【自主レポート】

市町村合併の検証

三重県本部/「市町村合併の検証」ワーキンググループ

1. はじめに

 三重県内の「平成の大合併」は、2003年12月1日の「いなべ市」市制施行を皮切りに、それまでの69市町村であった自治体数が14市15町となって一定の区切りを迎えた。
 この間、総務省では2005年11月から「市町村の合併に関する研究会」を開催し、「市町村の合併の特例に関する法律」の下で実施された市町村合併の状況を踏まえ、市町村の合併に関する課題について有識者による研究を行い、国民・市町村・都道府県及び国からみた効果についての報告がなされている。
 地方分権の一層の推進、少子高齢化社会及び広域行政の対応など、厳しい財政状況の下で行財政基盤の強化が喫緊の課題であるとし、国の施策として推し進められてきた今回の市町村合併が、住民サービスや自治体の職員の意識に与えた影響を考察することで、国のいうところの合併効果をあらためて検証するものである。

2. 自治研「市町村合併の検証」ワーキンググループ体制

座  長
酒井 幸久 自治労三重県本部自治研推進委員長
自治労三重県本部副委員長
事務局長
和田 義美 自治労三重県本部中執
 
橋本  寛 自治労三重県本部自治研推進副委員長
三重県地方自治研究センター
 
駒井 克也 三重県職労
 
長澤 和也 伊勢市職労
 
福山 朋宏 伊賀市職労
 
福山  桂 松阪市職
 
西 喜久也 熊野市職労
 
中出 賢一 多気町職
 
世古口哲哉 明和町職労
 
岡本  元 紀宝町職労
事務局員
内堀  剛 自治労三重県本部書記

3. 自治研「市町村合併の検証」ワーキンググループ開催状況

 第1回
  と き 2006年3月23日(木)15:00~
  ところ 津市・(財)三重地方自治労働文化センター4F

 第2回 
  と き 2006年4月12日(水)15:00~
  ところ 津市・(財)三重地方自治労働文化センター4F

 第3回
  と き 2006年4月27日(木)14:00~
  ところ 津市・(財)三重地方自治労働文化センター3F

4. 市町村合併の目的と県内の合併状況について

(1) 市町村合併の目的
   国は市町村合併について、①地方分権による市町村の役割の重要性、②少子高齢化社会への対応、③広域的な行政需要の増加、④構造改革の推進への対処の4点をかかげた上で、基礎自治体としての市町村の規模・能力を充実し、行財政基盤を強化することが喫緊の課題であるとし、そのための手段として市町村合併を推進してきた。
   「市町村の合併に関する研究会」2005年度報告書によると、市町村合併の具体的な効果としては、市町村運営の効率化による職員数の削減や行政運営の効率化により、それが経費削減として、あるいは住民サービスの維持・向上など、様々な形で発現するとされている。
   また、住民、市町村、都道府県、及び国からみた市町村合併の効果としては、概ね次のようなものがあるとされている。
  ① 住民からみた効果
   ア 住民サービスの維持・向上
   イ 利便性の向上
   ウ 地域コミュニティ、地域間交流の活性化
   エ 地域の知名度向上、イメージアップ
   オ 行政経費への理解向上(財政支出の縮減による行政コストに対する理解)
   カ 産業活動の円滑化
   キ 防災力の向上
  ② 市町村からみた効果
   ア 専門的できめ細かい施策の推進
   イ 都道府県からの権限委譲による自立性の向上
   ウ 広域的なまちづくりの充実
   エ 行財政基盤の強化(規模の拡大に伴う財政支出の縮減など)
   オ 歳入の確保
  ③ 都道府県からみた効果
   ア 市町村への権限委譲の進展
   イ 権限委譲に伴う出先機関の再編等、都道府県組織の簡素化
   ウ 市町村との調整事務の効率化
   エ 上記に伴う財政支出の縮減
  ④ 国からみた効果
   ア 地方分権の推進、構造改革の推進
   イ 市町村数の減少に伴う支部分部局と都道府県との間の調整事務の負担の軽減
   ウ 上記に伴う財政支出の縮減
    概略は以上であるが、各々の効果は密接に関連し、また、全ての効果が同時期に現れるものではなく、施策の比重などにより異なって発現するものであり、中長期的な視点から把握する必要があるとされている。

(2) 三重県内の合併状況
   市町村合併の効果を検証するにあたっては、合併後一定の期間を経た自治体でなければ、自治体職員の意識や住民サービスの変化を考察することは困難である。したがって、本ワーキンググループでは、合併後1年以上を経た市町を対象に考察することとした。具体的には2005年2月までに合併を終えた「いなべ市」「志摩市」「伊賀市」「桑名市」「松阪市」「亀山市」「四日市市」「大紀町」を対象に、市町村合併の考察を行った。
   それぞれの合併後の市町概況は下表のとおりである。合併の形式としては、四日市市のみ編入合併で、他は全て対等合併(新設)となっている。

自治体名
合併
年月日
面 積
人口*
世帯数*
2006年度当初
一般会計予算
定数**
(一般行政部門)
その他
いなべ市
2003年
12月1日
219.58km2
45,630人
13,750世帯
17,570,000千円
342人
4町対等合併分庁舎方式
志摩市
2004年
10月1日
179.6km2
60,691人
22,149世帯
22,221,000千円
598人
5町対等合併支所方式
伊賀市
2004年
11月1日
558.17km2
102,994人
38,430世帯
44,570,837千円
859人
6市町村対等合併支所方式
桑名市
2004年
12月6日
136.7km2
140,420人
51,103世帯
46,885,407千円
693人
3市町対等合併支所方式
松阪市
2005年
1月1日
623.8km2
170,754人
65,012世帯
53,632,582千円
1,114人
5市町対等合併地域振興局
亀山市
2005年
1月11日
190.91km2
48,889人
18,446世帯
18,429,700千円
302人
2市町対等合併支所方式
四日市市
2005年
2月5日
205.12km2
311,558人
121,132世帯
95,400,000千円
1,341人
2市町編入合併支所方式
大紀町
2005年
2月14日
233.53km2
10,789人
4,090世帯
6,605,000千円
187人
3町村対等合併支所方式
(注1) 人口・世帯数は各市町のホームページより確認しました。最新情報に比べて若干の相違があります。
(注2) 定数は地方公共団体給与情報等公表システムの2005年度データを参照しました。

5. 市町村合併に伴う住民サービスの変化

 先に述べたように、国(市町村の合併に関する研究会)は、住民から見た様々な市町村合併の効果について報告している。本ワーキンググループでは、はたして福祉サービスや地域活動など様々な観点から、住民がどのように市町村合併を受け止めているのかを調査することで市町村合併の検証を行うこととした。
 具体的には、調査対象のそれぞれの自治体別に、NTT電話帳による無作為抽出した住民に対して、郵送によるアンケート調査を行った。
 アンケート項目及び特徴的なものは次のとおりである。

(1) 福祉サービスについて
  ① 保育所や子育て支援施策について
  ② 介護サービス全般について
  ③ 高齢者福祉サービス全般について
  ④ 障害者福祉サービス全般について
  ⑤ その他、福祉サービス全般について

(2) 地域活動について
  ① 地元の祭りなど諸行事について
  ② 地域の文化遺産・歴史などの保全について
  ③ 集会所や公民館、あるいは自治会への支援などについて
  ④ その他、地域活動全般について

(3) 教育について
  ① 小中学校の通学について
  ② 幼稚園や学校など教育サービス全般について
  ③ 子どもたちの交流について
  ④ 図書館、体育館など学校の施設について
  ⑤ 人権啓発、文化事業、スポーツ事業など教育施策全般について
  ⑥ その他、教育全般について

(4) その他、行政サービス全般について
  ① 年金や農業・商工業の相談、あるいは住民票発行手続などについて
  ② 広報誌や情報公開制度などについて
  ③ 各種公共施設の利用について
  ④ 道路や下水道など生活基盤の整備について
  ⑤ ゴミ収集など廃棄物対策全般について
  ⑥ 地域の活性化に対する合併後の「まちづくり」について
  ⑦ 新しい自治体名になったことについて
  ⑧ 防災・防犯対策や交通安全対策について
  ⑨ まちづくり全般にかかる様々な施策について
  ⑩  市町村合併について

(5) 公共料金について
  ① 税負担について
  ② 公共施設の利用料について
  ③ 保育園、幼稚園の保育料について
  ④ 水道料金について
  ⑤ その他、各種料金や税について

 アンケート内容は、それぞれの項目において、住民が実感として「大変良くなった」「良くなった」「悪くなった」「大変悪くなった」「どちらでもない」「わからない」のいずれの感覚に近いかを選択するとともに、各項目に対する満足度として「大変満足」「満足」「不満」「大変不満」「どちらでもない・わからない」を選択する方法とした。

 項目毎の詳細集計結果は資料「住民アンケート集計結果」を参照されたいが、市町村合併に対する住民の評価の傾向を把握するため、アンケート回答数を全項目について単純合計し、その割合を確認したところ、いなべ市の「大変良くなった」「良くなった」の合計比率が30%を超え、かつ「悪くなった」「非常に悪くなった」の合計比率とほぼ等しい自治体であった。(図1)
 このことは、三重県内の自治体の中でもっとも早い時期に合併したことで、合併後の具体的な施策が住民サービスに対する効果として現れたものであると考えられる。
 また、旧自治体人口の比較的多い市が含まれる状況で合併した四日市市や桑名市などは、今回のアンケートが電話帳による無作為抽出であることから、旧市の住民の回答数が多いことが要因のひとつとなって、市町村合併による施策が実感されにくい、すなわち合併による変化を受けにくい傾向にあると考えられる。

【図1】市町村合併の住民に対する効果の傾向

 市町村合併に対する住民の満足度についても全体的には同様の傾向ではある(図2)。このことは、いなべ市の場合は合併後の施策が住民の満足度につながっている好例であると考えられる。

【図2】市町村合併に対する住民の満足度

 続いて、市町村合併による効果が他の自治体に比べて顕著に発現していると考えられる、いなべ市についてさらに詳しく調査をしてみることとする。
 アンケート項目の「福祉」「地域活動」「教育」「その他行政サービス」「公共料金」について、細項目の回答数を合計することで、各々のカテゴリーの何が効果をもたらしているか、あるいは合併に対する満足度向上の要因となっているかを検証する。
 それぞれの項目で、合併による効果をプラスとして評価している項目「大変良くなった」「良くなった」の回答数を細項目数で平均し、それら項目ごとの比率をチャートグラフに表したものが(図3)である。


【図3】市町村合併によりプラスと評価された項目の割合

 合併により改善された項目として評価の高い「その他行政サービス」における細項目は、各種相談や窓口業務、生活基盤や廃棄物施策などといった、住民生活に密着する項目が主なものである。
また、「福祉施策」に対する満足度も高く、いなべ市は市町村合併による福祉・住民サービスの向上がみられる、すなわち住民に対する合併の効果が現れた自治体のひとつであると言える。
 もちろん、合併により「悪くなった」と評価される項目や「不満である」といった内容もあるが、いずれにしても、いなべ市は市町村合併に対して注目し、かつ、積極的に評価を行っている自治体(住民)であると思われる。

6. 職員の意識の変化について

 次に、自治体職員からみた市町村合併について検証する。住民に対するアンケート結果と比較し、行政サービスを受ける側と提供する側との意識の違いなどを調査するため、同じ項目でアンケートを実施した。項目毎の詳細集計結果は資料「職員アンケート集計結果」を参照されたい。
 まずは、「5. 市町村合併に伴う住民サービスの変化」と同様、全体的な傾向を確認したところ、(図4)のような結果であった。

【図4】市町村合併の職員意識の傾向

 先の「市町村合併の住民に対する効果の傾向(図1)」と比較すると良く判るが、住民の合併効果に関する認識が良好なほど、職員の意識としても同様に良好な傾向となっていることがわかる。
 すなわち、危機的な財政状況を乗り越える手段として国の施策により市町村合併が進められてきたが、合併自治体関係者の多大な努力のもと、引き続き行政サービス水準を維持・改善し、結果、良くなったと考える職員割合の高い自治体では、住民も同じように合併による行政サービス向上の効果がもたらされていると感じているのであろう。
 もちろん、四日市市などのように、もともと人口比の大きく異なる自治体が合併するケースでは、合併に関係する住民若しくは職員の割合が相対的に少ないことから、結果として「どちらでもない」「わからない」の回答が多い傾向となるのは当然である。
 また、合併に対する職員の満足度(図5)では、「大変満足」「満足」の合計と「不満」「大変不満」の合計が、各自治体とも極端な差がなく、同じような傾向となっている。よって自治体の職員は、住民に対するより良い行政サービスの提供と同時に、常に行政内部で自己反省し危機感を持って、バランスよく市町村合併後のまちづくりに取り組んできたと思われる。

【図5】市町村合併に対する職員の満足度

7. 市町村合併の功罪

 市町村合併の効果については、行財政基盤の強化そのものを目的とした職員削減あるいは経費節減などに注目が集中しがちである。しかし、「市町村の合併に関する研究会」の報告にもあるとおり、喫緊の課題に対する手段としては必要な措置であろうが、市町村合併が住民、自治体ともに本当に効果的なものとなるには、まだまだ多くの課題に取り組み、中長期的な視点での行政運営が必要であろう。
 また、これまでの考察では、アンケートをもとに、主に合併による具体的な効果、メリットを見つけ出すことで、今後の行財政運営の参考になればと考えてきた。だが、それぞれの地域の産業、人口、歴史や伝統・文化、あるいは地域の特色を生かした特徴的な施策の実施など、まさに自治体によって千差万別であり、単純にモデル化して市町村合併に対する効果を論ずるのは危険である。
 それでも一例ではあるが、いなべ市における住民からみた合併の効果は、まさに合併のメリットである「住民サービスの維持・向上」であるとは言え、また、国の施策としての市町村合併を契機とした自治体職員の変化への対応については、合併を果たした職員の充実感と同時に、より良い住民サービスの提供に対する決意が見られた。
 以上、本ワーキンググループでは、三重県内で合併後1年以上を経過した自治体を対象として、市町村合併のメリットを中心にその効果を調査・検証してきたが、結果として、合併のデメリットも改めて浮き彫りになっている。
 「市町村合併の住民に対する効果の傾向(図1)」より、例えばいなべ市とは逆のパターンを調査することで、具体的な課題が顕在化できる。
 本報告書では、全ての対象自治体に対する具体的な検証を行うには至っていないが、それぞれの項目に対する集計結果を資料「アンケート集計結果」を添付するので参照されたい。

8. おわりに

 本ワーキンググループ報告では、関係者の多大なご協力により貴重なデータを得られたが、まだまだ十分な検証を行えたとは言いがたいので、引き続き今後の検証に役立てたい。
 一般的に、住民アンケートの回収率は郵送の場合、30%に達すれば成功に分類される。今回も、ワーキンググループの希望的観測で配布枚数を決定し、結果の誤差が設定範囲内(95%確率で最大15%以内)に収まることを前提としたが、思った以上に高回収率になり、集計する上では非常に嬉しい悲鳴であった。やはり、市町村合併に対する住民の期待や不安が回収率に表れたものであろうか。
 また、市町村合併に関する感想を自由に記入していただく欄を設けたところ、非常に多くの住民から様々なご意見を頂いている。本報告書ではその集約結果を報告・検証するに至らなかったが、機会があれば、より詳細な検証を行うことと併せて、少しでも市町村合併を果たした自治体の一助になれば幸いである。

(資料)アンケート基本データ
住民アンケート集計結果
調査対象
配布枚数
回収枚数
回収率
いなべ市
142
45
32%
伊賀市
152
32
21%
亀山市
142
32
23%
桑名市
143
28
20%
四日市市
149
23
15%
志摩市
161
36
22%
松阪市
141
39
28%
大紀町
152
36
24%
1,182
271
23%
職員アンケート集計結果
調査対象
配布枚数
回収枚数
回収率
いなべ市
52
50
96%
伊賀市
51
27
53%
亀山市
47
34
72%
桑名市
50
37
74%
四日市市
52
22
42%
志摩市
50
44
88%
松阪市
51
45
88%
大紀町
44
28
64%
397
287
72%

【住民アンケート集計結果】

【職員アンケート集計結果】