【要請レポート】
下水道は赤字構造から脱却できるか
大阪府本部/大阪市職員労働組合・自治労下水道部会 加藤 英一
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1. 赤字の現状
① 下水道への投資額は2002年度末までの累積で82兆円(流域下水道の重複を除く)
② 2002年度末の起債残高は33兆円(自治体分)
③ 下水道の経費負担区分は「雨水公費・汚水私費」
④ 2002年度の赤字(汚水処理収支の収入不足)額は全国で約9,600億円
→ 群馬県の同年度の一般会計歳出決算7,881億円、県債残高8,906億円
2. 赤字の原因
① 日陰の存在だった下水道が脚光を浴びたのは?
ア 1964年の東京オリンピック~汲み取り便所は「恥ずかしい」
イ 水俣病の原因は工場排水~企業責任の肩代わり
ウ 工場排水は儲かるという皮算用
② 国庫補助による公共事業として実施された~住民不在
経済対策としての公共事業=金を使うのが目的(下水道は土木あり、プラントあり)
ア 過大計画・過大設計
イ 利権・談合・汚職
ウ 月月火水木金金
大阪市下水道局のデータ書換え事件(1972年) → 資料1・注1
3. 赤字構造の解明
① 下水道を評価する視点=環境・自治・財政
② 下水道の経済性を評価する指標
ア 処理原価=汚水処理経費÷有収水量
イ 赤字強度=汚水処理収支不足額÷一般会計職員給
ウ 水量密度=有収水量÷処理区域面積
③ 群馬県の公共下水道 → 資料2
ア 処理原価 150~200円のグループと300円以上のグループに2極分化している
イ 赤字強度 沼田市・吉岡町・月夜野町が2割オーバー、新町・水上町が3割オーバー
ウ 水量密度 5前後のグループと3以下のグループに分かれる
a 伊香保町・草津町は居住者以外の汚水が多く、処理原価が低い
伊香保町の特定環境保全公共下水道は3,300万円の赤字(処理原価534円)
b 群馬県の流域下水道も赤字(3流域4処理場が供用。原価回収率54%)
[汚水処理経費 53億円]-[負担金収入 29億円]=不足額 24億円
処理原価 130円/m3 平均負担金 70円/m3 赤字
60円/m3
c 水量密度と処理原価の関係 → 資料3
④ 赤字の構造的要因
ア 大都市向きの集合処理システムを水量密度の低い地域に導入したため投資効率が悪化
イ 投資財源の大半を起債でまかなったため後年度の元利償還金の負担が重い
4. 持続的社会に適合する汚水処理システムへの変革
① 新しい公共経営理念と汚水処理のトレンド → 資料4
② 発生抑制(節水型社会) → 注2
「下水を排除し捨てる」システムから「原単位を削減し再利用する」システムへ
③ 流域自治
ア 流域を単位とする統合的・自治的な水管理
イ 使用強制」から「パートナーシップ」へ
下水道法第10条の「接続義務=使用強制」は時代後れ
④ 自立した財政運営
現状認識~変革の意志~計画変更
★参考書:加藤英一『下水道のバランスシート』北斗出版
2004年9月発行
【注1】大阪市下水道局のデータ書換え事件(1972年) 資料1参照
1972年5月、国の会計検査で検査員から処理場の放流水質データを求められたのに対して、建設部長が組合員に命じて基準に合うようデータを徹夜で書換えさせました。
組合(大阪市職土木支部)は、執行部による当局との団体交渉等と並行しながら、執行部代表と職場代表からなる下水道事業対策委員会を組織し、当局との交渉や職場との意見交換を行いました。1973年4月23日の団体交渉で当局が、①データ書換えの事実を認め、②今後は原表のデータを公開する、③根本原因である工場排水の受入れ・維持管理体制の不備などについて改善することなどを約束しました。
この事件は、仕事や事業の評価を内部だけで行っていてはいけないことを私たちに認識させ、以後支部として積極的に住民や他組合と共闘していくことにしました。
【注2】発生抑制の体系(洗濯で例示)
発 生 抑 制
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次のような手法を組合わせて洗濯排水を減らす
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原単位削減 |
1戸あたりの洗濯用水量を減らす |
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需要抑制 |
洗濯物を減らす |
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文化的手法 |
着替えたら洗濯→汚れたら洗濯 |
経済的手法 |
「洗濯税」の課税 |
効 率 化 |
洗濯物1kgあたりの用水量を減らす |
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機材の効率化 |
洗剤不要の洗濯機・洗剤不要の繊維を使う |
使用の効率化 |
まとめ洗い |
再 使 用 |
洗濯排水を再使用する(原単位は減らない) |
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再 用(同用途) |
洗濯排水を洗濯用水・洗濯液に使う(補給水が減る) |
転 用(他用途) |
洗濯排水を散水に使う(洗濯排水は減らない) |
資料1 朝日新聞切り抜き(1973年4月15日)
資料2 群馬県の公共下水道2002年度
資料3 水量密度と処理原価
資料4 汚水処理のトレンド
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