2026/04/01
「地方公務員アワード」を受賞した福井県・鯖江市に勤務する横井直人さん(写真右)。彼の活動の原点は、労働組合の青年部活動にあった。地域での挑戦を重ね葛藤や迷いを経る中で見えてきた「つなぐ」という役割。華やかな取り組みの裏にあった気づきと転機とは何か。松江市職員ユニオン新人書記・山田空さん(写真左)が、今年入庁した組合員に届けたい思いを聞いた。
働くことを支える まちを支える
❝みなさんの思いを受け止める労働組合は『安心の土台』です❞ 横井
❝横井さんは「人と人をつなぐ」マッチングアプリみたいです❞ 山田
山田 「地方公務員アワード」(関連記事:8 面)受賞おめでとうございます。若い頃から地域でいろいろ活動されてきたそうですね。始めたきっかけはなんですか?
横井 始まりは組合の青年部の時です。当時は組合って正直、「賃金や労働条件の交渉」が中心に見えて、ちょっとモヤモヤしてたんです。税金で働いてるのに、自分たちのことだけ言うのは違和感があって。
そこで青年部だけであいさつ運動を市内の駅前とか人が集まる場所でやったら、新聞にも載って、「市役所に面白いやつがいる」って市民の方から声がかかるようになったんです。やってみたら、人や物事が動くのが楽しくて。
山田 始まりは労働組合だったんですね!そこからさまざまなことにチャレンジされてきた。
横井 そうですね。「ハンドメイドマーケット」や「音楽ライブイベント」とかいろんなことにチャレンジしました。「鯖江市役所 JK課」も、実は立ち上げに関わったひとつです。いろんな人を繋いで点と点が線になっていく感じで、自分の活動が大きなうねりになっていく楽しさを知った時期ですね。
例えばハンドメイドマーケットは、市の事業として実施する予定でいました。しかし、事情により実施できなくなり困っていました。そこで当時、市議会議員でもあった現在の市長に相談したところ、「一緒にやろう」と声をかけてくれて、別イベントと抱き合わせで実現しました。“相談してみると道は開ける”という感覚をつかんだのもこの時かもしれません。
イベントを通じて人脈が広がり、やがて地域の課題解決へと活動は広がっていきました。子どもの居場所づくり、文化イベント、空き家対策など、何でもやりましたね。
やがて、地域内外から「横井に聞けば何とかなる」と言われるようになりました。たくさんの相談が来るようになって、「大変だなー」って思う時もありました。でも相談してきた人を放っておけないし、動かなかった後悔の方が大きい。だからすぐに行動して、いろんな人を巻き込んで、相談してきた人の想いを実現させるために動いてきましたね。
山田 それが公務員アワード受賞につながったんですね。
横井 そうですね、ありがたいことに。審査員からは「人と人をつなぎ、仕組みとして地域に根づかせてきた点」が評価されたと聞いています。単発企画だけではなく、継続し、周囲を巻き込み、地域に残る形をつくってきたこと。でも最初は受賞をためらいました。自分より、もっと地 道に地域を支えている職員がいると思っていたからです。
山田 そうしたことを感じる出来事があったんですか。
横井 技師として学校を回っていた時に、水道の水をずっと飲んでる子がいて。教頭先生に聞いたら「あの子は家でご飯が食べられず、給食しか口にできないんだ」って。目の前に突きつけられた「貧困」の現実に、言葉を失いました。それまでの自分の活動からは見えなかった世界に、強いショックを受けました。
もう一つは宿直での経験です。住民からの生死に関わる深刻な相談が入って、福祉部門のケアマネにつないだら「こちらで対応しますよ」と、あっさり問題を解決したんです。その姿は、市長に褒められるような派手な活動をしている僕より、何百倍もカッコよかった。
山田 視点が「外」から「内」へ、動いたイメージですか。
横井 そう。ちょうどそのタイミングで組合の役員になって、最後は執行委員長も経験しました。仲間の「困りごと」を吸い上げることに注力し組合員の労働環境を守るために即座に動く。職場に残る古い慣習の見直しなど、地道な改善を重ねて、地域を支える職員の働き方を少しでも良くするよう努力しました。
青年部の時にはわからなかった労働組合の意義を実感しましたし、僕が外で培った「伝える力」の使い道だと思いました。だから今の僕の役割は自分が主役になることではなく、仲間のために「人と人をつなぐ」ことだと思っています。
山田 鯖江市のマッチングアプリ・横井みたいな(笑)
横井 確かに、そんなイメージかも(笑) 外で培った膨大な人脈や全国のネットワークを、住民同士、また市役所内でも繋げる。自分の持っているリソースを貸し出し、地域住民が誇れるまちをつくる手助けをしたいし、市役所を働きやすい職場にしていきたいですね。
山田 最後に若い組合員へのメッセージをお願いします。
横井 地域づくりでも職場づくりでも、「こうなればいいな」という思いが生まれたら思い切ってやってほしい。自分で動きづらい場合は動ける人を見つけて託せばいい。
労働組合は、そんな皆さんの思いを安全に受け止める「安心の土台」であり、第三の居場所です。皆さんが豊かな公務員生活を送れることを心から応援しています。
Profile
横井 直人(よこい・なおと)さん
79年生まれ。2007年に福井県鯖江市に入庁し、技師として勤務。「鯖江市役所JK課」の立ち上げ、地域イベントや子どもの居場所づくりなど、市民と行政をつなぐ実践を重ねる。労働組合では執行委員長を務め、職場環境の改善にも尽力。人と人を結び、仕組みとして地域に根づかせてきた取り組みが評価され、地方公務員アワード2025を受賞。
山田 空(やまだ・そら)さん
島根県・松江市職員ユニオン書記。2025 年 4 月採用。明るく人懐っこい人柄で組合員から親しまれている。「何事も楽しく、クヨクヨしない」ギャルマインドを大切に、現場を前向きに駆け回る。Mrs. GREEN APPLE の大ファンでライブ鑑賞と、旅先での買い物が元気の源。
※対談の様子を自治労公式You Tubeでも配信中!
⇒https://www.youtube.com/shorts/fBUa7xjrMpQ
(株)BeOneからアドバイス 小さな工夫の積み重ねが公務員人生を変えていく
丹羽野 真也(にわの・しんや)さん
(株)BeOne 代表取締役 国家資格キャリアコンサルタント
元松江市職員ユニオン書記長。公務員のキャリア支援事業を展開。
仕事を自分のものとして捉えなおす
公務員の仕事は、社会のセーフテ ィーネットを支える大切な仕事であり、どれも暮らしに欠かせません。ミスは許されず、法令や前例を重んじる性質上、新しいことに挑戦しにくい面もあります。事務分掌で役割が区切られ、「仕事はこなすもの」と感じることもあるでしょう。
しかし、仕事は与えられるだけのものでしょうか。私は、もっと主体的に捉えなおせるものだと思います。そのヒントが「ジョブクラフティング」という考え方です。仕事のやり方や人との関係性、意味づけを工夫すること。小さな改善や意識転換が、仕事を「やらされ」から「自分事」へと変えていきます。
もちろん法令は守らなければなりません。それでも、説明を工夫する、業務の流れを見直す、後輩との関わりを変えるなど、できることはあります。その一歩が納得感を生み、経験は次の挑戦につながります。
そして、忘れてはいけないのが、私たちは一人ではないということです。現場の働き方は時代に合わせて見直す必要がありますが、その課題に気づけるのは現場にいる人です。
だからこそ、労働組合があります。労働組合は、現場の声をすくい上げ、安心して意見を出せる土台をつくり、よりよい働き方へとつなげていく存在です。個人の小さな声を仲間の声へ、組織や社会へ届ける橋渡し役です。
自分でできること、仲間とできること。その積み重ねが地方自治を支える力になります。仕事も人生も、少しずつでも楽しく。その工夫を今日から始めてみませんか。
HOLG代表・加藤さんが語る 地方公務員アワードに込めた思い
加藤 年紀(かとう・としき)さん
株式会社ホルグ代表取締役
地方公務員を応援するメディア運営と、地方公務員アワードを主催。
公務員の工夫や頑張りを役所の外にも伝えたい
私が地方公務員アワードを続けている理由は、とてもシンプルです。地方公務員の仕事は暮らしを支える大切な営みなのに、その工夫や頑張りが役所の外にはなかなか伝わりません。だからこそ、公務員以外の人に「こんな素敵な公務員がいる」と知ってもらう機会を増やしたいと思っています。
当初から意識してきたのは、インフラや福祉など、いわゆるセーフティーネットを支える領域です。派手さはなくても、日々の改善や地道な工夫で地域を支えている人たちがいる。
一方で、新しい挑戦が目立つというだけで誤解される場面もあります。だから私は、見え方ではなく「住民のたに何をしようとしているのか」という視点で、地味でも派手でも応援される場をつくりたいと考えてきました。
今回、横井さんが選ばれたのも、その延長線上にあります。市民に寄り添い、人をつなぎ、続いていく形を育ててきた歩みが、共感を集めました。
ただ、全ての職員が横井さんのように活動する必要があるとは思いません。大きなプロジェクトを動かすことだけが価値ではないからです。それぞれの持ち場で、住民の声に耳を傾け、今ある仕事を少し良くしようと考えることも、十分に尊い営みです。
小さな工夫を重ね、その積み重ねが周囲との信頼を生み、やがて自分なりの挑戦へとつなが っていきます。派手でなくて構いません。自分にできる範囲で、身近な世界を少しずつ良くしていく。その姿を社会に届け、応援する存在でありたい。それが、このアワードに込めた思いです。
鯖江市の紹介
めがねフレームの生産は全国の約96%
横井直人さんが勤務する福井県鯖江市は人口約6.8万人。日本のめがねフレーム生産の約96%、世界でも約20%のシェアを持つ。またオープンデータを活用した「データシティ鯖江」の推進や、女子高校生視点によるまちづくりプロジェクト「鯖江市役所JK課」の設置など、地域活性化にむけた新たな自治体モデルで知られる。
福井ご当地B級グルメ情報
豊かな自然環境に恵まれた福井県は、四季折々の魚、肉、米、酒を楽しむことができる。越前がに、若狭ぐじ(甘鯛)など高級品ではなく、ここでは庶民の味=B級グルメを紹介しよう。
取材協力店:「味見屋」(福井県鯖江市本町2-2-19 TEL:0778-51-0449)
黒っぽくやや太めの田舎そばに、大根おろし、ネギ、かつお節をのせ、ダシをぶっかけて食べる。一乗谷を拠点とした戦国大名・朝倉孝景が、短期間で収穫できるそばを籠城用食糧としたことが始まりとされる。
オムライスの上にトンカツ、ソースがたっぷりかかった、福井県武生(現・越前市)生まれのご当地グルメ。「見た目が火山(ボルケーノ)のよう」「ロシアの卵料理ボルガにちなむ」など、名前の由来や発祥には諸説ある。
(機関紙じちろう2026年4月15日号より転載)







