ウクライナ人道危機から1年 平和構築へとつながる人道支援 

ホーム > ニュース > 国際連帯活動 >

ウクライナ人道危機から1年 平和構築へとつながる人道支援 

2023/04/10

自治労はウクライナ支援に関わり「ロシアの軍事侵攻による被災者を支援する緊急カンパ」に取り組んだ。贈呈先の一つであるピースボート災害支援センター(PBV)から、カンパを財源に現地で展開している事業内容について報告をいただいた。

 一般社団法人 ピースボート災害支援センター(PBV)

 理事・プログラムオフィサー・臨床心理士 

小林 深吾 さん

 

トップ写真:避難民への緊急越冬支援の食事を提供(写真:World Central Kitchen)

今なお続く人道危機
 2022年2月24日に始まったロシア軍によるウクライナ侵攻から、1年が過ぎました。2014年に起こったクリミア半島での紛争が8年間、終息することなくエスカレートした結果、ウクライナの人道危機を招いてしまいました。国連機関の報告によると、1年にもわたる激しい攻撃によって、広範囲の地域が破壊され、ウクライナでは1万8817人の民間人が犠牲となり、数百万人が家を追われ、仕事と生活を失いました。2023年2月に入ってもなお、ウクライナ東部と南部では、激しい戦闘が続いており、発電所などの重要インフラへの攻撃もあり人々の生活は、いまだに危機にひんしています(※1、※2)。
 今後、各国の国益や思惑がうごめく中で、どのようにこの戦争を終結させていくのか、破壊された街や生活をどのように取り戻していくのか、憎しみの連鎖を防ぎ、心に刻まれた悲しみをどのように癒していくのか、そして平和の礎をどのように築いていくのか、難題が続きます。
 
人道支援が紡ぐ価値
 緊急人道支援から1年が経ち、自治労の組合員の皆様をはじめ、多くの方がご寄付などで国際機関や人道支援団体に協力いただいたこと、一人の支援者として、心より御礼申し上げます。皆様からご関心を寄せていただいたおかげで、いまでも多くの国際機関や人道支援団体が、困難にある方たちへのサポートを続けられています。
 人道支援は、危機的な状況にある方たちに手を差し伸べる緊急的な危機対応ですが、その後の平和構築に確実につながっていると信じています。人道支援にはいくつかの原則(※3)があり「国家」ではなく、「人」に焦点を当てていきます。危機的な影響を受けたすべての人々は、保護と支援を受ける権利を持っていると考えます。危機的な状況にある人は、ただ助けを求める存在ではなく、当然の権利として、社会から支援を受けられる存在です。どの国や地域にいたとしても、危機的な状況にある時は、支援を届けていく必要があります。それは国や地域を越えて、ウクライナ人道危機であっても、トルコ・シリア大地震でも、そして日本の東日本大震災でも世界中から支援が届けられました。
 いかなる支援も、公平性の原則に従って提供され、必要性の程度のみに基づいて判断されなければいけません。これは、いかなる人も年齢、性別、人種、肌の色、民族、性的指向、言語、宗教、障がい、健康状態、政治やその他の見解、国籍や社会的出自などの背景によって差別されてはならないという、非差別の原則に基づいています。
 皆様からの支援は、困難さに立ちむかうための具体的な物やサービスなどとして届けられるとともに、人が人として助けあう価値観をつないでいく原動力にもなっています。国家の理論ではなく、人を中心として尊厳が大切にされ、苦しい時には、国や地域、民族などに関係なく助けあえるという信頼を地道に耕していくことになります。
避難民むけにグループセラピーを行う
(写真:Romanian National Council for Refugees – CNRR)

 
支援団体が連携し、
多様なニーズに応える
 ピースボート災害支援センター(PBV)では、ウクライナへの攻撃開始直後から国際機関やウクライナ、そして周辺国のNGOから情報収集を開始しました。2022年3月には、スタッフ3人をルーマニアに派遣し、避難民からの聞き取り、国連機関や支援団体と協議・調整しながら支援を実施しています。現地支援団体と協働し変化するニーズに対応しながら、一人でも多くの人に支援が届くよう変化にあわせて柔軟に対応しています。
 
◆緊急物資・医療品支援
 ルーマニアに拠点を置く「ルーマニア平和研究所(PATRIR)」と協働し、ウクライナ各地の病院延べ21ヵ所へ医薬品、衛生用品、医療機器などを届けました。キーウやウクライナ西部の都市にむけて、食料品や日用品の配布、一時避難所の改装の支援も行いました。
ウクライナにむけた食料品支援(写真:PATRIR)

◆がん患者への支援
 戦争によって日常の治療を受けられなくなったがん患者への支援をしています。医療支援を実施する「Youth Cancer Europe」とともに、ウクライナ国内でがんの治療を受けられなくなったがん患者が継続的な治療を受けられるよう、ウクライナ国内の比較的安全な地域の病院や、ヨーロッパ各地の病院への転院を支援しています。病院の転院手続きだけでなく、避難の手配、患者がご家族とともに暮らせる安全な住まいの手配、食料支援や、継続的なケアなどを行っています。2023年2月までに320人以上の患者とその家族、合計700人以上を支援しています。
◆避難民支援
 ルーマニアに避難してきた方たちをサポートする「Notorious Learning Projects」が運営する支援センター「ドブラ・ハタ」を支えています。支援センターでは、戦争開始直後の避難民への直接の物資提供や生活面の支援を開始し、現在では毎日100から150家族が利用する支援拠点となっています。ルーマニアにて、長く難民支援を実施してきた「Romanian National Council for Refugees(CNRR)」とは、ウクライナ・ルーマニア国境地域での相談窓口の設置やコールセンター、法的支援や通訳翻訳サービスの提供、支援の担い手の養成講座の実施など、多岐にわたる支援を実施しています。
避難民の支援センター「ドブラ・ハタ」(ルーマニア)
(写真:Notorious Learning Projects)

◆緊急越冬支援(食料支援)
 寒さが厳しくなる中、ライフラインへの攻撃も重なり、ウクライナで生活している方たちの状況は、さらに厳しさを増しています。食料支援を専門に行う「World Central Kitchen」と協働し、2022年末から2023年にかけて、緊急越冬支援としてウクライナ国内での食事・食品(約3300食)の提供に協力しました。
◆再生医療リハビリテーションプロジェクト
 戦争による被害者は増え続け、負傷によって歩行機能を失った方も多くいます。ジョージアの病院では頭部外傷などを負った患者を受け入れ、治療とリハビリに取り組んでいます。この状況を踏まえ、広島大学大学院医系科学研究科の弓削 類教授と連携し、日本の再生医療リハビリテーションの技術を提供し、歩行機能を失った患者のリハビリ期間の短縮や早期の社会復帰をサポートします。
  戦争が終わった後も、街が再建され、家族が集い、生活が戻るまでは長い道のりです。今後も自治労の皆様からお預かりしたご寄付を活用して、息の長い支援を実施していきます。これからもウクライナの状況に関心を寄せていただき、皆様と一緒に人道的な平和の価値を届けていきます。
 
(注釈)
※1 UNOCHA:UKRAINE HUMANITARIAN RESPONSE - KEY ACHIEVEMENTS IN 2022
     Situation Report Last updated: 10 Feb 2023
         https://reports.unocha.org/en/country/ukraine?    _gl=1%2a1jw8qbd%2a_ga%2aMTYzNzA2NjA5OC4xNjYyNTUxNzUy%2a_ga_E60ZNX2F68%2aMTY3NjE4NjE 2OS4yMy4xLjE2NzYxODY0ODguNC4wLjA.
 
※2 UNHCR:Ukraine Situation Flash Update #40 (10 February 2023)
     https://reliefweb.int/report/ukraine/ukraine-situation-flash-update-40-10-february-2023
※3 スフィアハンドブック:人道憲章と人道支援における最低基準(2018)
     https://jqan.info/wpJQ/wp-content/uploads/2019/10/spherehandbook2018_jpn_web.pdf
 
 

一般社団法人 ピースボート災害支援センター(PBV)

東日本大震災を受けて「人こそが人を支援できる」を理念に2011年4月に設立。主に「国内外の災害支援」「防災・減災への取り組み」を中心に活動を行っている。これまでに海外24ヵ国、国内65地域での被災地支援を実施し、延べ10万人以上のボランティアとともに支援活動を行った。

自治労通信2023春(810号)世界をつなぐ④より転載
 

関連記事

  • 立憲民主党 参議院議員 岸まきこ
  • 参議院議員 えさきたかし
  • 自治労共済生協
  • 株式会社 自治労サービスJS
  • ろうきん

ページトップへ