実 効 あ る 訓 練 を 求 め て
― 第9回福島県原子力防災訓練検証行動報告から ―

福島県本部/自治研原発部会

 

1. はじめに

 わたしたち自治労福島県本部自治研原発部会は、3年前の1997年、第8回福島県原子力防災訓の検証行動を初めて実施し、訓練内容が極めて現実離れをしていることを確認しました。そして、その後の対県交渉で5点について申し入れを行って来ました。
 昨年9月30日に起こった東海村JCOでの臨界事故では、やはり問題視していたことが現実のものとなりました。対策本部の立ち上げ、通報の遅れ、避難の遅れなどが言われ、村職員が平服でJCO事業所に防護服を届けるなど、役場内が混乱していたことを示しています。
 今回の第9回福島県原子力防災訓練は、当初昨年11月に実施される予定でしたが、東海村JCO臨界事故の影響で、その訓練内容の変更を余儀なくされ、今年2月の実施となりました。
 訓練内容の変更点は、「事故発生から避難開始までの時間が短縮されたこと(前回は事故発生から4時間後であった)」「新たに中性子線の測定を訓練に加えたこと」で、より現実的な訓練内容となっているのか、大変重要な訓練と言えました。
 住民の1人として、自分のそして家族の生命を守るために、より良い原発防災訓練をめざして浜総支部と共に検証行動を取り組みました。

2. 防災訓練の内容

(1) 訓練の進行概要

2月3日(8時20分)

東京電力福島第二原子力発電所2号機で事故発生

(8時30分)

事故発生通報(東京電力福島第ニ原子力発電所→県・町)

(9時10分)

現地対策本部設置(県庁、県原子力センター、町)

(9時25分)

住民避難広報

2月4日 9時45分

集会所出発

2月4日 9時50分

第1回現地対策本部会議(県)「事故状況の確認など」

10時15分

国の専門官到着

10時20分

モニタリング評価

10時25分

第2回現地対策本部会議(県)「防護策の決定」

10時40分

町対策本部         「防護策の詳細決定と実施」

10時50分

県現地対策本部楢葉町(避難所)へ移動

11時50分

防護対策等の状況報告

11時55分

閉会式

12時05分

訓練終了

(2) 主な訓練内容
 ① 事故発生から初期動作の確認訓練(2月3日)
 ② 現地対策本部会議開催訓練(2回開催)
 ③ 立ち入り制限訓練
 ④ モニタリング訓練
 ⑤ 医療訓練
 ⑥ 避難訓練

3. 検証行動の記録

(1) 県災害対策現地本部(県原子力センター)
 ● 今回の訓練では、通信訓練、災害対策本部設置準備を前日に分けて行っていたので、対策本部設置訓練(電話、会議用机・椅子、OHP機器等の設置)の内容については確認できなかった。
 ● スタート(マスコミがいたとき)時には緊張感があったが、その後は緊張感に欠けていたように感じた。
 ● 大型スクリーンで各種説明をしていたが、避難地区の指定範囲が、スクリーン上に映し出すことができなかった。(ソフト開発が必要か)
 ● 会議の内容は住民への防護対策の説明が中心であった。

(2) 町災害対策本部(楢葉町正庁)
 ● 対策本部の設営は既に済んでいた。
 ● 消防団は既に集合していた。また、対策本部員(課長等)も待機済みであった。
 ● 対策会議の内容は、指示と報告のみで対策の内容については話がなかった。
 ● 実にスムーズに進行していた。
 ● サンダル履きの課長もいた。
 ● 自分の担当部署への指示は、シナリオどおりに正確に行っていたが、なぜそのような指示をするのか、理解していないような発言もあった。
 ● 住民などからの電話対応の訓練が行われていない。

(3) 避難先(楢葉町保健センター)
 ● 避難所の設営は既に済んでいた。
 ● 予定時間より早く避難者輸送用のバスが出発していた。(予定時間まで待ってるよりは良いが)
 ● 炊き出しの訓練はなく、保健センター内で水、ドロップ(アメ)、非常保存食を配っていた。
 ● 避難住民をスクリーニングの後、汚染者と非汚染者に分ける訓練は行われていたが、今回は全員非汚染者という設定で、浄染はしていなかった。
 ● ヨウ素剤の服用について説明はしていなかった。
 ● 町対策本部との通報訓練はスムーズに行われていた。
 ● 避難住民への事故状況の説明はなかった。
 ● 負傷者でない者・治療を終わった者の、その後の避難について説明がなく、これらの人々は、行き先が分からず困惑していた。
 ● 防護服を着用していたのは警察官のみであった。(警察署が独自に用意)町職員、消防団員は未着用(住民が着用していないので、町の関係者だけが着用する訳には行かないとのこと)

(4) 避難地区(楢葉町波倉地区)
 ● 住民広報の方法は、防災無線、広報車による広報の2つの手段を使っていたが、防災無線は、車外・車内とも聞き取りづらく、特に車内にいては聞き取れなかった。
 ● 広報の以前から避難住民が集会所へ集まって来ていた。
 ● 道路に立って住民を誘導していた消防団員の服装は、消防用ハッピを着用していた。
 ● 避難住民を乗せたバスが出発しようとしたところ、前から軽自動車がやってきて道をふさいでしまった。
 ● バスや福祉用ワゴン車には、運転手しか乗車して居らず、避難所へ着いた後の行動が分からず、ウロウロしている場面があった。

4. 検証行動から明らかになったこと

(1) 「各種データ収集について」
  事故発生から対策本部の立ち上げ、避難決定、住民広報から避難完了までなどの所要時間などのデータ収集も訓練の主要な内容だと思うが、実際にそのようなことが行われていたのか。県当局は、第3者的立場の検証者を配置していたというが、住民の声を含めて生かされているのか疑問である。

(2) 「避難地区の住民集合場所の指定について」
  特に、楢葉町の集会所は、集合場所としては不向きであった。集会所が高台にあることから、体の不自由な車椅子に乗らなければならない人は集合しずらいし、避難路も道が狭くバスが立ち往生するシーンもあった。訓練に当たっては地理的条件等を考慮し、集合場所を指定すべきだし、日頃十分に検討しておくべきである。

(3) 「住民広報(避難広報)について
  防災無線による広報、広報車による広報とも大変聞きづらかった。訓練だと分かっているから広報内容どおり住民は行動するが、果たして現実にはどうか大変心配な所である。広報手段について改善の必要がある。

(4) 「防護服について」
  防護服を着用していたのは警察官のみであった。防護服はどこにあるのか、どのように配布して、だれに着用させるのか、これら訓練も必要である。

(5) 「町対策本部について」
  防護策の詳細を決定する任務があるにもかかわらず、会議の内容は報告と指示のみで対策が協議されたとは思えない。具体的な対策協議の訓練が必要である。

(6) 「県現地対策本部会議について」
  立ち入り禁止区域や避難地区をスクリーンに映し出すことができなかった。今回は事前の知識があるので会議は進行したと思うが、現実に起こった事故の際には会議にならないのではないだろうか。会議参加者の認識を一致させるためにも技術的な改善が必要である。

(7) 「役場職員等の訓練について」
  実際の事故発生の際には、消防団員や役場の職員が最前線で活動することになる。
  これらの人々の知識修得も含め十分な訓練が必要である。

(8) 「県原子力センターの現地対策本部機能について」
  原子力にかかわる唯一の県の出先機関である県原子力センターは、日頃の監視業務を中心任務としている。従って、災害発生時の現地対策本部機能は、その設備、立地条件(ヘリポートがない、前面道路が狭いなど)を含め不十分である。国のオフサイトセンター設置の動きと連動しての機能強化が必要である。

5. まとめとして

 「何を言っても訓練だから、訓練だからってふざけんな」こんな声が、地元行政区長から現場で出されていました。今回もまた、「訓練として成功させるため」の訓練になってしまいました。「これはあくまでも訓練なんです。本当に事故が発生したらこのようには行きません」もしかしたら、この訓練に参加している関係者の基本的な認識なのかも知れません。
 現実に原子力災害が発生すれば、予測不可能な混乱が生じると思います。それらに100%対応できる訓練の実施を求めることは不可能かも知れません。しかし、「原発で事故が起こったらもう終わり」こんな認識で、防災訓練を実施されては大変な事です。原子力による発電をやめることがわたしたちの目標ですが、当面動いている原発への対応としては、原子力防災がわたしたちの生命を守る最後の砦です。今後とも防災計画・防災訓練の問題点を洗い出しながら、実効性のある原子力防災計画・訓練を求めて行かなければなりません。

(資料1)

平成11年度福島県原子力防災訓練実施要領

1. 目 的
  本訓練は、福島県地域防災計画及び原子力発電所周辺関係町の地域防災計画に基づき、緊急時における原子力防災関係機関相互の有機的な連携体制の確立及び防災業務関係者の防災技術の習熟並びに地域住民の原子力防災意識の向上及び原子力防災に対する理解を図ることを目的に実施する.
2. 主 催
  福島県、楢葉町、富岡町、大熊町、双葉町、浪江町、広野町
3. 訓練実施日
  平成12年2月3日(木) 9時20分~10時35分
             4日(金) 9時40分~12時05分
4. 主会場
  楢葉町、大熊町、富岡町及び訓練実施機関所在地
5. 参加機関、団体等
  科学技術庁、科学技術庁福島原子力連絡調整官事務所、通商産業省資源エネルギー庁、自治省消防庁、科学技術庁放射線医学総合研究所、海上保安庁第二管区海上保安本部、小名浜海上保安部、陸上自衛隊第6師団、陸上自衛隊第44普通科連隊、福島県警察本部、富岡警察署、浪江警察署、福島県教育庁、日本原子力研究所、核燃料サイクル開発機構、日本赤十字社福島県支部、双葉地方広域市町村圏組合消防本部、(社)福島県医師会、(社)双葉郡医師会、(社)福島県放射線技師会、日本放送協会福島放送局、福島テレビ㈱、㈱福島中央テレビ、㈱福島放送、㈱テレビユー福島、㈱ラジオ福島、㈱エフエム福島、㈱福島民報社、福島民友新聞㈱、㈱朝日新聞社福島支局、㈱毎日新聞社福島支局、㈱読売新聞社福島支局、㈱日本経済新聞社福島支局、㈱産経新聞社福島支局、㈱河北新報社福島総局、(社)共同通信社福島支局、㈱時事通信社福島支局、東日本電信電話㈱、楢葉町消防団、楢葉町婦人消防隊、広野町消防団、富岡町消防団、大熊町消防団、東京電力㈱
6. 訓練基本想定
  平成12年2月4日8時20分、東京電力㈱福島第二原子力発電所内2号機は、定格出力で運転中、冷却系に異常が発生し、原子炉が停止した。
  この異常事態により排気筒から周辺地域に放射性物質が放出され、周辺環境(楢葉町(波倉地区、繁岡地区))及び富岡町(毛萱、上郡山字太田)に及ぶおそれがあるため、福島県、関係6町及び原子力防災関係機関は、原子力災害対策計画に基づく防災対策を実施する。(風向は、東北東の風、風速2m/sで、防護対策地区を排気筒を中心に1.5km以内の全方位及び1.5kmから4km以内で風下方向を中心に45度の範囲内で設定する。)
7. 主な訓練内容
 (1) 2月3日(木)
   事故発生からの初期動作の確認
   各機関との事故情報の伝達及び初動時における応急対策の準備
 (2) 2月4日(金)
  ア 現地本部会議(2回開催)
    事故状況を確認し、それぞれの班の応急対策活動が始まるまでの指揮、モニタリング結果等による防護対策の決定及び各機関への指示
  イ 立入制限
    国の専門家の助言を受け訓練対象地区における陸上及び海上の立入制限の実施
  ウ モニタリング
    第1段階モニタリングを実施
  エ 医療
    救護所におけるスクリーニング、一次医療、除染、及び事業所からの被ばく者の搬送
  オ 避難
    訓練対象地区の住民に対する避難所運営及び啓発
         避難住民  楢葉町(波倉地区及び繁岡地区    約100人)
                    富岡町(毛萱地区及び上郡山字太田  約50人)
8. 訓練の中止
  次の事態が発生した場合は、訓練を中止する。
 (1) 県内に災害が発生し又は発生するおそれがあり、その対策を要するとき。
 (2) 県内に警報が発表され、その対策を要するとき。
 (3) その他異常現象の発生により、対策を要するとき。

 

(資料2)

平成11年度福島県原子力防災訓練日程概要

Ⅰ 平成12年2月3日
1. 通信訓練、災害対策本部設置準備等
  訓練場所 関係各機関              訓練時間   9時20分~10時35分
Ⅱ 平成12年2月4日
1. 福島県現地災害対策本部
  訓練場所 福島県原子力センター     訓練時間   9時40分~10時50分
  訓練内容
  ① 第1回現地災害対策本部会議                9:50~10:05
  ② 第2回現地災害対策本部会議               10:25~10:40
     楢葉町へ移動                            10:50~
2. モニタリング                        訓練時間  9時10分~10時50分
  ① 情報収集・線量評価 県原子力センター研修室    9:10~
  ② 陸上サーベイ(中性子線測定〉
     測定地点 楢葉町波倉字細谷地内           9:40~9:50
           富岡町下郡山字下郡地内           10:00~10:10
  ③ 空中サーベイ(自衛隊ヘリによる空間γ線量率測定)
     ヘリポート 大熊町総合グランド                10:10~10:40
  ④ 海上サーベイ (小名浜海上保安庁巡視船(小名浜より出港)による空間γ線量率測定、海水放射線濃度測定)
     測定地点 発電所沖合 2㎞                 10:00~11:00
  その他 試料採取、測定を行う。
3. 交通規制
   訓練場所  東京電力㈱福島第二原子力発電所半径4km周辺の主要交差点22箇所
            (警察官の配置のみで交通規制は実施しない)
                                    訓練時間 10時05分~11時30分
4. 住民避難
 (1) 楢葉町
   訓練場所 楢葉町波倉及び繁岡地区    訓練時間    9時35分~10時00分
   ① 住民広報(集会所避難開始)                 9:35~
   ② 集会所出発                              9:45~
      楢葉町の訓練は、避難所における住民のスクリーニング、問診等実施のため時間を繰り上げて実施します。
 (2) 富岡町
   訓練場所 富岡町毛萱及び太田地区  訓練時間 10時40分~11時00分
   ① 住民広報 (集会所避難開始)              10:45~
   ② 集会所出発                            11:00~
5. 避難所
 (1) 楢葉町
   訓練場所 楢葉町保健福祉会館      訓練時間 10時00分~11時50分
   (避難住民に対する説明会                     10:00~10:30  講師 放射線技師会)
    被災住民登録                            10:30~
 (2) 富岡町
   訓練場所 富岡町文化センター       訓練時間 11時20分~12時20分
   (避難住民に対する説明会
     講師 放射線医学総合研究所放射線障害医療部 主任研究官 平間 敏靖)
6. 医療活動
 (1) 救護活動                       訓練時間 10時10分~11時50分
  ① 避難住民の汚染検査及び問診 (負傷者治療を含む)
     訓練場所 楢葉町保健福祉会館              10:40~11:50
  ② 防災関係者汚染検査
     訓練場所 楢葉町町民体育館                 11:30~11:50
 (2) 緊急時医療活動              訓練場所 県検査除染施設 (県原子力センター裏)
                                     訓練時間 10時40分~11時30分
  ① 福島第二原発から負傷者搬送                10:50~
  ② 除染検査                                 11:15~11:30
7. 閉会式
  訓練場所 楢葉町役場駐車場          訓練時間 11時55分~12時05分
注意 訓練時間は予定ですので、ずれる場合があります。

原子力防災訓練 訓練位置図

脱原発情報(2000.2.5 No.30)

新聞記事(2000.2.4 / 2000.2.5)