大阪港の廃棄物埋立処分場に関する一考察

大阪府本部/大阪市職員労働組合・港湾局支部


1. はじめに

 膨張する都市と産業経済の発展は、地球温暖化やオゾン層の破壊という地球規模の環境破壊を招いた。また増大する人口と大量生産・大量消費という消費経済の拡大は、廃棄物の膨大化と多様化を招き、近年深刻な社会問題となっている。1960年代からの東京のごみ戦争等はそのいい例であり、今、国内で排出されている産業廃棄物の量は年間約4億トンとも言われている。自治体では独自で廃棄物問題に取り組み、近畿では1970年代ごろから廃棄物処分場が建設されるようになった。大阪港においても北港北地区(舞洲)に続いて、北港南地区(夢洲)が現在埋め立て中であり、97年3月の大阪港港湾計画改訂では、新人工島が新たに位置づけられた。ここでは大阪港の廃棄物埋立処分場の概要及び、その廃棄物埋立処分場(夢洲)の水際線で進められている環境問題への取り組みの1つエコポートモデル事業について紹介し、支部としての問題意識を述べたものである。

2. 大阪港の廃棄物埋立処分場

 大阪港の廃棄物処分場の概要をまとめると下表のとおりである。

  北港北地区 北港南地区 新人工島地区(1期分)
積(容 積) 209ha2,855万m) 288ha (5,000万m) 205ha3,700万m
建 設 期 間 昭和4752年度 昭和52~平成12年度 未  定
受 入 期 間 昭和4862年度 昭和60~平成14年度 未  定
受 入 状 況 100 90

(尚、北港南地区の建設期間、受入期間は予定) 

 受入廃棄物としては、一般廃棄物・上下水汚泥・浚渫土砂・陸上発生残土となっている。ここで一般廃棄物とは家庭で発生するごみの類いであり、浚渫土砂とは河川港湾施設の建設・維持に伴うものであり、市内に多数の河川を持ち河口から発展した大阪港では、毎年の維持浚渫は不可欠なものとなっている。陸上発生残土とは、市内における土木建築工事等から発生する土砂・ガレキ・廃材等をさしている。

3. 廃棄物埋立処分場における環境問題への取り組み(エコポートモデル事業)

 地球規模の環境破壊が深刻化する中、まちづくり計画が進められている夢洲においては、環境にやさしい環境共生・循環型のまちづくりを目指している。具体的には、水の再利用、太陽エネルギーを利用するシステム、緑にあふれる人工の川や人工の干潟や磯場といったものである。以下に、廃棄物埋立処分場における環境施策の一つとしてのエコポートモデル事業について紹介する。

() 事業概要
  今日、自然環境の回復のための様々な対策の必要性が叫ばれているが、港湾においても例外ではなく「自然の海辺」の機能の回復が強く求められるようになった。
1994年3月、運輸省港湾局は、新たな港湾環境政策である「環境と共生する港湾〈エコポート〉をめざして」(資料-1)を策定した。これは生物・生態系に配慮し、自然環境と共生したアメニティー豊かな、環境への負荷の少ない港湾の実現を図ることを目的とするものである。そしてこの政策実現のため「エコポートモデル事業制度」を創設し、1997年6月、大阪港が「エコポートモデル港」に指定された。〈尚、現在エコポートモデル事業の制度が創設されてから6年が経ち、全国で6港が事業認定を受けた。運輸省としてもモデル事業制度が全国に先駆けての模範事例という一定の効果をあげたことから、モデル事業を発展させていくことも考えている。〉

() 基本方針
  大阪港では、エコポートモデル地区指定を受けた西側水際線(資料-2)のうち、エコポートモデル事業として北港南地区(夢洲)西側周辺海域を以下の基本方針に沿って整備を進めている。(資料-3)
 ① 良好な港湾環境を目指した生物生息の場の創造
 ② 人々に潤いと安らぎを与えるアメニティー空間の創出
 ③ リサイクル材を利用した海域環境の改善

() 事業計画
  事業の実施にあたり、生物・水質・底質等の調査を行うとともに、藻場の造成実験・貝類の生息可能実験等を行うことによって、大阪港においてどのような水質環境・光環境の元でどれくらいの生物が生息しているのか、また生息可能なのか、というデータの蓄積を行うこととしている。そしてそのデータを基に、海浜や干潟の平面配置・構造をどのようなものにしていくのか、基本設計・実施設計の中で検討を進めていく。
  また、エコポートモデル事業では単なる構造物の築造に終始するのではなく、事業実施中及び完了以降も継続的なモニタリング調査を行い、事業の効果と影響を確認すると共に、今後の港湾環境整備の基礎資料として活用できるようデータの蓄積を行っていくこととしている。

4. 支部としての問題意識

 2、3において大阪港の埋立処分地及び環境問題施策としてのエコポートモデル事業への取り組みを紹介したわけだが、ここでは支部として、今後の廃棄物処分問題と地方分権からみたエコポートモデル事業のあり方について考察を行いたいと思う。

() 廃棄物問題について
  大阪市においては、良好な都市の環境を確保し将来の市民へ継承していくことを目的として、
95年3月に「大阪市環境基本条例」を制定し、96年8月には環境の保全と創造に関する施策の基本方針を定めた「大阪市環境基本計画」を策定した。廃棄物対策については、その重点8項目の1つとしてあげられている。大都市大阪においては、廃棄物の安定的かつ継続的な処分を行うにあたり、市域がほとんど市街化されているということで廃棄物処分場を舞洲、夢洲そして新人工島と海面上に求めてきた。しかし、ここで大事なことは、廃棄物問題はこれらの廃棄物の受け皿をつくるということが1つの解決手段ではあるが、真の解決とはなっていないことである。97年3月の港湾計画改定で位置づけられた新人工島が近い将来満杯になれば、次はどうするのか。大阪港の港湾計画図を広げてみたとき、港湾区域内に新たに処分場を設けるスペースを見つけることは既に難しい。これからの廃棄物行政は、大量生産・大量消費というライフサイクルありきで進められるものではなく、廃棄物の発生抑制・減量化・リサイクル・再資源化を推進することが重要であり、都市全体の問題として関係部局・関係自治体が一体となって取り組み、処分場の延命化に努めなければならない。具体的には、ペットボトル・カン・ビンの分別収集や市民への啓発活動、現在検討が進められている河川浚渫土や焼却灰の再利用(固化処理)の推進等が考えられる。浚渫土や焼却灰の再利用は跡地利用、コストやダイオキシン等、クリアしなければならない問題も多く難しいが、埋立処分場が貴重な海面をあえて埋め立てる事業であり、海域・沿岸の環境問題や生態系に少なからず影響を与えることは明らかなこと、航路上の危険性ももつことを考えると難しいとばかりも言ってられない状況にある。自治体は、廃棄物行政と環境行政を同時に担うものであり、しかも、この2つは切り離して考えてはならないことを今一度強く認識しなければならないのではないだろうか。
  支部としても、大阪市の廃棄物行政に直接関係するものとして、市職の「環境廃棄物対策委員会」さらには、対市協議機関である「大阪市廃棄物対策推進会議」等に積極的に参画し、廃棄物を受け入れる側として、将来の処分場のあり方を明らかにさせることが重要であると考えている。

() 地方分権からみたエコポートモデル事業について
  
95年5月「地方分権推進法」が制定され、99年7月には「地方分権一括法」の成立と本格的な地方分権に向けた政策の推進がはじまった。地方分権の目的は、地方自治体の自主性・自立性を高め、個性豊かで活力に満ちた地域社会をつくり出すことであり、言い換えれば、多様化する市民のニーズや要望を政策に取り入れ、市民の理解の得られた、市民参加型のシステムが進められることである。公共事業は言うまでもなく市民のためのものであり、必然的に市民が主体とならなければいけない。事業の計画段階・実施段階・検証段階とあらゆる過程において市民も参加し、行政との連携を深め問題認識の共有化を図ることこそが、地方分権時代におけるこれからの公共事業のありかたといえるだろう。大阪港の歴史を振り返ってみたとき、それは、正に市民の入り込む余地の無い、市民の視点が軽視された歴史であった。昭和20年代は、戦後の復興計画による内港化と都市基盤整備が進められ、昭和30年代は重化学工業の進展に伴い、造成費が安く原材料の輸入や製品の輸出に便利な臨海部が工業用地として整備された。昭和4050年代に入ると、海上輸送革新により国際海上貨物のコンテナ化が進み、港湾機能の一層の強化が図られ、昭和60年代は、港が高度で複合化した機能を有する総合物流空間となり、船舶の大型化や荷役機械の大型化に伴い大水深の岸壁が次々と整備された。また一方で、大阪港は昭和9年の室戸台風、昭和25年のジェーン台風、昭和36年の第2室戸台風と幾度となく高潮による浸水被害を被っており、防潮堤と盛土によるかさ上げを行ってきたが、昭和42年の「大阪港高潮恒久計画」では大阪港の水際線約60㎞が、OP5.707.20mの高さの確保が必要とされ、現在、コンクリートの壁による高さの整備はほぼ完了した。このように、大阪港の歴史は港湾機能の強化と高潮とのたたかいであり、このことは、市民から港に近づける機会を奪ってしまい、いつの間にか市民にとって港を縁遠いものにしてしまったのである。
  今回ここに紹介した「エコポートモデル事業」は、深刻化する環境問題についてミティゲーションの手法を取り入れ、環境対策、環境保全、環境創造に取り組んだ事業といえるが、将来市民が海辺に足を運び、海辺に親しめる場所となるだけに、「市民参加」というこれからのキーワードを無視する訳にはいかない。エコポートモデル事業では単なる構造物の築造に終始するのではなく、事業実施中及び完了以降も継続的なモニタリング調査を行い、事業の効果と影響を確認することとなっているが、こうしたモニタリング調査への市民参加は極めて重要な課題と考えられる。桟橋やケーソン、防潮堤といった無味乾燥としたコンクリート構造物とは違い、間違いなく、市民にとって魅力ある海浜や干潟となる可能性を秘めている。エコポートモデル事業は港の個性を発揮するには格好の事業であり、その港の個性を、地方分権を念頭に置いたときに市民の視点を尊重し、自治体と市民で作り上げた個性にしていくべきではないだろうか。従来のように市民の視点が軽視されると、またしても市民にとって縁遠い場所となりかねない。そういう意味では、先に挙げた各種調査や実験が基となって海浜や干潟がつくられていることや、費用対効果等その他様々な問題に至るまで市民と認識を共有していくこと、検証段階においては自治体によるモニタリング調査により判断するだけでなく、市民が実際どのように感じ、どのようなものを期待しているのかという市民によるモニタリング調査を判断材料とすることも大切になってくると思われる。「市民参加」と口に出すことは簡単であるが、市民参加のシステム構築は一朝一夕にはいかないであろう。しかし、自治体は、地方分権ということで自己決定権を与えられた一方、市民への情報公開や説明責任といった自己責任も与えられたことも忘れてはいけない。
  支部としても、市民参加システムの構築、つまりは市民による市民のための港づくりに向けた取り組みを強く求めていかなければならないと考えている。

5. おわりに

 現在大阪市は、2008年のオリンピック招致に向け全力をあげており、オリンピックが招致されれば夢洲は選手村に、舞洲は主会場となる予定である。しかし、廃棄物の埋め立てがオリンピックの土地利用のために前倒しになってはいけないし、エコポートモデル事業が単なるオリンピック招致の手段となってはいけない。わたしたちの最終目標はオリンピック招致ではなく、あくまでも市民による市民のための港づくりである。また、兵庫県においては、河川や道路等の土木事業を対象に「コミュニケーション型県土づくりモデル事業」として、計画段階から地域住民が参加する新たな形の公共事業をはじめるようである。さらに、昨年6月に施行された「環境影響評価法」に併せ施行された条例においては、環境アセスメントの計画書の段階から市民へ縦覧することを謳っている。地方分権といえども地方自治体が主体では、市民にとっては今までとなんら変わりはない。21世紀を目前に控えた現在、これらのことからも市民主体が求められていることがわかるだろう。
 支部として、わたしたちの大阪港が目指すべき道を歩むために、支部の取り組みについて更なる追求をしていかなければならない。