地方分権と権限委譲について
~法定外公共物(里道・水路)の譲与について~

京都府本部/自治労京都市職員労働組合

 

― はじめに ―

 地方分権の推進は、①国と地方公共団体が共通の目的である国民福祉の増進に相互に協力する関係であることを踏まえ、②地方公共団体の自主性及び自立性を高め、個性豊かで活力に満ちた地域社会の実現を図るため、③各般の行政を展開する上で国及び地方公共団体が分担すべき役割を明確にし、④住民に身近な行政をできる限り身近な地方公共団体が処理すること、を基本に行わなければならない。
 地方分権推進計画は平成7年7月に施行され、地方分権推進法により設置された地方分権推進委員会の勧告に基づき、475本の地方分権推進を図るための関係法律の整備等に関する法律(平成11年法律第87号、以下「地方分権一括法」という。)が成立し、基本的には平成12年4月1日から施行されることになった。
 地方分権は地方自治体の自己決定権の拡充と自己責任の拡大で、あらゆる行政において高い政策ニーズに応え、個性豊かな行政サービスを提供することである。
 京都市も、地方分権整備法の施行にあわせて、いくつかの条例改正を行い、分権法施行に対応しなければならないと同時に、自治体労働組合には地方分権推進過程で労働条件に関わる問題もあるが政策提言の主体的力量も問われることになる。

1. 地方分権一括法の要旨

(1) 行政システムの移行
  従来の中央集権型行政システムを根本的に改め、分権型行政システムに移行する。

(2) 上下の関係から対等・協力関係へ
  地方自治体の自主性・自立性を高め、国と地方の関係を「上下の関係」から「対等・協力の関係」に転換する。

(3) 機関委任事務の廃止
  国の下部機関として地方自治体に国の事務を代行させている機関委任事務制度が廃止される。これは、国と地方自治体の役割分担、行政責任を明確にすることが狙いである。これにより機関委任事務は、地方自治体固有の「自治事務」と国の事務を代行する「法定受託事務」になる。現行の通達は廃止される。
 ① 自治事務になるもの(主な例)
  ● 都市計画の決定  ● 産業振興地域の指定  ● 飲食店営業の許可  ● 病院、薬局の開設許可  ● 法定外公共物(里道、水路等)の財産管理  ● 準用河川の管理(市町村)  ● その他
 ② 法定受託事務になるもの(主な例)
   国が本来果たすべき責務を有する事務であるが、国民の利便性、効率性の観点から都道府県または市町村が処理するもので、その事務は法令で規定される。
  ● 国政選挙  ● 旅券の交付  ● 国の指定統計  ● 国道の管理(一般国道の指定区間外)  ● 河川の管理(一級河川の指定区間)  ● その他

(4) 地方公共団体に対する国等の関与の在り方 = 不服審査の申し立て =
  都道府県に対する国の関与及び市町村に対する国または都道府県の関与について、基準と手続きが整備される。地方公共団体に対する国の関与のルート化を図る。地方公共団体が国の関与に不服がある場合には、平成12年度に総理府に新設される「国地方係争処理委員会」に委員は、有職者5人で組織、衆参両院の同意を得て首相が任命審査を申し立てることができる。
  地方公共団体から不服審査の申し立てがあり、国の関与に違法性や不当性があった場合には、係争処理委員会は担当省庁に勧告を行い、当該省庁は審査を申し立てた地方公共団体に対し、勧告に沿った措置をとることになる。この措置に不服があれば地方公共団体は高等裁判所に訴訟を提起することができる。

2. 法定外公共物(里道・水路等)の財産管理

 ここで、自治事務となった法定外公共物について考えてみる。法定外公共物は平成9年10月の地方分権推進委員会第4次勧告で述べている。

(1) 法定外公共物とは
  道路法、河川法その他の法律の管理に関し、特別の定めのないいわゆる法定外公共物のうち、認定外道路(里道)、普通河川(溝渠、排水路等)等の建設省所管の法定外公共財産は、国有財産法及び建設省所管国有財産取扱規則に基づき、国有財産の境界確定、用途廃止等は都道府県知事への機関委任事務と解されてきた。しかし機関委任事務としての法的根拠が法律・政令上は明確でなく、委任されている事務の範囲、内容等も具体的には明らかでない。また、地域開発や住宅開発等に伴い、国有財産の売払い等が行われる際には、都道府県や市町村がその境界確定や用途廃止の事務処理を行っているとともに、その売払い収入は国庫に帰属することとされているなど、地方公共団体、特に市町村にとって大きな負担となっている。
  これらの法定外公共財産の日常的な維持管理や災害の防止、復旧等の行政上の管理(以下「機能管理」という。)は、事実上市町村がこれを行っているが、法的な位置づけを明確にした法令の規定は存在しない。市町村は、住民福祉の観点から機能管理に関する事務を放置することは出来ず、法律上の管理責任が不明確なまま、事実上管理を余儀なくされていることも多い。これに伴う経費の負担や事実上管理を行っていることを理由とした国家賠償責任が問われるなど種々の問題が生じ、その対応に苦慮している。
  こうした問題を解決するため、過去数次の法制化の試みにもかかわらず、実現するに至っていない。機関委任事務の廃止に伴う新たな事務の区分の整理に当たっては、特に現在建設省所管国有財産取扱規則に根拠を求めている財産管理に関する事務についての法的根拠の明確化が不可欠である。
  以上のことから、財産管理に関する事務も現に地方公共団体が担っていることから、国有財産である法定外公共財産を地方公共団体に譲与することにより、機能管理、財産管理ともに、地方公共団体の自治事務として処理する方法が、最もすっきりした筋のとおった考え方である。

(2) 法定外公共物に係る国有財産の譲与について
  里道・水路等の法定外公共物の機能管理は、地方自治法第2条の規定により当該市町村が行い、その敷地である法廷外公共用財産(国有財産)の管理は、建設省所管国有財産部局長(知事)が所掌している。
  地方分権の推進を図るための関係法律の整備等に関する法律について第113条により改正された国有財産特別措置法第5条1項第5号の規定により、建設省所管の法廷外公共物のうち、里道・水路等として現に公共の用に供されているものの道路法、河川法、下水道法等の公物管理の適用若しくは準用のない公共物で、その地盤が国有財産となっているものについては、平成12年4月1日から5年以内に、その財産を市町村に譲与し、機能管理、財産管理とも自治事務とし、機能を喪失しているものについては、用途廃止の上、国へ引継ぎ、国(財務局等)が直接管理することになっている。
  これに伴い、地域住民の生活に密接に関連する里道・水路の管理権限の所在が明確になり、市町村の自主的判断で適切に維持管理していくことが可能となった。

(3) 法定公共物に係る国有財産譲与の推進
  法定公共物(道路法または下水道法の適用を受けるもの。)である道路または公共下水道等に係る建設省所管国有財産にあって、法定外公共物と同様に機能管理及び財産管理を一体として市町村の自治事務として処理することが適切である。そのため法定外公共物に係る国有財産の譲与手続きと併せて、道路法第90条2項または下水道法第36条の規定に基づき、その財産譲与の一層の推進を図ることとされた。

3. 法定外公共物に関わる財政問題

(1) 財源確保
  自治体運営の基盤である財政は厳しい状況に陥っている。京都市財政は景気に左右される個人市民税と法人市民税の落ち込み、地価の下落で固定資産税も前年度より下回る状況で危機的状況に直面している。
  全国の自治体も同様と考えられるが、地方公共団体が個性ある地域づくりを進めるには、その裏づけとなる地方税財源の充実確保が不可欠である。が地方分権一括法には地方公共団体への税財源の委譲策が盛り込まれていない。早急な税財政制度の改革が求められている。

(2) 今後の問題点
  法定外公共物の譲与に係る業務について建設省・大蔵省より譲与手続きに関するガイドライン(基本編・譲与申請編)が出された。この業務を推進していく特定作業は膨大な業務であり、譲与を受ける側(京都市)の態勢を確立していかねばならない。また、資料の収集や調査に関する業務委託費用も財源が必要となる。
  平成12年4月1日から5年以内にやむを得ない事情を除き、譲与申請、引継ぎを完了することになっている。
  これに伴い、譲与を受ける自治体では特定作業の準備及び態勢整備が課題となるが、譲与後の維持管理にも併せて考える必要があると思われる。
 ● 庁内の態勢整備
   京都市にも各局が保有する法定外財産(機能喪失財産)があると思われる。このため法定外公共物等の取扱い方針や関係各局の調整、統括部署など態勢整備の確立が求められる。
 ● 法定外公共物管理条例等の制定
   占用許可基準、占用料、監督処分、立入検査など行政管理ができるよう法定外公共物管理条例等の制定が必要である。
 ● 公有財産管理台帳整備
   公有財産規則に基づき、管理の適正を図るために台帳等の整備が必要であり、そのための経費が必要である。
 ● 維持管理の態勢強化及び財源確保
   譲与される法定外公共物等の境界確定、占用許可等の業務、訴訟問題など維持管理を円滑に進めていくには態勢強化及び財源確保が必要である。

― おわりに ―

 地方分権の推進により、国と地方自治体を地方自治の本旨を基本とする対等・協力の関係に移行させていくためには、地方自治体の自主性・自立性を高める見地から、国と地方自治体の役割分担の見直し、機関委任事務制度の廃止、地方への権限委譲、国の関与・必置規制の整理合理化等を進めるとともに、国と公共団体の財政関係についても基本的な見直しを行う必要がある。
 各自治体とも極めて厳しい財政状況の下にあるが、地方分権の観点から国・地方を通じる行政の簡素・効率化や財政・資金の効率的な使用に資することが求められている。
 法定外公共物の譲与を受けるにあたり、多大な経費が必要であることを考えてきた。地方自治体への税財源の委譲策が明確化されていない状況であるが、地方交付税の措置や国庫補助金等、また譲与後の維持管理経費についても財政上の支援を要求していかねばならない。