【戦後80年・最終回】国民を監視し沈黙強いる スパイ防止法にNOを

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【戦後80年・最終回】国民を監視し沈黙強いる スパイ防止法にNOを

2025/12/15

2013年弁護士資格取得。秘密保護法対策弁護団の事務局長を担う。横浜合同法律事務所所属。労働事件では労働者側に特化。

就任早々、「台湾有事」をめぐり物議を醸している高市早苗総理。「自民・維新連立」内閣が制定をめざすという「スパイ防止法」とは何か。海渡双葉弁護士に聞く、《戦後80年の現在地》を問う連載の最終回。

 「スパイ防止法」制定の議論が急浮上しています。自民党と日本維新の会の「連立政権合意書」に盛り込まれ、現実味を帯びてきました。
 高市さんは総理就任前からスパイ防止法の制定を唱えています。また参院選挙では参政党の神谷宗幣代表が、「公務員で極端な思想の人たちは辞めてもらう。これを洗い出すのがスパイ防止法」と述べています。
 

あいまいな「スパイ行為」の定義 拭い切れない人権侵害のおそれ

 
 法案はまだできていませんので、「連立合意書」や推進派の言動などから、問題点を見てみます。
 推進派は「スパイ活動そのものを取り締まる」と言いますが、「スパイ活動」とは具体的に何を指すのかが、あいまいです。定義の仕方によっては、反戦運動や政府批判も処罰対象になりかねません。戦前の「治安維持法」と同じですね。神谷代表の発言は、特にその危惧を強く感じさせるものです。
 「連立合意」にある「外国代理人登録制度」というのも、きな臭いです。アメリカで韓国政府の関係者に取材してその情報を雑誌に載せた専門家が「外国代理人」とされ、登録していなかったために起訴された事案があります。「代理人」の概念があいまいで、濫用のおそれがあります。ジャーナリストや国際NGOの人は、外国政府の人に接触するのは当たり前ですから、それをスパイ行為だと言われかねません。
 なお8月15日、石破内閣は参議院での「『日本はスパイ天国』なのか」との質問主意書に対して、そうとは考えていないとする答弁書を閣議決定しています。スパイ防止法を制定する立法事実はないと言わねばなりません。
 

対外緊張煽る情報機関の創設も 「新しい戦前」への道許すな

 
 公安警察などは、すでに市民に対して行き過ぎた監視活動をしており、問題になっています。岐阜県大垣市では風力発電所の建設問題の学習会を開いた市民グループを県警が監視し、メンバーの個人情報を風力発電の会社に提供していたことが発覚しました。これが裁判になり、原告が完全に勝訴しました。名古屋高裁判決(確定)は「警察による個人情報の収集・保管・提供は違法」と判じています。
 にもかかわらず「合意書」では、既存の国の情報部門を統合し、26年に国家情報局を、27年度末までに対外情報庁を作る、そして情報要員養成機関を創設するとしています。日本国家のスパイを養成したいようです。
 これらは、外国への敵愾心を煽り近隣国との緊張を高めるものです。市民に対する恣意的な監視も強まり、人権侵害の恐れが生じるでしょう。そして、国が恣意的に「秘密」を作るならば、国民の「知る権利」は失われます。
 今を「新しい戦前」にしないために、立法化の動きに注視し、反対の声をあげていきましょう。
(取材日:11月17日)
 
 
「スパイ防止法」制定にかかる高市総理の発言
◆「スパイ防止法」は、外国政府勢力によるスパイ活動を規定し、監視し、必要があれば逮捕することができる法律です(5月21日・Xへの投稿)
◆(国家情報局の創設について)与党と緊密に連携し、早急に論点を整理し、検討を進める(11月5日・衆議院本会議)
◆外国からの工作、情報の窃取も含め、日本社会の安定を乱す、民主主義を損なうさまざまなリスクに対応していく。外国人代理人制度なども含めて外国勢力から日本を守っていく(11月13日・衆議院予算委員会)
 
(機関紙じちろう2025年11月15日号より転載)

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