住民参加による都市計画マスタープランの策定

大分県本部/中津市職員労働組合 

 

はじめに

● 地方分権により、地方自治体の権限が拡大 → 住民と自治体の関係改善が必要

 地方自治制度は1947年に制定されて以降、戦後55年にわたり発展してきましたが、権限と財源の基本的部分は中央が握り、約3,300自治体のバランスのとれた発展や社会資本整備を優先してきた結果、特色ある発展、または個性の発揮といった自治体の競争原理がなく、平準化された地方自治が進められてきました。
 今回施行された地方分権推進一括法では、それまでの行政機関の末端組織として「国や県」に伺いを立てて住民に伝える自治体運営から、地方自治の原則である「自己決定と自己責任」により自治体自らが「住民とのパートナーシップ」をもち行動するように自治体運営を大きく変える方針を打ち出しています。
 しかし、住民は自治体の政策決定において、前提となる十分な基礎情報があり、かつ決定の過程が明らかでなければパートナーシップにより生じる責任を負うことができません。
 つまり、求めに応じて情報を提供する「情報公開」も重要ですが、「住民とのパートナーシップ」を作り上げるため、地域を取り巻く基礎情報を日ごろから明らかにし、その共有された情報をもとに議論ができる雰囲気づくりが必要です。

1. 地方分権とまちづくり

● 「まちづくり」制度の地方分権が先行
● 都市計画は「まちづくり」の一手法である
● 計画策定にからむ市民参加の必要性(市民フォーラムの開催)

 都市計画の分野については、1992年の都市計画法の改正により用途地域等について分権化が進むとともに、市町村の都市計画マスタープラン制度が誕生しました。従来、都市計画に関するマスタープランは、都道府県知事が「整備、開発又は保全の方針」を策定することとなっており、このことに比べるとまさに地方分権に向けて創設された制度と言えます。
 さらに、都市計画マスタープランの策定にあたって、「住民意見を反映させるために必要な措置を講じるものとする。」とする条文が謳われ、「市町村が、住民の合意形成を図りつつ、地域固有の自然、歴史、生活文化、産業等の地域特性を踏まえ、創意工夫に富んだ特色ある内容とすることが基本である……」との通達が出されており、「住民とのコンセンサスを踏まえた自己決定と自己責任」が要求されています。
 地方分権とは自治体と住民との間で新たな関係をつくりだすものですが、なかでも「まちづくり」の関心が特に高まりつつあり、「豊かさの実感できるまちづくり」や「魅力あるまちづくり」という議論は自治体だけでなく、民間企業、団体、市民層にまで広まってきています。
 それは、「いつまでも住みつづけたいと願い、そこに住んでいることを誇りに思える、そして外から見ても魅力的であるまち」にするためには、行政だけではなく自分たちも行動を興していかなくてはならないという危機感から生まれたものであり、地方分権の発想そのものです。
 それというのも、「従来型のまちづくり」は都市全体にわたる道路や公園、区画整理事業等の広域インフラ整備、物的計画(ハード)が中心であり、この場合の関係者はほとんどが地権者、つまり土地を持っている「地主」だけでした。しかし、身近な生活環境や住環境の整備といった地域単位の街並みや身近な都市空間を重視した施策(ソフト面)の推進にあたっては、地権者だけでなく老若男女を問わない「地域に関係のあるもの→市民」が対象となってきます。特に地方分権の流れの中で、個性的で魅力あるまちをつくるためには、住民自身がまちを良くしていきたいという気持ちを持ち、その心を育てていくためのシステムづくりが必要です。
 そこで今回、都市計画マスタープランを策定するにあたり、住民参加のきっかけづくりとして「まちづくり市民フォーラム」という場をつくり、まちづくりに関する住民意見を幅広く出し合い、そしてその内容をマスタープランに反映することとなりました。

2. 「フォーラム形式の住民参加」決定へのプロセス

● 内部の体制づくり(庁内検討委員会・街援隊[がいえんたい]の設置)
● 市民との対話の方法(ワークショップ方式)
● 市民フォーラムを進めるうえで大事なこと

2-1. 行政の体制づくり
  この都市計画マスタープランの策定においては、庁内での体制づくりや市民との対話の方法が検討されました。
  まず体制づくりですが、都市計画マスタープランは非常に多岐にわたるものであり、策定から実行に向けたアクションを起こすうえで、建設分野のみならず産業振興分野、福祉分野といった行政内部の幅広い分野と密接な関係をもつことが重要となります。そのため、各部署の課長級を対象とした連絡会議(庁内検討委員会)を設置しました。
  しかし、現在進められている地方分権の動きの中で、さらにもう一歩踏み込んで自治体職員自身が当該自治体のまちづくりのあり方について、自分たちの頭で考え、自分たちの手で描き、自分の口で説明し、自分の足で実現化していくことが求められます。
  そのため、連絡会議の下にプラン策定を支援するための実質的な行動メンバーとなる係長級のワーキンググループ(のちの“街援隊[がいえんたい]”)を結成して、このメンバーがフォーラムに参加するとともに、事務局として市民フォーラムの運営を行うこととなりました。

2-2. 市民との対話の方法
  次に、市民との対話の方法が検討課題となりました。
  そこで、事務局等が用意した案の可否を議論する一般的な会議方式でなく、行政が自由討論の場を提供して、参加している市民が感じている問題を出し合い、分析し、解決に向けた方策を参加者相互の意見交換を通して組み立てていく「ワークショップ方式」を採用しました。
  この特徴として、自由な立場で多くの人の意見が発表され、その解決に向けたプロセスの中では、住民には参加者意識による責任感が生まれ、行政には地域との協働の意識が生まれ、相互の信頼感が高まります。さらに計画策定後の充実した達成感により、単なる計画づくりで終わらず、できることを自分たちでやるという意識が生まれることとなります。
  しかし、この方法は県内でも唯一であり、また策定プロセスが複雑になるため内部でも試行錯誤がありましたが、20年先の「まちづくり」の柱となるプランを従来通りの形式で行っては20年たってもプランの何分の一も達成されていないのではないか、ということもあり、ワークショップ方式で開催することに踏み切りました。

2-3. 市民フォーラムを進めるうえで大事なこと

 市民参加によるワークショップのポイント
① 大切にしなければならないものは何か、
② それでも足りないものは何だろうか、
③ 市の中心部はどうあるべきだろうか
④ 近所の利便性や安心して住める環境って何だろうか、

 そこで、なんでもありのワークショップ方式をスムーズに進める上で一番大事なのは、「中津のまちはいい所」という認識にたって、上で示すように考えてもらわなければ、あれがほしいこれがほしいの希望聴取とその羅列になってしまうということです。
 そして、この市民フォーラムが行政のつくる計画策定のために設けられた形式的な住民参加であれば、いつまでたっても行政と住民との間に信頼関係は生まれることはありません。
  だからこそ、今回「住民参加のまちづくり」の機会を創ったものであり、時代の要請があれば再度練り直すぐらいの考え方でないと参加した住民もそれをしかけた行政も計画に縛られてしまうことになると思います。

3. 実際に「市民フォーラム」をはじめてみて(途中経過)

● 市民を巻き込むための努力(参加意識を持続させる秘訣)
● 職員の意識改革が必要(「待ち」ではなく「協働」の姿勢をつくる秘訣)

3-1. 事務局の取り組みと市民の反応
  まず、市民フォーラムを開催するために最初に考えたのが、いくらまちづくりに関心のある人が参加したとはいっても、参加者は初めてワークショップ形式のフォーラムに接する人が多いので、次回も参加したくなるような仕掛けづくりを考える必要がありました。
  参加者は、行政に実現させたい要求を持ってきている人ばかりなので、意見が言えないと次から来ないという事態が予想されました。
  第1回フォーラムでは、最初に「中津の好き・嫌いなところ」を探し出していくような「現実に直面している課題の発掘→まちづくりの夢→理想像の実現にむけた取り組み」という構成にして臨んだところ、「なぜこういう機会が今までなかったのか」「もっとこういう機会を増やしてほしい」という好感触な意見が出されました。しかし、「夢ばかり語りに来たのではない」という意見も出され、第1回フォーラム開催後、グループ代表(班長)を集めて、再度「フォーラムとはどんなものか」、「この集まりが住民参加のまちづくりの出発点です」、「行政はこんな進め方を考えています」、「フォーラムで必要な情報は全て提供します」などを説明して、やっと次回のフォーラムへ進めることができました。
  そして第2回フォーラムを開催しましたが、「もっと中津市全体を考えたい」「自由な意見を述べる時間が必要である」という意見があり、当初事務局が提案したプログラムを変更し、中津市の全体構想を考えるフォーラムを1回増やすこととなりました。
  第3回・第4回フォーラムではまちづくりを「水と緑」、「歴史と文化」、「景観」、「産業」、「人づくり」、「都市基盤」という6つのテーマに分けて、各自が考えているまちづくりのアイディアを出し合って発表会を行いました。
  当初は行政に文句を言いに来た参加者でも、お互いの意見を聴き、KJ法の作業や発表することにより、個人レベルでまちづくりへの意識の向上と協働が芽生えつつあります。申込者数100数名に対して各回のフォーラム参加者数は、約70名を推移しており、このフォーラムが参加者に理解されたものと感じています。
  今後も、住民と一緒に実りのあるフォーラムを作っていきたいと感じています。

3-2. 事務局の取り組みと他の職員(街援隊)の反応
  このフォーラムの運営は、フォーラムのかぎを握る街援隊の活躍が重要です。
  街援隊は、ばらばらに出された住民意見をそれぞれのグループの進行役として取りまとめるという、中心的な役割を担っていますので、街援隊の動き一つに運命がかかっています。
  しかし、通常の会議方式であっても難しいプランの策定を、ワークショップ形式のフォーラムでできあがるのかという声もありました。そこで、実際のフォーラムを開催する前に、市職員のまちづくり行政への意識向上のために、市職員を対象とした「職員ワークショップ」を開催しました。その中で、ワークショップの進行を経験や参加者としてワークショップをリードしていくことで、ワークショップの意義と効果を再認識することができました。
  実際のフォーラムの場では、街援隊によるリードによりフォーラムは全体としてスムーズに進みましたが、職員ワークショップではでなかったいくつかの問題点が浮上しました。
  それは、街援隊のアドバイスは時として
  ① 参加者を誘導しているようにとられてしまう
  ② アドバイスの必要がないグループの街援隊は何もしない
  ③ 何とかまとめようとするために半ば強引に進めてしまう
 といったことがあり、打ち合わせの際に以下のことについて話し合いました。

 フォーラムは参加者が作業を楽しく感じる仕掛けづくりをしていますが、参加者が期待しているのは仕掛けではなく自分の意見をいうことにあります。つまり、フォーラムを終えて参加者が充実したと感じるのは自分の意見をすべてだせたときということです。
 そのため、街援隊のメンバーはKJ法などの要領を指導したり、情報を提供するなど行政と参加者のパイプ役をするとともに、指導の必要が少ないグループでは一緒になってアイディアや意見をだしたり、声の小さな方の意見を引き上げたりなどして、グループの中で孤立する人がでないような場の雰囲気づくりに努めていこう。

  現在、このようなかたちでフォーラムを進めていますので結論はでていませんが、住民の反応にもあらわれているように、これからのまちづくりにはこのようなワークショップ形式が主流になると感じています。

4. フォーラムの提言を都市計画マスタープランに盛り込むために

● 開かれた審議とするために、
    →検討委員会は公開とし、フォーラムの代表を委員として参画
● マスタープランの位置づけを明確にするために
    →議会の議決を得ることが必要

4-1. 「フォーラムの提言」の取り扱い
  現在進めているフォーラムは、今年10月を目途にフォーラムの提言を提出する計画となっています。住民が主体となったこの「提言」をどの程度まで都市計画マスタープランに盛り込めるかが、住民参加のまちづくりを広げていくための大きな課題です。単に、フォーラムで住民の参加という形を整え、住民のガス抜きをしただけであれば、これは従来の行政の政策決定スタイルを逸出したことにはなりえません。「提言の内容」を行政が重く受け止め、都市計画マスタープランに最大限盛り込むために、次のようなプログラムを予定しています。
 Ⅰ 学識経験者、住民代表、行政機関の代表からなるマスタープラン検討委員会で、フォーラムの提言をベースに検討委員会で審議していきます。フォーラムで論議された内容が十分取り入れられるよう、この検討委員会にフォーラムの代表を委員として委嘱する予定となっています。さらに、この検討委員会の会議は、開かれたものとするために公開審議とし、フォーラムの会員・その他住民が自由に参加できるものとしています。
 Ⅱ 次に、検討委員会からの答申を受けて、市の原案作成を行います。原案が出来上がった段階で、再度フォーラムを開催し、市の原案に対する意見を受け、原案を修正の後、市の都市計画審議会で審議を行います。(この段階では、ほぼ原案どおり答申が出されるのが常です。)
 Ⅲ 都市計画審議会の答申をうけ、最終的な都市計画マスタープランが出来上がります。

4-2. 議会との調整
  都市計画法では、都市計画マスタープランの議会承認を予定しておりません。一般的には、必要ないものは議会には上程しないのが、行政の手法です。しかし、住民が主体的に取り組んだ都市計画マスタープランの位置づけを明確にするためにも、議会の承認を取り付けることが必要であり、行政プランで唯一議決を得て定められる総合計画と同列に取り扱うべきプランと考えます。
  しかし、行政内部での調整では、「議会の委員会で意見を求める」こととなっており、従来の行政スタイルを逸出できていません。
  当初、フォーラムを組織する際、代議制で選出している市議会議員と住民参加のような直接的な住民による意思決定が両立できるかという論議が行政内部で起こりました。住民参加による都市計画マスタープランも最終的には行政が責任を持って作成することとなり、議会と住民参加は、両立できるものとしてフォーラムを進めてきた経過があります。
  そういった意味からも、住民が主体的に取り組んだ都市計画マスタープランを、議会で承認をとることは、まさに「代議制との両立」を図る意味からも必要な手続きと考えており、引き続き内部調整を進めていきます。

5. おわりに

 地方分権社会では、自治体が従来のように国の事業官庁や下請け機関として行動し、中央政府の権限を自治体に移すだけでは目的を達成したことにはなりません。
 地方分権によって自治体の権限は拡大され、その機能は強化されていきますが、分権改革の究極の目的は、地域戦略、地域政策を「自らの頭」でまとめられる自治体をつくるとともに、自主的な住民活動によって支えられる個性的で豊かな地域社会をつくることです。
 従来どおり地域社会の創造を住民の関与なしに行政にまかせていけば、いつまでたっても住民自らが責任のもてるまちの将来は築くことはできません。地域の課題を住民と行政がともに見つめながら進めていくこと(協働)がこれからのまちづくりに求められています。
 そういう意味で、このフォーラムは市民と行政の垣根を取り払う第1歩と考えています。今始まった住民参加は、単に都市計画マスタープランの策定に終わらせるべきではなく、市民が事業計画執行から事業管理の事後チェックまでを行える情報公開と市民の行政への関わりを深めるための息の長い取り組みであると考えております。
 このように、自由度の高い権限と財政力を背景に、市民と独自の地域政策を策定する「政策自治体」が全国に出現すれば、過疎に悩む農村部や大都市の近くにある中小都市であっても豊かさを実感でき、住民も権利の主張と引き換えに自らの果たさなければならない義務の履行を素直に受け入れられるまちづくりが創出されるものと思います。