【要請レポート】
松原市の地域教育協議会の取り組みから
大阪府本部/松原市教育委員会地域教育振興課 上原 秀昭
|
松原市は大阪府のほぼ中央に位置しており、北は大和川をへだてて大阪市に接し、市域は東西約5.8キロメートル、南北約5.1キロメートル、面積約16.66平方キロメートルで、ほとんどが平坦地です。
大阪市内への交通の便も良いことから、昭和40年代に急激に人口が増加し、都市化が進んだまちでもあります。
かつて、学校や家庭は地域社会の有形無形の教育力に支えられながらその教育機能を果たしてきました。言い換えれば、家庭と家庭の間、家庭と学校の間を埋め、つなぐ教育機能を地域社会が果たしていました。
しかし、近年、物質面の豊かさとともに周囲の人々から干渉されない生活を求める傾向などのライフスタイルの変化や価値観の多様化が進み、その結果、地域社会における地縁的な人間関係の希薄化や大人社会のモラルの低下等に見られる地域社会の教育力の低下について、今、私たち大人が協力して解決すべき重要な課題があることは、松原市も例外ではありません。
本市では、学校と地域社会の連携により、地域社会の教育力の向上をめざした様々な取り組みが進められてきました。
1. 地域教育改革のこれまで
従来から中学校区ごとに青少年健全育成協議会(以下、育成協)が組織され、青少年の非行防止や健全育成のための活動が進められてきました。
こうした長年の取り組みを踏まえ、平成7年度に「松原市中学校区いきいき事業」の開始を契機として、各中学校区の育成協が中心となり、各中学校区でフェスタが開催されるようになりました。さらに、大阪府の「総合的教育力活性化事業」の実施を踏まえて、それまでの取り組みの成果を引き継ぐ形で、平成12年度に各中学校区「地域教育協議会(すこやかネット)」が発足しました。
また、平成14年度には、7つの地域教育協議会間の連携の強化を図るため「松原市地域教育協議会」が結成され、情報誌「すこやかネットまつばら」の発行や職場体験学習への支援など、校区を越えた取り組みを進めています。
2. 学校・地域社会の協働による5つのネットワークづくり
(1) 「職場体験学習のネットワーク」
各中学校の職場体験学習を地域から支援するために、学校と地域教育協議会、松原商工会議所、松原青年会議所、松原市商店会連合会、松原ロータリークラブ、松原中ロータリークラブ、松原ライオンズクラブ等の関係団体の連携が進められ、生徒が自ら職場を選択し、市内の様々な事業所で職場体験を行っている。平成15年度において、受け入れ事業所数は約560箇所にのぼっています。
(2) 「ボランティア活動のネットワーク」
各校区で、「自分たちの地域を自分たちの手できれいに」を合い言葉に、子どもと大人が協力して校区クリーンキャンペーン(清掃活動)を行ったり、非行防止キャンペーンの活動では校区パトロールや神社の祭りでのパトロール、非行防止等に係るステッカーづくりをはじめ、子どもの安全を守る地域安全パトロールなどの取り組みが行われています。
(3) 「大人と子どものネットワーク」
「地域の子どもは地域で育てる」を合い言葉とするさまざまな活動を通して、地域の子どもと大人の「顔と名前の一致するつながり」が広がり、地域の大人が普段から意識的に子どもたちに声をかけるなどの豊かな人間関係づくりが進められています。
(4) 「子ども同士のネットワーク」
10月下旬から11月中旬にかけて行われます各校区のフェスタにおいて、中学生がスタッフとして小学生をリードしたり、生徒会が主催して校区の幼児・児童のためのイベントを開くなど、年齢や学校を超えた子ども同士のつながりが広がっています。
(5) 「体験活動のネットワーク」
体育指導員の方々をはじめ、多くの人々や団体の協力を得て、子どものためのさまざまな体験活動の取り組みが進められています。特にフェスタでは、福祉や国際理解、防災、スポーツなど、さまざまな体験コーナーが設けられています。また、小中学校の「総合的な学習の時間」などで、地域の人々がゲストティーチャーとして登場する取り組みも盛んに行われています。
3. すこやかネットの成果と今後の課題
地域教育協議会(すこやかネット)が設置されて、どのように変わってきたかアンケート調査を見ると、とくに学校関係者、地域関係者ともに5割以上の回答率を示している変化項目をみると、「大人との交流の機会が増えた」(図表Ⅱ-15・子どもの変化)、「学校に関わってくれる人が増えた」(図表Ⅱ-16・学校の変化)、「地域の諸団体との交流が盛んになった」(図表Ⅱ-16・学校の変化)、が挙げられます。
また、続いて高い数値を示している項目をみていくと「教職員と保護者・地域住民との信頼関係ができた」(図表Ⅱ-16・学校の変化)、「地域住民同士の交流が増えた」(図表Ⅱ-17・地域の変化)「地域住民の間で子どもや教育への関心が高まった」(図表Ⅱ-17・地域の変化)という回答が4割前後ある。そして家庭の変化(図表Ⅱ-18)では「学校のことをわかるようになった」が3割強となっている。これらの回答から、「すこやかネット」が設置されたことで、教職員と保護者や地域住民の間の信頼関係が築かれた、あるいは子どもや教育への関心が高まっている校区が増えていることがうかがえます。
今後は「すこやかネット」が自立・発展していくために、単にイベントの企画運営をねらいとするのではなく、継続的な情報交換によって子どもや地域の課題を共有化し、互いにできることを持ち寄ってその解決にむけて取り組んでいく必要があります。さらに「すこやかネット」の活動をとおして現在生まれつつある教職員・保護者・地域の活動層を固定してしまうのではなく、つねに地域の新しい人材や活動を巻き込みながら、より柔軟にネットワークを拡大していくことが必要であり、そうした「教育」を縁にした大人のネットワークとそこで培われた信頼関係が、子どもを育み、地域の教育活動を支える基礎的な力となるからであります。
(資料1) すこやかネット・まつばら
(資料2) 「すこやかネット」設置による変化
|