地方都市における公共交通システムの提案

石川県本部/金沢市役所職員組合

 

Ⅰ 金沢における公共交通

 ふらっとフロアのやさしいバスで気軽にふらっとでかけよう。
 金沢における公共交通の提案として「ふらっとバス」とその周辺について考えてみる。

1. 金沢における都市交通問題

 (1) 地理的事情
   市内中心部は、これまで戦災や大きな災害に遭わなかったため、今も城下町特有の歴史的街並みや不整形な細街路の形態が多く残っており、都心部から郊外に向けた放射分散型の道路形態になっている。
   また、都心部は、南北を犀川・浅野川の2つの清流、東西を3つの丘陵とJR北陸本線に囲まれており、この地理的条件が都心部への流入交通のボトルネックとなっている。

 (2) 交通事情
   金沢市の自動車保有台数は、昭和63年の21万台から平成10年の29万6千台と10年間で41%増加しており、渋滞交差点も平成元年12ヵ所、平成9年には33ヵ所と次第に増加してきている。
   金沢都市圏におけるバス利用者数は昭和63年から平成9年にかけて4,850万人から4,070万人へと約16%減少している。
   金沢市の中心的な公共交通機関であるバスの運行路線も採算性などの面から都心に集中する路線設定となっているため、特に朝夕の交通混雑時には、バスの定時性は著しく損なわれる状況となっている。また、環状系統のバス路線は極めて限られているため、環状方向に行くためには一旦都心に出て乗り換えることが必要となり、不便な状況となっている。このような状況からバス離れは一向に止む気配はなく、マイカー依存は強まるばかりである。
   金沢における都市交通問題はマイカーへの依存傾向の拡大とそれに伴うバス離れの深刻化ということになる。こうした傾向は、金沢のみならず、他の地方都市等とも共通の課題であろう。

2. 金沢市における都市交通施策

 金沢市では道路等の体系的整備として、都心軸線の整備を行うとともに、既成市街地の通過交通を迂回させ、都市内交通の円滑化を図るため、内・中・外の3環状道路の整備や主要交差点の立体交差化、ボトルネック交差点の改良などに努めている。
  また、交通渋滞の緩和をはじめ、これからのまちづくりの主要課題である高齢者や障害者のモビリティ確保、中心市街地の活性化、さらには環境問題への対応を図っていくため、バス交通を中心としたTDM施策や、新たな交通施策の実施に取り組んでいる。
  一方、環境問題への取り組みの中で自動車交通の抑制は大きな柱の1つである。マイカーからの転換の受け皿となる公共交通機関であるバスを活性化させることが、環境面の課題を解決するとともに、空洞化が進む市内中心部の活性化を図ることにつながっていく。その具現策の成果の1つが「金沢ふらっとバス」の運行である。
  それらは、金沢オムニバスタウン計画として位置づけられ、「人にやさしいバス交通環境の実現」「バス交通を公共交通の基軸とした都市交通体系の確立」「市民意識をベースとした交通問題の解決」の3つの方向性を目指している。
  また、長期的課題として「新しい交通システム」の検討調査も行われている。
  交通施策への取り組みについては、ユニバーサルデザインによるまちづくりを進めていくために、市民の主体的参加なくしては問題の解決はありえない。
  市民参加の推進は、金沢オムニバスタウン計画の方向性の1つとしても位置づけられている。平成10年7月には高校生から高齢者までの一般公募による市民主体型の「明日の金沢の交通を考える市民会議」が設立され、現在、自主的な活動を行っている。金沢市としても市民が気軽に参加できるシンポジウムやフォーラムの開催や交通実験などを通じて、将来の自動車交通やバス交通のあり方を考えてもらう機会を提供し、市民の合意形成を図ったうえでまちづくりを進めていきたい。

Ⅱ わたしのまちとふらっとバス

1. はじめに

  歴史の残る金沢の街中を歩いていると、小さく、おしゃれなバスを見かける。ボディーには着物のような柄が施してあって、初めてこのバスを見かけた人たちはみんな振り返っている。このバスは「金沢ふらっとバス」という愛称のコミュニティバスである。

2. 此花ルート

  第一ルートである此花ルートは、平成11年3月28日から運行を開始している。金沢駅から別院通り、横安江町、武蔵ヶ辻、近江町市場、尾張町の商店街を通り、彦三町、小橋町、昌永町、浅野本町、此花町と一周4.6㎞約25分で循環している。

3. 菊川ルート

  第二ルートの菊川ルートは、平成12年3月25日から運行しており、香林坊から片町、タテマチ、新竪町の商店街を通り、菊川町、猿丸児童公園、大学病院、厚生年金会館、兼六園、市役所と一周6.2㎞約40分で循環している。

4. やさしいふらっとバス

  「金沢ふらっとバス」にはたくさんのやさしさがつまっている。まず、床が全面フラット(平面)なので子供や高齢者の方でも乗り降りがしやすいということ。運行間隔が15分なので待ち疲れしないということ。料金が一律ワンコイン(100円)なので金銭的にもやさしいこと、などである。
  しかし、「金沢ふらっとバス」のやさしさはこれだけではない。実際にバスに乗ってみると座席が横向きになっていて、知らない人たちでも自然と会話がはずんでいる。慣れないバスのシステムを教えあったり、まちなみの新しい発見を話しあってみたり、聞いているだけでも気分がやさしくなる。思いがけない「金沢ふらっとバス」の長所を発見した感じである。
  「金沢ふらっとバス」は居心地のいいバスと言える。金沢市ではよりよい使いやすさを提供するため、現在、さまざまな検討を行っている。まず、バリアフリーの面から車椅子固定装置についてであるが、運転手と車椅子の方双方に負担の少ないもの、なるべく多くの種類の車椅子に対応できるものを全車両に導入した。また、バス停環境についてはベンチの設置、もっと目立ちやすいデザイン、時刻表の改善といった要望がいくつかあり、できるだけのことをしていく予定である。将来的には環境に配慮した低公害車両の導入の検討も必要だろう。

5. ふらっとバスでまちを元気に

  長所の発見はまだある。安全性を配慮して、横安江町商店街アーケードを最徐行走行しているが、このことが商店をゆっくり眺めることができ、今まで見過ごしていた商店を発見できるという。コミュニティバスに関して言えば、必ずしも効率ばかりを追い求めるのが良いとは言えないようである。
  「金沢ふらっとバス」導入のねらいに、今多くの都市で懸案になっている中心市街地活性化の問題もあるようだ。私自身、買い物などは大型ショッピングセンターに行くことが多く、休みの日に中心市街地に買い物に来ることはめったにない。しかし、仕事上でこのバスに乗ることが増え、大型ショッピングセンターにはないよさをたくさん発見することができた。まず、近江町市場である。スーパーでパック入りの魚や果物しか見たことがなかった私にとってはザルの魚や果物はとても新鮮でおいしそうに見えた。さらに、茶屋街や老舗の店などが並ぶ古いまちなみをながめると、どこか知らない街に観光に来ているようだった。また、新竪町商店街には輸入雑貨や古着などの気になる店を発見して、よく立ち寄るようになった。こんな風に、私のような金沢を知らない金沢人がずいぶん多いように思われるので、「金沢ふらっとバス」をきっかけに街中のよさを多くの人たちに知ってもらいたいと願っている。
  これからの「金沢ふらっとバス」については、新ルート導入も予定されているが、バスだけでなく、バスが通る街の情報や小さなイベントについても積極的にPRし街づくりの担い手となるバスになればと考えている。
  狭く細い道が数多く残された古都・金沢の中を走る「金沢ふらっとバス」。新しい移動手段として、より魅力あふれるものとしたい。みなさんもふらっとフロアのやさしいバスで気軽にふらっとでかけてみてはいかがでしょうか。

Ⅲ 金沢のバス車両

1. 金沢におけるバス車両の変遷

  金沢ふらっとバスで使用している車両は一風変わっている。普通に走っている路線バスとは違いボンネットがついている。そういえば昔はボンネットバスが普通のバスだった。それが淘汰されていったのはいつ頃だっただろう。
  スペース効率を考えるとボンネットバスは効率が悪い。床下にエンジン等を入れた方が、車両の占有スペースのほとんどを車室として使える。金沢市内には昭和27年に初めてリアエンジン車が導入された。
  しかし床下にエンジン等を入れることにより、床高という弊害がついてまわる。古くからバスの床面地上高は概ね80センチ前後の高さをもっており、その結果、お年寄りや身体障害者の方は利用しにくいモノであった。
  そこで現れたのが低床バスである。金沢市内では昭和52年に第1号車が導入された。ところが実体は5~10センチほど床面が下がっただけで、バリアフリーとは言い難い。
  そこから発展させていったワンステップバスが平成8年、ノンステップバスが平成9年に導入された。これらの導入により床面は低くなり、乗降も楽になった。しかし乗降時のステップが無くなったとはいえ、車内全体をフラットにすることは不可能である。車体中央部の乗降口から前方は低床のままフラットだったとしても、乗降口から後方には未だに段差がある。これはエンジン等が床下に入っている影響である。
  東京武蔵野市(ムーバス)をはじめ、全国各地で導入されているコミュニティバスの車両はどうだろう。これに導入されている車両の多くが国産の小型バスであり、乗降口にステップが残っていたり、車内が完全フラットになっていないのが実情である。
  最近金沢市内で(北陸鉄道)走り出したレトロ調のバスの車両はどうだろう。これにはボンネットがついており、エンジンもボンネット内に納められている。しかしこれも床高である。普通のマイクロバスをベースに作られたモノなので、床下にドライブシャフト等が通っている影響からだ。
  この様に、これまでの日本のバスは、リアエンジンリアドライブ、もしくはフロントエンジンリアドライブという形に束縛されていたのだ。

2. 金沢ふらっとバスの車両について

  金沢ふらっとバスで使用している車両はフロントエンジンフロントドライブの車両である。これはドライブトレーンが全てフロント部分に集中しているので車室部分を低く、フラットに作ることができるのだ。前部ドアで床面地上高が28センチ。ニーリング装置を使い車高を下げると20センチにもなる。タイヤが小さいことも低床化に役立っているだろう。また車内とエンジンルームが離れているので騒音や振動も小さい。
  この車両のベースはフォルクスワーゲンユーロバンという商用車。このクルマのフロント部分だけを使い、車体部分はクセニッツというメーカーで架装している。同様に大阪市交通局では、今夏にベースがルノー社製、オムニノーバというメーカーで架装した車両が導入されている。どちらも輸入車であり、国産のほぼ画一化されたデザインを見慣れた目には新鮮にうつる。
  とは言え良い面ばかりでも無いようだ。まずは値段が高いこと。輸入車と言うことで、他のコミュニティバスで使用されている車両の2~3倍ほどの価格である。これを解決するには国産メーカーに対して期待するしかないだろう。
  もう一つはエンジンがディーゼルであること。環境に対して厳しい評価をするヨーロッパにおいても評価の高いエンジンではあるが、今後はハイブリットやCNG(圧縮天然ガス)の採用など、さらに環境に負担をかけない車両の導入を検討するべきではないだろうか。

 

参考 金沢市内・石川県内におけるバス車両の変遷他

 

「金沢ふらっとバス」の概要について

金沢市提供

1. ふらっとバス運行の目的と経緯
■運行の背景

 ① 藩政期に形づくられた不整形な細街路や坂道が多く、市内中心部にも公共交通空白(不便)地域が存在
 ② 交通渋滞や駐車場の問題等に伴う、都心へのアクセスの悪化と中心市街地の空洞化
 ③ 高齢社会・福祉社会の進展

■運行の目的

 ① 交通不便地域のモビリティ向上
 ② 高齢者等の日常的な足として地域内移動を支援する。
 ③ 中心市街地へのアクセス改善に寄与し、その活性化を図る。
 ④ 人々の交流を活性化し、地域コミュニティの形成を支援する。
 ⑤ マイカー依存型の都市内移動からの脱却に寄与する。

2. ふらっとバスの基本システム

◆細街路等を走行する短距離、少量多頻度、巡回型で
 公共交通空白(不便)地域を運行するシステム
◆あらゆる人々に快適なモビリティを提供する
 利用者優先、需要創造型のシステム

 (1) 利用対象者

●高齢者及び主婦層を主な利用対象者とする
●日常的な買物・所用、通院、観劇等の趣味・娯楽等への利用を想定

 (2) ルート

●細街路を運行する循環一方通行で、1周25~40分程度(約4~6㎞)
●公共交通空白(不便)地域を解消し、中心市街地や交通結節点を通るルート設定

 (3) 運行頻度・運行時間帯

●少量多頻度輸送のコンセプトから、利便性の高い15分ヘッドで運行

 (4) 料金

●1コイン100円の運賃設定=気軽さ・分かりやすさ

 (5) バス車両

●細街路も走行可能な小型、誰もが利用しやすいノンステップ型車両
  →日本で初めて小型ノンステップバス(輸入車)を導入

 (6) バス停

●バス停間隔は高齢者が無理なく歩ける200mを目安とする
●誰もが利用しやすいようバリアフリー化を推進
●此花ルートでは17ヵ所、菊川ルートでは22ヵ所に設置

 (7) 魅力付け

●愛称は“ふらっと”=市民に親しまれるネーミング
●市民が乗りたくなるような魅力付けを工夫

 (8) 商店街との連携

●各ルート沿線の商店街において多様なサービスやイベントを開催

3. 導入ルートの概要
 (1) 此花ルート

運行開始日 平成11年3月28日(日)
ルート延長 4.6㎞
1周時間 約25分
カバー圏域のデータ (平成7年国勢調査より)
  総人口 16,998人
人口密度 9,969人/k㎡(全市平均973.6人/k㎡)
高齢化率 21.7%   (全市平均15.7%)
アクセスする主要施設
結節点: JR金沢駅、武蔵ヶ辻
商店街: 駅前別院通り商店街、横安江町商店街、近江町市場、 武蔵ヶ辻地区、尾張町商店街等
病 院: 米澤病院、城北病院、NTT病院等
その他: 町民文化館ほか観光施設が多い

 (2) 菊川ルート

運行開始日 平成12年3月25日(土)
ルート延長 6.2㎞
1周時間 約40分
カバー圏域のデータ (平成7年国勢調査より)
  総人口 20,804人
人口密度 7,722人/k㎡(全市平均973.6人/k㎡)
高齢化率 19.0%    (全市平均15.7%)
アクセスする主要施設
結節点: 香林坊、片町
商店街: 広坂商店街、柿木畠商店街、香林坊商店街、片町商店街、 竪町商店街、新竪町商店街、石引商店街等
病 院: 大学病院、国立病院等
その他: 厚生年金会館、県立美術館、兼六園、県立図書館、 観光会館、市役所ほか公共施設が多い

 4. 検討項目
 (1) 運行主体と運営方法

●事業主体である金沢市が、民間事業者に運行を依頼
●初期投資(車両購入費・バス停整備費等)は市が負担

 (2) 道路整備と交通規制

●横安江町商店街(此花ルート)を通行するルート設定
 →安全性への配慮としてバス走行帯を毀置

 

 

 

地図