【自主レポート】

第37回土佐自治研集会
第5分科会 人口減少社会をどう生き抜くか!?

 高齢化や後継者不足などにより衰退していく地域農業の活性化に向けた取り組みとして、自治体の多面的機能支払制度の活用による「地域資源保全活動」の取り組み報告。



多目的機能支払交付金を活用した地域の活性化


大分県本部/豊後高田市議会議員 中尾  勉

1. はじめに

 私の住んでいる豊後高田市は、国東半島の西側に位置しており、北は周防灘に面し、豊かな自然と山間部及び海岸部の自然景観や農村集落景観、六郷満山文化にゆかりの史跡等、歴史文化などの地域資源が豊富なところです。
 今回、中津市で開催される自治研集会では、地域資源が豊かな私の故郷で、昨年、地域の皆さんと取り組んだ「地域資源保全活動」について報告します。
 私は、2014(平成26)年11月まで豊後高田市の職員として38年間水道行政を担当し、地域の自治会副会長、PTA会長として、地域活動にかかわってきました。このような活動を続ける中、2015(平成27)年の2月には、地域の皆様のご支援を頂き市会議員に初当選させていただきました。このことを契機に、地域に恩がえしがしたいという強い思いが、さらに増してきたところであります。
 そこで、地域農業の現状を私なりに調べてみました。結果としては、全国的な状況と違わず、高齢化で田畑の管理ができないということや、後継者がいないなどの理由から衰退していく地元の状況が見えてきました。この状況について、何か支援ができないのかと考え、豊後高田市の多面的機能支払交付金を活用すれば、地域農業の改善や農業資源を地域で保全できると確信したところであります。
 早々に地元、界地域の自治会(犬田地域・白石地域・楢林地域)の役員と協議を行いました。当初協議の中で地権者と耕作者の関係、水利組合の調整、組織の立ち上げ、複雑な事務処理等問題は山積し、地元の方々から理解が得られるのかが心配されましたが、結果としては地域の皆さんに歓迎され、多くの皆様が参加されています。(草刈り、空き缶拾い、水路の泥上げ)

2. 「界地域資源保全会」の設立と目的

 界地域の水田については、水はけの悪い水田、曲がりくねった農道、改修されていない水路、それはそれで里山としての景観は保てていたと思います。1977(昭和52)年地域の強い願いで圃場整備が認可され、水田は見違えるように生まれ変わりました。
 しかし、機械化は進むものの後継者不足や高齢化により、地権者が耕作できない状況に陥りました。今は、20haを7人での耕作にまで減少しています。溜池や用水路、排水路の草刈り等維持管理が耕作者への負担となり、耕作放棄地、有害鳥獣被害等が増大すると考えられます。今ここで組織を立ち上げなければ地域農業の資源保全はできないと考え活動を起こしました。

3. 多目的機能支払交付金事業支援内容

(1) 交付金の使途
 本交付金は、活動を実施するための必要な機械等の購入、参加者への日当等に利用できます。基本的な用件は①多面的機能の発揮に貢献、②地域の共同活動、③計画に位置づけた農地・水利施設に係る維持管理に資することです。最低限のル-ルは市で示しますが、基本的に地域で使途を決めることが可能です。但し、要件を満たさないもの、個人的な営農に関するもの、宴会等については活用不可です。

(2) 事務作業
 本交付金により、共同作業を行うために、①活動組織の設立、②活動計画を作成、③総会で承認を得る必要があります。また、実際に共同作業を行ったときの、活動記録、活動に支出したお金の金銭出納簿等の事務作業が発生します。
 事務作業については、地域の経理経験者等(非農家もOK)の協力が必要です。また、規模の大きい組織については、事務作業の委託(上限:交付額の1割程度)も可能です。

(3) 多面的機能支払制度内容
 農業者による組織が取り組む、水路の泥上げや砂利補充等の基礎的保全活動や農村の構造変化に対応した体制の拡充・強化等を支える共同活動、地域住民を含む組織が取り組む、水路、農道等の軽微な補修や植栽による景観形成等の農村環境を保全する共同活動、施設の長寿命化のための活動を支援する。
① 農地維持支払
 活動内容:農地法面及び農道や水路などの施設草刈、農道砂利補充、水路の泥上げ等
② 資源向上活動(共同活動)
 活動内容:上記活動と併せ、水路、農道、ため池の軽微な補修、植栽による景観形成
③ 資源向上活動(長寿命化)
 活動内容:農地周りの農業用水路、農道などの施設の長寿命化のための補修・更新

(4) 多面的機能支払制度の概要
※ 別紙資料参照
 事業の対象……界地域資源保全会構成員(農業耕作者・地権者・自治会・子ども会)

(5) 多面的機能支払制度事業計画
① 3月 定期総会
② 4月 計画策定・機能診断・点検
③ 5月 植栽の整備・草取り
④  〃  農道、水路、ため池等施設の草刈り・泥上げ
⑤ 8月 自治会、子ども会との空き缶拾い
⑥ 10月 農道、水路、ため池等施設の草刈り・泥上げ
⑦ 11月 ため池堤防敷草刈り
⑧ 2月 排水路周辺の木の伐採

(6) 期待される効果
 農業・農村は、国土の保全、水源の涵養、自然環境の保全、良好な景観の形成等の多面的機能を有しており、その利益は広く国民が亨受しています。
 しかしながら、近年の農村地域の過疎化、高齢化、混住化等の進行に伴う集落機能の低下により、地域の共同活動によって支えられている多面的機能の発揮に支障が生じつつあります。また、協働活動の困難化に伴い、農用地、水路、農道等の地域資源の保全管理に対する担い手農家の負担の増加も懸念されています。
 このため、農業・農村の有する多面的機能の維持・発揮を図るための地域の共同活動に係る支援を受けることにより、地域資源の適切な保全管理が推進され、また、これにより、農業・農村の有する多面的機能が今後とも適切に維持・発揮されるとともに、担い手農家への農地集積という構造改革の推進ができます。
 さらに、自治会、地域の子ども会とも連携し、啓発活動、環境美化運動を行うことにより、自分たちが保全していくという意識をさらに向上していくというものと思います。

(7) 事業の問題点と課題
 農地・水制度よりは書類の数は減ったものの取り組みのレベルは高くなっています。活動日誌、事務日誌、現金出納簿、共同活動、写真等、事務担当者は書類の数が多すぎるため取り組みにくいという意見もあります。また、交付金の活動項目に制限が多すぎるのも問題です。例えば、水路の目地補修、未舗装農道の砂利での補修は認めているが、コンクリート舗装に要する費用は認められていないのが現状です。
 会計検査の対象となることから担当職員の指導もあり、組織で書類を作成することが難しいとの声もあります。組織内の役員構成を見ても農業者、自治会の代表等年齢層は、60代から70代の方が中心となっており、パソコンの使用にも問題があります。
 事業の実施状況調査等市町村が実施するパターンがほとんどで、自治体も職員が減少している中で通常の業務以外に煩雑な実態調査の確認を行うのは限界であると思います。
 これからのことを踏まえて、申請書類等の簡素化、簡略化も必要と思います。

4. おわりに

 前述のとおり、この交付金を活用することにより、今までは耕作者だけで行っていた草刈り、水路やため池の維持管理が地域の方々が加わることにより、耕作者の負担軽減につながっています。また、環境保全についても、地域の子ども会と連携して、空き缶拾い、花いっぱい運動にも取り組め、地域コミュニティの確立、出会いの場の提供にもつながっています。
 しかし、現状は交付金の要件である事務作業は、パソコン経験がなく、事務作業もしたことがない高齢の方には非常に難しいものとなっており、地区として制度の活用を続けたくても続けられない状況が生まれてくることを危惧しています。
 高齢化社会の中で農地という地域資源を護り、地区の人と人とのつながりも護っている方たちのために、行政上必要な文書を除き、持続可能な制度となるよう申請書類の簡略化・簡素化をぜひ進めていただきたいと考えています。
 実際に制度を利用している皆さんが利用しやすい・続けていける制度としていくことで、地域農業の改善や農業資源を地域で保全でき、それにより、人と人とが繋がることで、小規模集落の維持・持続的な発展につなげていくことができると確信しています。