以前は、11.1%と少ない。空き店舗の原因としては販売不振が38.9%と多く、ついで倒産、移転後継者不在となっている。

4. 市民意識調査等

 市民意識調査結果等(平成8年山形市調査)からは、中心市街地の現状に対して改善すべき点が数多く指摘されている。例えば交通アクセスの改善であり、歩行者空間整備の拡大や専門店の充実要望、居住環境の整備などである。

() 平成8年市民意識調査    ・サンプル数473人  ・実施時期 平成8年10
 ① 中心部には、商店街が必要であると思っている市民が多い。
 ② 大型店だけでは、これからの高齢化社会の消費生活が不安であると思っている市民が多い。
 ③ 山形市は、歴史的伝統や郷土的シンボルに恵まれていると思っている市民が多い。
 ④ 中心部は楽しく、明るく、活気があるということについては、意見が分かれている。
 ⑤ 中心部には専門店が充実しているということについては、意見が分かれている。
 ⑥ 中心部の娯楽・レジャー施設については、満足していない市民が多い。
 ⑦ 中心街への道路施設については、不便を感じている市民が多い。
 ⑧ 中心部の歩行者空間については、満足していない市民が多い。

() 平成8年来街者調査    ・サンプル数 386人  ・実施時期 平成8年10
 ① 山形市の中心街に来る目的が多様化している。
 ② 中心商店街で過ごす時間が長くなっている。
 ③ 中心街の商店街間を回遊している。
 ④ とくに、中心街で3時間以上すごしている来街者が増えている。10代の若い人が多かった。

5. 中心市街地活性化計画

 山形市の中心市街地活性化については、平成8年2月の山形市新総合計画において、「まちづくり全体の指針や施策の基本的な方向性」が定められ、また平成3年3月の第2次国土利用計画(山形市計画)において「土地利用に関する墓本方針」を、さらに平成11年3月の都市計画マスタ一プランにおいて「土地利用・交通体系等の方針」が定められている。山形市においては、昭和61年3月策定の山形市中心市街地活性化計画(シェイプアップマイタウン山形)や上記計画などにもとづき、再開発ビルの建設や立体駐車場等の都市施設整備、さらに駐車場案内システムの導入、街路及び歩行者空間の整備などを実施し、中心市街地の活性化に取り組んできている。この結果、一旦は中心市街地における歩行者の増加等がみられたが、その後様々な要因を背景として中心市街地の空洞化が進んできている。
 このようなことから山形市が実施する対策として「市街地の整備改善」、「商業等の活性化」を柱とする総合的・一体的な事業を推進するために「山形市中心市街地の整備改善及び商業等の活性化基本計画」を策定した。
 その計画でめざすのは、県都として経済、文化、教育、商業、業務機能が集積した中心市街地であり、特色ある国土、歴史、文化を生かした中心市街地である。そのためには、①市民や事業者への高質で十分なサービスの提供、②高齢者にも暮らしやすい生活環境の提供、③都市基盤及び都市機能の充実が求められる。
 中心市街地の整備事業としては、以下の4点にまとめられる。

() 口の字型商業業務集積の形成
  七日町地区と駅前地区を「口の字型回遊路」で結び、口の字内外の小路や裏通りなどを網目状に整備し、さらに小街区の開発などを合めた面的な開発整備を行う。七日町地区周辺においては、街なか再生土地区画整理事業や優良建築物等整備事業などを取り入れ、集客ポイントとなる施設等の整備及び市(いち)やイベントなどを実施できる空間の創出を行う。さらに、都心居住をすすめるための開発整備やタクシーベイ、バスベイ、駐車場、駐輪場の整備を行う。

() 歴史・文化軸の形成
  霞城公園と寺町周辺を結ぶ東西の軸を中心として、文翔館・御殿堰・蔵等の歴史・文化資産を活用した山形らしさの強調・充実により、格調高いシンボル空間づくりの推進を図る。歴史と文化と緑の環を口の字型商業業務集積と重なり合うようにすることにより、都市型観光のネットワーク(回廊)を形成する。中心市街地に数多く残っている蔵を活用し、蔵店、蔵飲食店、蔵コンサートホール、蔵ギャラリー、蔵美術館などのネットワーク化を図る。

() 駅西地区新都心の展開
  土地区画整理事業や西口新都心ビルの建設など、駅西地区における都市基盤の整備を図り、山形駅西地区を新しい都市機能をもつ「新都心地区」として、生活・文化・情報機能の中心となる先導的な街づくりを進める。また、(仮称)西口新都心ビルと勤労者総合福祉センター(B型)を建築し、交流拠点として整備する。新都心ビルには、行政サービス、まちづくり情報センター、学習の場の設置などとともに民間活力を導入した施設を設置し、魅力と賑わいにあふれた施設とする。勤労者総合福祉センターは、勤労者に対する相談や情報の提供をはじめ、教養・文化・研修等の場を提供し、勤労者の交流を図る。

() 市(いち)のある街づくり
  市の開催と広場・通りなどの整備による市の開催空間の確保を一体的に推進し、商店街と市が協調した賑わいのある街づくりをめざす。
  山形市の中心市街地は、かつて、「七日市」や「十日市」など市の賑わいにより、商店が集積し、商店街を形成していった。現在でも「初市」、「植木市」などが盛大に行われている。これからの中心市街地の活性化対策として「現在行われている市」に加え、「かつての七日市、八日市、十日市」などを復活させ、さらに、「朝市、夕市」や「フリーマーケット、ガレージ市」などを加え、農産物や特産品の販売など産地直売もできるいち「市のある街づくり」をすすめる。また、山形の祭り・市の開催を、街づくり計画と一体化し、祭りや市のための広場、通りの整備を図っていく。各種の市が毎月、定期的に行われる中心市街地とすることにより、市を目的に新しい来街者が増加し、これにより、商店街と専門店などの知名度や認知度が高めていくような相乗効果を生み出す。
  以上を事業別に整理すると次のとおりとなる。
 ● 街路整備事業
  各国道、県道、市道等の整備、区画整理事業等
 ● 施設整備事業
  商店街近代化促進事業(商店街共同施設整備事業)/松坂屋周辺開発計画/ほっとなる広場周辺開発計画/蔵の街ゾーン開発計画/立体駐車場
 ● ソフト事業
  TMO合意形成事業/定期市や様々な市の開催/公園の利活用/商店街駐車場対策モデル事業/空き店舗の活用/統一ポイントカード/共通駐車サービス券事業の拡大/共通商品券新規参入者への支援/街づくりサポーター制度/商店街ガイドマップの作成/多機能ICカードシステム開発事業/駐車場の休日開放の促進/街づくり協定の推進

6. 中心市街地が果たす役割とその活性化の条件

 中心市街地が果たす役割としては、次のことがあげられる。
 ① 地域住民に対しては、求心力を高めアイデンティティを形成するシンボル的な役割。
 ② 地域住民以外に対しては、交流人口の増をもたらす観光資源としての役割。
 そして、その地区の歴史性を再確認することにより、性格づけが容易となる。
 その活性化への条件としては、「活性化計画」にもあるとおり、娯楽的要素や観光的要素をあげることができる。多くのイベントの実施、ギャラリーや劇場など、郊外店にはない文化施設を取り込み、行動の多様性や回遊性を誘発することがポイントとなろう。山形市の計画では、「市(いち)のある街づくり」や、文化施設への回遊路の設定などが盛り込まれている。
 もうひとつの条件としてあげられるのが、中心市街地へのアクセスの確保である。自家用車利用を前提とすれば、アクセシビリティはやはり郊外大型店に優位性がある。しかし、郊外大型店に行く手だてのない高齢者や未成年者などの交通弱者にとっては、まだまだ中心市街地の方が便利である。これは観光客にとっても同じである。すなわち公共交通機関の拡充が活性化の条件となる。公共交通機関の利便性も中心市街地形成の大きな要因であることを再認識すべきであろう。しかしながら「活性化計画」では、公共交通機関の拡充についてはほとんど言及していない。
 ただし、ひとつの取り組みとして、「山形市中心街駐車対策モデル事業」が行われている。「口の字型回遊路」に低額(100円)で10分間隔にバスを走らせる事業である。平成111020日~12年1月9日までは無料で運行していたが、利用客があったため(一日あたり1,864人、一周あたり38.1人)、その後有料で運行することとしたものである。事業主体は山形商工会議所で、運賃の他、山形県と国(商店街等活性化先進事業)からの補助金で運行されている。利用度は高く、特に高校生の利用客が目立つ。
 ここで問題なのが、事業の名称でわかるとおり「駐車場対策事業」として位置づけられていることである。公共交通機関の拡充が街にアニメティとバリアフリーをもたらし、中心市街地の価値を高めるという発想には至っていないのである。その背景にはやはり費用負担の問題があるのであろう。
 中心市街地の活性化にあたっては、地域経済の活性化という視点もさることながら、中心市街地の役割、特にその公益性というものをしっかり認識しないと、行政として関わり方が見えなくなる。中心市街地が単なる商業施設の集積地というものなら、特に郊外店舗との競争に対しては、市場原理に委ねるべきであろう。中心市街地の活性化は、いわば思いやりのある都市構造を築くための中核となる施策である、という視点の確立が必要である。民間、関係団体、行政がそれぞれ求めるものを明らかにすることがまず重要である。

7. 終わりに

 以上、紙幅の関係で「山形市中心市街地の整備改善及び商業等の活性化基本計画」の紹介で終始せざるを得なかった。自治研活動として、労働条件に直接かかわる事項が盛り込まれている場合を除き、行政側の計画書をしっかり読むという機会は案外少ない。行政のモニタリングという意味から、各種計画書を読むという活動も、自治研活動のひとつとして重要ではないかと、今回認識させられた。